Ⅲ章~Оружие Показать~
プロローグ(Side:Serugo)
血の歴史は、負の歴史か?
答えは否だ。
生きる以上、血は流さなければならない。
それを負だという輩に、生きる資格は無い――
「……親殺し?」
ノルシェが疑問符を浮かべ、問う。
「あぁ。……俺は自分の手で両親を殺した」
俺の両親は〈Медвдъ〉だった。……正確には〈Медвдъ〉の血筋だった、だが。
〈Медвдъ〉は元々、エリアRos正規軍強化兵の総称であり、本質的には〈Медвдъ〉の交配によって産まれた〈Медвдъ〉としての能力を持つ人間は含まれないとはいえ、それはエリアRos軍の基準。
世界の、国際社会の基準ではこれらも〈Медвдъ〉に値する。
「……そう」
返答は短い。
いつも通りのノルシェか。
と、思った矢先――
「断る理由は、咎人である以外に無いの?」
新たな質問が紡がれる。
未練がましい質問。
諦める気は無さそうだ。
「…………そうだな」
ノルシェ自体に嫌な印象は無い。
好きか嫌いの二択なら、好きな方だろう。
「……なら、良かった」
そう言って、ノルシェは距離を詰めてくる。
「私は、構わない。……セルゲイが咎人でも、構わない」
諦めないという意思表示。
諦めたくない程、強い好意。
「…………戦友、友人以上になるつもりはない」
拒絶する。
友人以上の関係にはなってはいけないから。
「……なら、覚悟して」
ノルシェは立ち上がり、
「必ず……認めさせるから」
立ち去っていく。
遠くなるノルシェの背中を一瞥し、
「認めさせる、か。…………ノルシェらしいな」
俺は吐き捨てるように呟いた――
暗転した視界。
暫くして明るさを、色を取り戻す。
目の前に、何処にでもあるような民家の一室が広がっていた。
部屋に居座る者も、同い年ぐらいの夫婦と、自分。
だが、その部屋は異常だった。
夫婦は俺に大型リボルバー〈JA P40M〉を向け、叫んでいたから。
――殺せ。
――俺を、私を殺せ。
叱責するように、
――――お前には、貴方には、それを成し得る力があるのだから。
縋るように、
――だから、殺せ。
赦しを乞う、罪人のように、
――――俺を、私を……殺せっ!
自暴自棄となった犯罪者のように。
(最悪だ……)
俺は現状が何なのかに気付く。
これは、思い出す気が無かった記憶、その光景。……嫌な言い方をすれば、フラッシュ・バックの類か。
つまりは、悪夢の一種。
結果の決まっている過去の追体験。
それを証明するかの如く、視界を染め上げる
少し遅れ、飛び出す銃弾。
避ける。
これが失敗だったはず――
被弾。
左肩から派手な血飛沫が舞い、肉が抉れる。
激痛。でも、意識が持ってかれる程ではないし、腕も動く。
――当時から馴れていた痛み。
ショートダッシュで男との距離を詰め、〈P40M〉の銃身を掴む。
直後、予期していたのであろうか、拳が迫るが――
それより早く、前蹴り。
直撃箇所は……股間だ。
痛みに悶絶し、緩んだ握力。
男の手から離れた〈P40M〉を握り、素早く構えて頭部に2連射。
あと一人。
撃つのを躊躇してくれれば御の字。
だが、答えは左膝と、右肘への被弾。
躊躇無く撃ちやがったか。
回復しづらい箇所を狙う。
正しい戦術。
流石と言った所だが……。
まだ、身体は動く。
男の骸も宙に浮いている。
コックした〈P40M〉を女の頭があるであろう位置に向け、2連射。骸ごと撃ち抜く。
同時に飛来した銃弾により、更に右膝と腹筋が損壊。
ゆっくりと脚に力が入らなくなり、床に膝を着く。
目の前には血の池と、冷たい肉の塊。
肉塊には、小さな孔が穿たれ、辺り一面に漂う、火薬の焦げ臭い香りと死臭が部屋を彩る。
握力も失われ、銃が床に転がり、
数拍おいて床に倒れ、血の池を広げた俺の視界は暗転する。
「…………夢か」
再び視界が回復した時、俺を出迎えたのは、黄昏の空。
どうやら、屋上で座ったまま寝てしまったようだ。
(……やれやれ、だな)
夢というものは、記憶整理の副作用みたいなものらしいが、あんな記憶が再生される辺り、ノルシェの告白が原因だろうか。
……いや、告白ではなく……俺自身の昔話が原因。
面倒事が起こらないといいがな……。
なんて、思いながら首を鳴らし、立ち上がって軽く身体を動かす。
……問題無し。
(朝の日課に行くか……)
俺は屋上を後にする。
“腕”というのは、簡単に鈍るのだから――
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