第12話悪魔襲来
俺はオリビエから旅立ち、神刀・
道中適当に襲ってきた魔物を倒して素材を剥ぎ取って進んでいき、オリビエから最寄りの街のカザットに着く頃にはそこそこな量となっていた。
「あー、疲れた。今日はベットで寝たい」
俺はオリビエからカザットまでの距離を甘く見ていて、現実になったこの世界では俺の徒歩で2日間もかかってしまった。
元々野宿するつもりも無かったので何の準備もせず出発してしまい、冷たい土の上で眠りご飯も倒した猪型の魔物の肉を焼いて食べてなんとか2日間を凌いだのだった。
幸い水は神刀・
神刀を飲み水を出すのに使うのはリデル位であろう。
力の無駄使いである。
そんなことはさておき、俺は道中で狩った魔物の素材を売るために冒険者ギルドに出向いた。
カザットのギルドはオリビエのギルドと違い、内部に酒場が設けられているようで中は冒険者達の喧騒で賑わっていた。
昼間から酒を飲んでる人が大勢いて、中には殴り合いを始めるものや、それを煽って助長させるものなど様々な人がいた。
とりあえず酒場の方は無視して、素材の買い取りカウンターに向かった。
「すいません、魔物の素材を売りたいんですけど」
「はい、いらっしゃいませ。魔物の素材の買い取りですね、それではギルドカードと売りたい物を出していただけますか?」
俺はギルドカードを手渡し、2日間で集めた素材をアイテムボックスから取りだして目の前に並べた。
「え?いま何処から出して?それよりもこの量は…。すいません少々お待ちいただけますでしょうか?」
「あ、はい、分かりました」
そう言うと、受付のお姉さんは凄い勢いで奥の部屋へと消えていった。
酒場で盛り上がっていた冒険者達が一瞬静かになり、俺の方を見てヒソヒソと話し始めた。
「なんだあの量はやべぇな」
「あれってBランクのクラッシュボアの素材じゃねぇか?」
「おいおい、クラッシュボアっていやあこの辺じゃ一番の魔物じゃねぇか?」
「あの子供が一人で仕留めたのか?」
何故か思った以上に注目されてしまっている。
て言うか、俺が道中食べていた猪がここら辺で一番強かったのか、美味かったから結構乱獲して素材も結構あるんだが…
「すいません、お待たせしました。わたくしこのギルドで鑑定士をやらせていただいているものです。Dランク冒険者のリデル様ですね、それにしてもこの量は凄いですねぇ、少々お時間頂いても宜しいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
素材の鑑定は10分程で終わり、素材の総額は14万Gであった。
下級の魔物ばかりとはいえ、結構な数を倒していたので良い額になったな。
2日間で14万Gか、いままでの苦労はなんだったんだろう。
「おいおいなんだ、今日はやけに静かじゃねぇか、この街一番の冒険者バッカス様が来てやったぞ」
素材の売却も終わり、昼食でも取ろうと思いギルドから出ようとしたとき、ムキムキの男が騒がしくギルドに入ってきたのだった。
「あ、バッカスさん」
「おうトムじゃねぇか、それでなんかあったのか?」
「いえ、それがですね、あそこにいるマントを被った子供が凄い量の魔物の素材を売却してましてね、中にはクラッシュボアの素材も含まれてたんでさぁ」
話題に俺らしき人物が上がっていたので、面倒なことになる前に俺はギルドからそそくさと逃げ出した。
「おい、待ちなそこのマント被った子供」
しかしまわり込まれた。
「なんですか?」
「いやあな、面白い話を聞いたんでな話してみようと思ったのさ」
「はぁ、そうですか…」
「先ずは自己紹介からだな、俺は斧使いのバッカス、B+ランク冒険者だ。お前さん名前は?」
「リデルです」
「ほう、リデルか、聞かねぇ名前だな。それと人と話す時は顔を見て話せって教えられなかったか?」
「別に俺は話をする気が無いのに一方的に話し掛けられてるだけなんで顔を見せる必要はないかなって」
「んだとこのガキ、あんまり舐めてっと子供だからって容赦しねぇぞ」
「そうですか、では特に用事もないみたいですしこれで失礼しますね」
「待ちやがれぇええ、この俺様を前に舐め腐った態度取りやがって、礼儀ってもんを教えてやらぁ」
「はいはい、俺様だかなんだか知らないけどお腹すいてるからどいて」
「このガキがああああ」
急に話し掛けてきたムキムキの男は、何故かわからないが急にキレて俺に殴りかかってきた。
俺は迫り来る拳を、自分の右手を前につき出して受け止めると、そのまま男の腕を捻って地面に叩きつけた。
「それじゃあ失礼するね」
そうして、俺はギルドを後にして昼食を食べに向かったのだった。
翌日、クエストでも受けようかと思い朝からギルドに出向くと、昨日絡んで来たムキムキの男が酒場で飲んでいたのだった。
よく朝っぱらから酒なんて飲めるな。
引き返そうかとも思ったが特に問題無いだろうと判断し、普通にクエスト掲示板の前に歩いていった。
しかし、俺が掲示板の前に向かってるときムキムキの男が俺に気付き、俺が掲示板の前に到着した時には俺の背後に立っていた。
「…」
なんで後ろに立ってなにも喋らないんだよ!
てかなんで無言で仁王立ちなんだよ、こえーよ…
これって振り向いた方がいいのか?
いや、ここはあえてスルースキルを全開させて華麗にスルーしよう!
俺は適当にクエストを選び終えると、後ろを振り向くことなくそのまま受付に向かった。
よし!俺のスルースキルは完璧だった!
「おい、昨日のガキちょっと待て」
やはり捕まった…
「なんですか?えーっと、あ、パッションさん」
「誰がパッションだコラッ!俺はバッカスだ!」
「あー、そうでしたね。もう大丈夫ですバッソンさん」
「何が大丈夫なんだてめぇ!」
「もう、名前なんてどうでも良いじゃないか」
「ふざけやがってこのガキ」
「ガキじゃないリデルだ」
「お前いまさっき名前なんてどうでもいいって言ったばっかだろうが!おちょくってんのか!」
「おう!」
「…殺す!」
「落ち着けって怒っても良いこと無いぞ、カルシウム足りてないんじゃないか?」
「うるせー、昨日は不意を突かれて無様な姿を晒したが今日はそうはいかねぇ。そこの広場で決闘だリデル!」
不意を突かれたって、殴りかかってきたのそっちじゃねえか…
「嫌だ」
「なっ!?」
「だって俺に何のメリットもないじゃん」
「それじゃあ俺が負けたらお前の言うこと何でも1つ聞いてやるよ」
「俺が負けたら?」
「そのマントをとって俺に土下座して謝罪しろ」
ふむ、俺は別にちっぽけなプライドなんて持ち合わせていないのでいくらでも土下座出来る。
と言うことは、殆んどデメリット無しで勝負が出来ると言うことか。
まあ、まず負けるつもりもないが、こいつはなかなか面白いから何でも言うことを聞いてくれると言うなら少しこいつで遊んでやるか。
「で、どうするんだ」
「仕方ないやってやろうじゃないか」
さて、こいつで遊ぶために勝負をギリギリの試合にしてまた挑んで来るように仕向けないとな。
こうしてバッカスは、人の皮を被った悪魔と戦いを始めるのだった、合掌。
「さて、じゃあいくぞリデル!」
「こい!パッション!」
「だーかーらー、バッカスだって言ってんだろーがぁあああ」
そうして、バッカスは叫びながら俺に突撃してきた。
俺は
これは困ったぞ、まさかB+ランクの冒険者の武器がレアだとは…
下手に俺の武器を使うとバッカスの武器が壊れてしまうし、逆に武器を腰に差しているのに使わないと手加減しているのがばれてしまう。
「っふ、よく俺の一撃を躱したな」
「あんな鈍い攻撃誰でも躱せるさ」
「舐めるなっ!」
仕方ない、バッカスの攻撃は全て躱して、刀の峰で少しずつ攻撃していこう。
しかし、簡単に躱してる様に見えないように、時に手で軌道をずらしたり、時に刀で受け止めパッシブスキル柔を使って最小限の衝撃で流したりと、なかなか神経を使う作業を続けた。
バッカスの猛攻を凌ぎ続けて20分、疲労で大きな隙の出来たバッカスに
「くっそ…負けたぜ」
いつの間にか広場に周りには観客が集まっており、俺とバッカスに拍手をしていた。
「さて、じゃあ約束通り何でも言うことを1つ聞いてもらおうか?」
「ああ、男に二言はねぇさ」
「じゃあ1週間街の中で上の防具の装着禁止で」
「は?そんなんで良いのか?」
「まあね、また挑戦したかったらいつでも掛かってきな」
「っち、明日またリベンジしてやる!」
っふ、まんまと掛かったな、毎日少しずつ服を剥いでいきこの街での滞在予定の1週間が終わったとき、バッカスはパンツ一枚で俺を見送ることになるだろう。
その光景を思うといまから楽しみだ。
人の皮を被った悪魔は誰も見えないようにマントのしたでゲスな笑みを浮かべるのだった。
カザットでの日々は、まずクエストを受けてその時にバッカスに挑まれる勝負を受けて服を剥ぎ取り、その後クエストに向かうという日々を過ごしていた。
カザットに来て5日目に、俺はこの街に寄った目的を完遂するためにカザット付近にそびえ立つヒマラッチ山脈に向かった。
ヒマラッチ山脈とは、道中なにもなく頂上に巨大な鳥の巣があるだけで誰も人が寄り付かない場所であった。
俺は5日間クエストをこなしながら、本当にこの場所に人が居ないかの確認を行っていたのだ。
なぜ入念に人が居ないかの確認を行っていたかと言うと、人目につくと騒ぎになるからだ。
「さて、ここなら大丈夫だろう。こい!グリルド!」
そして、俺はヒマラッチ山脈で一体のペットを呼び出したのだった。
「久しいな我が主よ」
「ああ、そうだな」
「それでなに用だ主よ」
「いやあ、この世界に来てから強いやつと戦ってなくて腕が鈍りそうだからグリルドに相手をしてもらおうと思ったんだよ」
「っふ、なるほど、だからこんな
「まあ、そういうこった」
「では、相手になろうぞ我が主よ」
そして俺はグリルドと全力の戦闘を開始したのだった。
普通、大型のボスとはパーティを組み役割を決めて戦闘を開始するものなのだが、俺は一人で龍王グリルドとの戦闘を行う。
まず、俺以外に誰にも知られていないが、グリルドの入手方法はソロで龍王グリルドを討伐することである。
出現条件すら複雑で、強さも俺がやっていた頃は普通にクリア不可能な難易度になっていた。
そんな理不尽なキャラは、ソロでの討伐に成功した時にはステータスはそのままでペットになるというものだ。
ある意味バランスブレーカーだが、実際はまだ入手不可能なレベルの敵なので、運営も後々入手されると思っていたのだろう。
まあ、俺もLU《レジェンドユニーク》の武器を入手していなければ勝つことが出来なかっただろう。
俺は無駄な思考を止めて、グリルドに連撃を繰り出そうとしたその時だった。
「ひぃっ、ひゃあああああ」
やばっ、誰かに見られたかも知れない。
しかし声は遠く、いまだに叫び続けているので違うなにかが起こったのだろう思い様子を見に行くことにしたのだった。
「すまないグリルド、少し様子を見に行ってくる」
「ああ、そう言うと思ったさ。では我はこれで失礼するぞ主よ」
「ああ、ありがとう」
グリルドを送還した後、俺は急いで声のする方に向かったのだった。
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俺はいま叫びながら逃げている。
いまなお俺のことを追いかけてきているあの恐ろしい存在から。
しかし、全力で逃げてもあいつとの距離は開かない。
俺の足はもう棒のようで、息も上がってしまいいつ止まってもおかしくない。
分かってるんだ、あいつが俺のことを泳がせて遊んでいることに。
しかし、止まってしまうとその時点で俺の命運は決まってしまう。
俺の死と言う確定した未来が。
だから俺は走る、例え逃げ切れないと分かっていても。
しかし、運命の女神は俺の努力を嘲笑うかのように無慈悲な笑みを浮かべた。
俺の行き着いた先は絶壁、もう逃げ場のない追い詰められた場所だった。
俺の後ろからはあいつがケタケタと笑いながら俺との距離を埋めている。
ははっ、俺はこんなところで死ぬのか。
俺とあいつとの距離はもうなくなり、あいつは鋭い爪を振り上げ俺の心臓に向けて突き出された。
「せめて、1度くらいリデルに勝ちたかったなぁ」
俺の体に迫り来る爪は、容易く俺を引き裂くだろう。
時間がゆっくり流れるような錯覚に襲われながら俺は、ここ最近の戦いを走馬灯の様に思い浮かべるのだった。
「なんだ、俺との戦いはもういいのかパッション?」
しかし、俺に迫り来る爪は俺の体に届く前に、先程まで思い浮かべていた人物によって受け止められていた。
「なっ!?これは俺の幻想か?」
「なに言ってんだパッション、現実だよ」
「ははっ、俺はパッションじゃなくバッカスだよ」
「元気そうだな、じゃあ今すぐ逃げな」
「クハハッ、何者か知りませんがよく私の攻撃を受け止めましたね、誇っていいですよ」
「お前は何者だ」
俺は目の前の敵を見たことがなかった。
しかし、ある程度の予測はつく。
禍々しい角を生やし漆黒の肉体と翼を持つ魔物は、まだ実装されていなかったが、FUOのストーリーで存在だけは仄めかされており、恐らく今後のアップデートで実装されると言われていた魔物。
そいつは─
「私ですか?私は悪魔のプルソン。偉大なるフルーレティ様の配下でございます」
─悪魔である。
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