※17話 ここは、ひどいインターネットですね。

 私は、猫又である。

 平日は人間社会で働いてるけど、日曜日は黒猫の姿に変わる。

 日曜日は大体、お家でゴロゴロして、PCタブレットでゲームとかやってる。

「嫁さん、じゃあ俺、今から仕事に戻るから」

「にゃ~」

 私の旦那さんは、フリーのイラストレーターをやっている。日曜日は、お互いに隣合った部屋で、必要最低限の干渉しか行わない。

 

 ヒトの体内には、生活基盤のリズムを刻む時計があるという。そして、それは私にも同じことが言えた。

(ふにゃ~。日曜日は、お家でごろごろできて、いいにゃあ……)

 やっぱり、猫の状態は至福だ。本当なら毎日猫のまま、一日中なにもしないで、ごろごろしていたいなぁって思う。

(でも、それだと、旦那さんのお嫁さんじゃないもんね)

 私は『人間のお嫁さん』として、旦那さんのお側にいたかったのだ。


 でも日曜日だけは、猫になる。

 旦那さんが、日曜日は本気モードでお仕事すると決めている。それが彼のリズムだからだ。絵の世界に没頭する彼は、日曜日だけは、自分の側に『ヒトの気配』があることを厭うのだ。


 そういうわけで。私は、旦那さんのために。

 日曜日は、あえて、猫に戻って、ごろごろしているのである!!


「――後輩。悪いんだけど、あんた今度の日曜出てこれない?」

 直属の上司から言われても、絶対にお断りする。土曜日と平日の祝日は渋々出ていっても、日曜日だけは、絶対に、お断りする。 


 旦那さんのために!!


(――あ、そうだ。この前ブログ更新したって、言ってたっけ)

 私はいそいそ、タブレットをタップ操作する。無線で繋がったUSBキーボードを、肉球でぺちぺち、パスワードを打ち込む。猫の手でも、慣れたらできる。


 「うちの嫁さんの話 第17話」


 ブログには、フルカラーの、デジタル4コマ漫画が掲載されている。私と旦那さんのキャラクターはデフォルメされていて、旦那さんが『マグロ』で、私が『猫』だ。

 妖怪は、身内以外に正体がバレたらいけないのだけど、ネットの日常マンガなら、二足歩行をする猫を見ても『本物の猫又だこれぇ!』なんて言わない。ちょっとドジな事をやって、旦那さんから怒られても、


『お嫁さん、とっても可愛いですね』

『旦那さんは、もっと嫁さんを大事にすべき』


 コメントは、こんな感じである。


(フフフ……これでまた、私の人気が上がったにゃ……)

 ブログの日常系マンガと、ツイッターで、承認欲求を満たす。これぞ私の、日曜のライフスタイル。完璧すぎる。そう思っていたら、


『うちの孫がご迷惑をおかけしまして。いややわ、恥ずかしい……』

 

(お、お、おおおおぉぉ、っ!!?)


『今度、そっちにいった時、

 あの子にもよう言い聞かせますさかいに。堪忍や。旦那さん』


(お、おばあちゃーーーーーーーん!!!!???)


 私は忘れていた。最近、お婆ちゃんの実家にも、無線WIFI環境が整ったことを。そして今更〝いんたーねっつ〟を、始めたことを、忘れていた……。

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