ストーカーに本棚のエロ本見られた腐女子だけどなにか質問ある?
うすしお
プロローグ
「手間ぁかけさせやがって」
扉の向う側から声がしてリリアンはぱちくりとまばたきをした。背中で縛られた腕が痛い。
「そこから動くんじゃあねぇぞ」
轟音がして横を大きな固まりが通り過ぎる。バタン、とガシャン、のまじりあったような音がリリアンの鼓膜にダメージを与えた。床に破壊された扉が一枚落ちている。そのあとすぐ片割れの扉も音をたてて引き剥がされ、視界から消えた。
リリアンの目の前に扉を引き倒した腕がのびてきて体が強引に引き寄せられた。暖かい壁にぶつかり、トクントクンと一定の音が聞こえてくる。心臓の音だ。
彼女が首を動かすと頭上に見知った顔があった。黒く長いまつげに覆われた切れ長のコバルトグリーンが前方を睨み付けている。
隆弘だ。
リリアンの肩を抱く隆弘の腕に力が入り、彼の心臓の音がよりいっそう近くで聞こえる。ブチリと音がして火の付いたタバコが床に落ち、隆弘がツバを吐いた。口の中に残ったタバコの残骸を吐き出したのだろう。
「ふざけやがって」
彼は腕にリリアンを抱いたまま大きく右足を振り回した。
ドガッ、と腹に響く低い音がして何かが床に倒れ込む。先ほど自分に乱暴しようとした男だと気づいたリリアンはけれど強い力で抱きとめられているせいでその様子を見ることが出来ない。
隆弘の低い声がした。
「――覚悟しやがれ」
声と、喉を使った振動と、心臓の音が、聞こえてくる。血液の流れる音さえも聞こえてきそうで、そのほうが安心できると思えて、リリアンは隆弘の腕の力に従うフリをして彼の胸に顔を押しつけた。
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