※34話 次のレベルまで@34DPが必要ぢゃ。

 うちの嫁さんは、日曜日は猫になる。


「あなたの奥さんのレベルが上がるまで、あと34DPが必要です……」

「? DPってなに?」

「旦那さんポイントの略です……」

「へぇ」


 月曜日の朝、焼きたてのトーストにバターを塗りながら、さくっと口に運んだ。テーブルの向かいには、憂鬱そうな表情で「ぺた……ぺた……」と、イチゴジャムを塗りたくる嫁さんが座っている。


「レベルが上がらないとどうなるの」

「……会社をサボります。ワルの道に染まります」

「学生気分か」

「働きたくないですぅ。旦那さん、私にDPを! 34DPを与えてください!」

「俺が与えるんかい」


 衝撃の事実。庭先では、スズメがちゅんちゅん、元気よく鳴いている。空は快晴。しかし『今日は月曜日』という事実が、嫁さんの気分を著しく下げていた。


「えーと、じゃあ、頑張れ。頑張れ」

「…………」


 無言かよ。


「昼の弁当、ミニハンバーグ追加」

「ぴろりろー! 20DPをかくとく!」

「ふむ。じゃあ、愛してるよ」

「……ぴろー。1DPをかくとく……」


 おいおい。マジかよ。


「旦那さん、月並みの言葉では、私の気持ちは動きませんよ……もっと考えて! 私が喜びそうな事を、本気で考えてください!!!」


 うわぁ、朝からめんどくせぇ。コーヒーを飲みながら、とりあえず考える。


「ところで、あと何DPだっけ」

「186DPですね」

「増えてね?」

「時間は有限ですから」

「わかったよ。じゃあ、明日か明後日、焼肉食べ放題に連れていってやるよ」

「お財布は?」

「こっちが出すよ。家計範囲外でな」



「てれれれってってってー!!

 お嫁さんのレベルが上がった!!


 やる気が5ポイントアップ!!

 がまんが8ポイントアップ!!

 にんたいが12ポイントアップ!!

 こんきが9ポイントアップ!!

 たえるこころが5ポイントアップ!!!


 スキル:『上司の愚痴を笑顔で受け流す』を覚えた!!

 スキル;『顧客からのクレームに謝り続ける』を覚えた!!」


 

 そして嫁さんは、嬉しそうに「もっもっもっ!」とトースターを食べ終えて、素早く着替え、化粧をして、颯爽と、


 「 いってまいります !! 」


 家から旅立っていた。


 レべル2になった勇者を見送り、俺は一人ごちた。


「……俺も欲しいな、YP……」


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