【S】―エス― 始の記憶

三吉亜侑

第一部 始の記憶

プロローグ

 

 ――もう、ずっと昔。

 僕らは通じ合えていた。目に映る、触れる全てのものを互いに共有していたんだ。


 僕が初めて見たのは、暗がりに揺らめく緑色の仄かな光。

 そして、その向こうにぼんやりとした影を映す君だった。

 君と僕との間に蔓延はびこる暗闇に、幾度となく飛び交う蝶。

 それは、決して常人には見えない言の葉。

 宛てのない言霊が、ひらり、今日もまたひとつ。


《ねぇ……――》

 

 誰かの呼ぶ声がした。

 鼓膜を震わせたびたび響くその声は、優しくて……でも、どこか寂しいもの。

 真っ暗で冷たい空間の中、その声だけが独りぼっちだった僕に安らぎを与えてくれた。

 けどある時、その安らぎを打ち消してしまうほどの声が、頭に響き渡る。


《――――目ざめろ!》


 君は、誰……?


 突き動かされるように重たい瞼を、僕は――。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る