「お嫁さんの七不思議」

 うちの嫁さんは、日曜日は猫になる。それはべつに構わないというか、もうすっかり慣れてしまったが、個人的にずっと気になっている事があった。密かに「嫁さんの七不思議」と呼んでいる現象だ。


「旦那さん、旦那さん。美容院に寄ってきたんです。見てみて。新しい髪型どうですか?」

「似合ってるよ。それにしても、結構切ったね」

「最近暑くなってきましたからねぇ。気分転換も兼ねて、さらっとショートです」


 初夏の季節も過ぎはじめた今日この頃、若干長めの黒髪セミロングだったのが、土曜日の午後に帰ってくると、すっかり短くなっていた。機嫌もよろしいので、思いきって尋ねてみた。


「なぁ、実は前から聞いてみたかったんだけどさ」

「なんですか?」

「嫁さんって、髪の長さが変わると、日曜になった時、毛並の長さも変わってないかな?」


 正確に言うと、冬毛から夏毛ぐらいに。


「その、猫又ってさ、髪の毛の長さと、猫の毛の長さが比例してるっていうか……なにか関連性があるよな? 嫁さんの場合」

「旦那さん……」


 ぴしーっと、空気が凍る気配がした。


「世の中には、知らない方が良い事もあるんですよ?」

「そんなに重大な秘密だったのか……?」

「えぇ。乙女の秘密ですから」

「さいで」


 妖怪の身体というのは、実に不思議にできているらしかった。


「そういえば、アレも影響するよな」

「アレ?」

「たいじゅ――うっ!?」


 きらーん。殺意の光がほとばしっていた。 


「ダンナサン、ナニカイイマシタ?」

「いえなにも……あ、僕が悪かったです……」

「ヨロシイ」


 奥様には、旦那の俺にも知らない秘密がある。七つぐらいある。それらはきっと、一緒の墓に入っても明かされることはないのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る