※14話 太る人、太らない人の法則は、家猫にもあてはまります。


 俺はフリーのイラストレーターをやっている。

 職業柄、家で一日こもって、椅子に座ったまま、絵を描き続けることは多い。必然的に運動量が減るので、人によっては太る。

「旦那サンハ、ドウシテ太ラナインデスカ?」

「間食しないから」

 即答すると「はうっ!」と、両肩を振るわせる生き物がいた。

「人によってはさ。作業中に甘いお菓子とか食べたくなるらしいけど、俺は甘い物が苦手だし、むしろ腹減ってる方が集中力が増すんだよ」

 想像力を働かせ、モノを作る作業に正解はない。あくまで俺の場合は、なにも食べない方が捗るというだけだ。

「で、その話はおいといて、嫁さんも食べなよ」

「……」

 土曜日。珍しく週休二日が取れた日。

 俺たちは、普段通う店よりも、いくらもお高いレストランで、立派に霜の入ったステーキ肉と対面していた。嫁さんは、ナイフとフォークを握ったまま、固まっている。付け合せのインゲンだけが、存在を消している。

「ベジタリアンに転向する?」

「うう……い、いただきます……」

 嫁さんは、泣きながら肉を食った。

「おいしいよぅ、おいしいよぅ……お肉おいしぃ……」

 聞きようによっては、ホラーだった。

 今の俺たちの薬指に、指輪はない。代わりに彼女のバッグの中に、小箱が二つ入ってる。内容については、簡略して言うと「前回参照」。

「ブログのネタが増えたよな」

「ダメですっ! ぜったい、ぜったい、マンガにしちゃダメですからっ!」

「なんでさ。女性が太ったネタ、傍から見たらこれ以上に面白いものはないぞ」

「鬼畜ですか!? 今日の旦那さんは私に手厳しくないですか!?」

「そろそろな。ここらで、俺と嫁さんの立場を、ハッキリわからさせておくのもいいかなと」

 ニヤリ。と笑うと、くっ、殺せ! と言わんばかりに、肉を食いはじめた。

 俺も食う。肉うめぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る