好きな者を、好きなように食べる。

 うちの嫁さんは、猫又だ。

 好きな食べ物はいくらもあるが、特に刺身が好きらしい。猫か。


「旦那さーん、ただいまー」

「おかえり、お疲れさん」

「もー、疲れましたよ、もー。聞いてくださいよ、もー、今日上司の方からクレームが入っちゃいましてー」

「わかったわかった。食べながら聞くから。今日お刺身買ってきたよ」

「わーい、お刺身っ! わーい」


 スーツの上着を脱ぎながら、ほがらむ。可愛い。それからラフな格好に着替えて、いつものテーブル席にすわった。


「いただきます」「いただきまーす」


 さっそく箸で刺し身をつまんで、口の中に入れる。


「ん~、ハマチ美味しい~」


 頬に手を添えて、幸せそうに刺し身を頬ばる。


「嫁さんって、寿司は好きだっけ」

「うーん、お寿司も好きですけれど、やっぱり一番はお刺身ですねー。なんと言っても、お魚の切り身が美味しいので」

「あぁ、なんとなくわかる」

「イカもおいち~」


 ぱくりともう一口。幸せそうな姿を見るのは、こっちも楽しい。楽しいのだが、少し気になっている点としては


「えへへ、もう一口~」

「……」


 うちの嫁さんは、刺し身を醤油にひたしてから、白ごはんの上にのせ、ごはんと一緒に食べるのだ。意外と外国人がそうやって食べるのをよく見るが。


(なんとなく子供っぽいから、注意した方がいいのだろうか……)


 なんか親の目線になって思う。しかし、べつに食べ方そのものが悪いわけでもないし。うーむ。


「おいしーです♪」

「そっか、良かったな」


 美味しく食べられるのなら、それが一番だ。

 さらに細かいところを指摘しないおかげで、嫁さんのグチを聞き流すこともできる。コミュニケーションスキルなど、所詮はおかざりに過ぎない。テキトーに好物を与えて話題をそらすのが一番だ。というのに気づいた、今日この頃。

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