バルジを討て 後編
340年4月17日 南部戦線
ニブルヘイム参戦から1週間を迎え、ニブルヘイム軍はイルダーナ占領地域攻略の橋頭堡であるエイルで、失った戦力の補充をしている頃、ムスペルヘイム軍は首都フェンサリル奪還を目指して動き始めた。
そして奪還作戦の立案会議がコルネリウスの乗艦の執務室で開始されたのである。
「閣下、作戦があります」
アルトゥールがコルネリウス元帥に言った。
「言ってみたまえ」
執務室の椅子に足を組んで傲然として、アルトゥールを威圧する。
アルトゥールはそれに対して激しい嫌悪感に襲われた。
それを我慢して発言した。
「我々は祖国防衛戦争の幕開けから艦隊戦力の不利から、私の提言で、トラックに対空ロケット砲を積んだ簡易対空自走ロケット砲を量産することになりました」
無駄なところで自分の功績をアピールする。
彼はコルネリウスが心の中で嘲笑していることに気付くことなく話を続ける。
「5000輌の自走ロケット砲による対空攻撃を行うのです。これぐらいの数なら、今までの生産数を見る限り用意可能です。そしてそれによる射程圏内ぎりぎりの8000メートル離れた位置から艦隊を攻撃するのです。自走ロケット砲は1輌あたり16発のロケットを撃ち込むことができるので、シールドと対地砲の弾幕による防御を突破できる飽和攻撃が可能です」
「物量による攻撃か。ムスペルヘイムにとって現実的な戦術だな。今回はそれでいこう」
ムスペルヘイム軍が作戦の為に自走ロケット砲を調達する一方で、アルバート率いるA軍集団はアンブローズの指示を受けて、放棄したフェンサリル以南地域に進出していた。
奪還を目指しているわけではない。
これから起こるであろうフェンサリルでの戦闘を前に、ヴェルザンディの戦いで兵力を削り損ねた分を少しでも取り返そうというのだ。
「敵は分散している。機動力を駆使して戦えば勝てる。そう踏んだんだろ、アンブローズ」
それを証明するように、地上部隊に配属されている戦車は機動力不足のT-7ではなく、T-8と旧式となったT-6が主戦力で、艦隊も軍集団に所属する2個艦隊が空母主体の機動艦隊である。
空母はイルダーナも開発していて、戦艦を改造して空母としての機能を実装する用意もできていたが、ブルーノは戦況が有利であった為に改造空母の必要性を感じなかったことから、実用化が大幅に遅れていた。
今回使用される空母は、アンブローズがヴェルザンディ戦の後に独断で戦艦の空母化を決めた結果生まれた代物だ。
艦載機はイルダーナの軍用機がわずかな距離で離陸できることから、着陸の際に機体の速度を一気に落とすのに使うワイヤーに引っ掛けるためのフックを取り付けるだけで、ほぼ無改造で済んだ。
離陸距離が短いのはイルダーナが山がちな地形で、長大な滑走路を造るには山を切り崩さなければいけなかった事情の為、短い滑走路でも離着陸できるように設計されたからである。
アルバートはフェンサリル防衛、それどころか戦争の帰結にまで心を砕くアンブローズのことを考えた。
背負う必要のないものまで背負い込んで、いつか倒れてしまわないか心配になってしまう。
自分が心配の種を取り除く一助となれば彼も少しは楽になるだろうか。
「手薄なところを狙って攻撃する。艦載機による爆撃だ」
離陸する戦爆連合の編隊。
銀翼が空を覆い、そして地上を火に包む。
手薄なところを狙った為、大した反撃もなく、敵の援軍が来る前に撤退した。
このような攻撃を幾度となく繰り返した。
攻撃する地域はただ防備が手薄なところを狙っているわけではない。
特定地域の手薄な地を狙って攻撃しているのだ。
そのようなことをしているうちに、敵も攻撃パターンを理解して、当該地域の防備を固め始めた。
「敵は対象地域に集結しつつあります。敵主力は3方から分散して進軍しています」
副官がアルバートに伝える。
「当該地域から最も近い敵はどこだ?」
「こちらです」
と言って、アルバートの手前にあるモニターの一点を指さして言った。
「ではそこに紡錘陣で急行せよ。落伍艦が出ても構わんから急いでくれ」
副官は訝しむも、命令に従った。
******
「敵艦隊急速接近!」
この報告が3方から進軍しているうちのひとつである機甲師団は恐怖に包まれた。
航空支援なしで軍集団規模の艦隊と交戦しなければならないのだ。
師団長は対空戦車を全面に展開して対空戦闘の準備を整えた。
しかし戦力差が違いすぎる。
銃弾の雨がムスペルヘイム軍の戦車に降り注ぎ、乾いた地上に炎の花を咲かせる。
師団規模の部隊にもかかわらず、圧倒的な物量の前に押しつぶされた。
機甲師団が崩壊したことを確認すると、足早に戦場を後にした。
彼らは他の分進中の部隊を殲滅しに行くのだ。
そしてこの日のうちに、3方から進軍していたムスペルヘイム軍は、アルバートの迅速な艦隊運用によって文字通り壊滅した。
そのことはフェンサリルにいるアンブローズにも伝わった。
「さすがアルバートだ。南部からやつらがいなくなったおかげでこちらの負担も減って、本国中部との連絡ルートも安全になった」
「大変よいことです。ですが、敵がこちらに向っているとのことです」
傍らに控えるディートハルトが言った。
「敵の戦力も多少は削れているはずだが……敵はどれぐらいいる?」
彼の問いに、ディートハルトは言いにくそうにする。
「むしろこちらの予想以上に多いのです」
「バカな! ヴェルザンディで失った以上の戦力を揃えたというのか?」
「その戦力なんですが、トラックの荷台にロケット砲を載せたものが数千輌、少なくとも4000輌は下らないそうです」
アンブローズは一瞬眉をしかめたが、すぐに元の表情になった。
「簡易式の兵器で数を揃えたのか。こちらにとってはかなりまずいぞ」
「ええ。対空兵器をあれだけの数があれば、簡易式で命中精度が低いとは言っても、多数の被弾は免れません」
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たるというわけか」
「まったくもって笑えませんな」
「まったくだ。では少しでも笑えるように、ロケット砲部隊を叩き潰す為の地上部隊を用意してくれ」
「かしこまりました」
ディートハルトは敬礼して、アンブローズの元を離れた。
「これは逃げ支度が必要かもしれんな」
アンブローズはそう思い、通信回線をリジルに繋げた。
指揮官席の手元にあるモニターが、無機的な灰色が色彩を帯び、ぼんやりとした風景を映し出し、はっきりとした人の輪郭を彼に見せた。
アンブローズは軍帽を脱いで画面の先にいる人物を見つめた
「陛下、突然のお呼び出しをお許しください。どうしてもお伝えしなくてはならないことがあるのです」
「なんだ、言ってみよ」
モニターの向こう側にいる人物、ブルーノが言った。
「フェンサリルは陥落する可能性が極めて高い状況に置かれています。万が一の際は都市を放棄することもございますので、そのあたりのことをご了承頂ければと思います」
「万が一のないようにするのが現場の軍人の務めであろう。そのための行動を行わないとはおかしなことではないか」
「ですが、状況がそれを許さないのです」
ブルーノは不快そうに顔を歪める。
「とにかく卿はフェンサリルを死守せよ。ムスペルヘイム侵攻の成果を失うようなことは認めん」
モニターは再び無機質な灰色になった。
何も映し出さない。
先行きが暗い。
アンブローズは未来が厚い雲で覆われているように感じた。
それでもベストは尽くさなければならない。
地上部隊の準備が整ったことをディートハルトから聞くと、彼は出撃を命じた。
優先攻撃対象は対空部隊。
対空部隊が健在である限り、航空艦隊を出すことができないのだ。
「さすがに市街地へのロケット砲の攻撃はないだろう。連中にとっては国の中心なんだからな」
しかし、ニブルヘイム陣営はそうは考えていなかった。
「敵は街に逃げ込んだか……面倒なことになった」
「何をおっしゃているのです、むしろチャンスではないですか」
そう言われたコルネリウスはアルトゥールを不思議な目で見る。
「ロケット砲をフェンサリルに撃ち込んで敵を一網打尽にすればよろしいではありませんか」
驚く幕僚とコルネリウス。
「それは自国民を無差別に殺害することだぞ。わかっているのか!」
「ええ、わかっています。ですが、このままフェンサリルに突入すれば間違いなく多大な損害が出るでしょう。そうなれば今後の北上作戦にも差し支えが生じることになります」
「貴様正気か!」
幕僚のひとりがアルトゥールに掴みかかろうとする。
向ってくる幕僚を、アルトゥールは軽蔑するような目つきで見つめる。
「よせ。彼の言っていることは間違いではない。悲しいことではあるが、フェンサリルへロケット砲攻撃を加えて地上部隊を撃滅する」
幕僚たちは渋々ながら命令を受け入れた。
「ロケット砲斉射!」
コルネリウスの号令で、無数のロケット砲がフェンサリルの空を舞う。
それは地上にたどり着くと、爆風を巻き起こし、周囲を烈火に包み込む。
ビル街は瓦礫の山に変り果て、人々は山に埋もれる。
「まさか自分たちの首都に砲撃を浴びせるとはな……。おかげで道は寸断されて部隊は連絡がとれずにバラバラになってしまった」
外道ともいえる作戦に辟易するアンブローズ。
「犠牲は覚悟の上で艦隊による対地攻撃を行うべきではないでしょうか」
「そうすれば勝てる可能性はある。だがな、戦闘には勝てても戦争には勝てんよ。こちらに増援の見込みはないが、敵は簡易型のロケット砲を大量生産できる。いくら破壊したところで、工場を叩かない限り無駄だ」
「そうですか……。それと、たった今、B軍集団を目視で確認可能な位置まで来ているとのことです」
「全艦隊前進せよ。対地機関砲を斉射し、速やかにフェンサリルから後退せよ」
前進して敵地上部隊を射程に捉える。
圧倒的な火力の奔流が地上に叩きつけられる。
戦車が崩れ落ち、歩兵の肉片は四散した。
十分に損害を与えたと見るや、速やかに後退していった。
「B軍集団が到着しました」
「フェンサリルを放棄してムスペルヘイムとの国境地帯に前線を下げるぞ」
わかりましたと言ってディートハルトは退出した。
「早めに下げたつもりだったが、先頭集団の被害が思いのほか大きいな」
前進して機関砲を斉射した際に、先頭集団が敵の対空砲、簡易式ロケット砲の反撃を受けて相当数の被害を出していたのだ。
「フェンサリルを固守していれば取り返しのつかないことになってしまう」
そう呟き、フェンサリルを後にした。
******
「ニブルヘイム軍接近……か」
ダスティンは険しい顔をして報告を受けた。
「10個艦隊を擁し、その司令官はコンラート・バルテルか」
「いかがいたしましょうか?」
参謀たちが回答を急かす。
「相手に不足はありませんね。迎撃しましょう」
参謀たちがにわかに色めき立つ。
「足の速い艦だけの少数の特務艦隊を編成してください。この艦隊をもって敵の主力に夜襲をかけます。これをもって敵に致命的な打撃を加えましょう」
夜襲をかけられることを知らないニブルヘイム艦隊は、月夜を悠々と列をなして征く。
星々が煌々と輝き、艦を美しく照らし出す。
船員たちは敵地とはいえ、ホルスに侵攻してから抵抗らしい抵抗を受けていない為、和やかな雰囲気が流れている。
彼らのほとんどが先の大戦を知らない兵士だ。
そんな彼らの表情を特務艦隊の強襲がこわばらせた。
強襲部隊の攻撃が艦を大きく揺らす。
艦内の光が明滅し、不安を煽る。
「慌てるな、落ち着いて対処しろ!」
コンラートはブリッジにいる乗組員に向けて叫んだ。
徐々に秩序を取り戻して落ち着くものの、その間に艦列に強襲部隊が食い込んだ。
「全軍を下げろ! 敵の攻勢限界点を待て!」
逃げるニブルヘイム艦隊に必死に追いすがる強襲部隊。
「陣形を広げろ!」
散開するニブルヘイム艦隊。
その動きに追随するイルダーナ強襲部隊。
「攻勢が弱まったな。敵を袋叩きにしてしまえ!」
少数の強襲部隊まで散開した結果、攻勢を大幅に弱めることになってしまった。
弱体化した強襲部隊は敵陣奥深くで孤立することになった。
態勢を立て直したニブルヘイム艦隊の大火力が、機動力重視の貧弱な火力の強襲部隊に襲いかかる。
獰猛な肉食動物が弱体な草食動物を食らうように、強襲艦隊をずたずたに引き裂き、艦隊機能を一瞬のうちに消し去った。
敵の壊滅を確認すると、コンラートはニブルヘイム艦隊の被害確認の報告を聞いた。
「思いのほか被害が大きいな……。だが作戦に支障はない。このままホルスからイルダーナ軍を駆逐することに努めることとする」
「全軍に通達いたします」
参謀が通信手を通して連絡している頃、ダスティンは戦果報告を聞いていた。
「さすがはバルテル将軍、簡単にはいかせてもらえないか……。まあいい、主力はここにある。まだ負けたわけじゃない」
ホルスを巡る戦いは次の一戦をもって決める。
両将軍はそう思いを巡らせた。
******
大陸暦340年5月1日、コンラート率いるニブルヘイム・ホルス方面軍(東部方面軍)は岐路に立たされている。
シズレク攻略かイルダーナ艦隊の殲滅のどちらを優先すべきかでコンラートを交えて、幕僚たちで討議している。
「艦隊を討たずしてホルスの奪取はありえません! たとえシズレクを攻略したとしても、艦隊が生きている限り、イルダーナは攻めてきます!」
「ならば迎え撃って粉砕するまでのことではないか!」
交わされる激論をコンラートは座席から聞いている。
はたしてどちらが正しいだろうか?
ホルス西部を支配するには、中心地であるシズレクの攻略は必須である。
そう考えれば、艦隊を無理に討つ必要はないのではないだろうか。
コンラートに与えられた命令はホルスにおけるイルダーナ占領下におかれた地域の解放。
土地さえ占領すれば戦略的勝利である。
「シズレク攻略を最優先事項とする。艦隊に対しては相手の出方次第とする」
コンラートが命令を下すと、もめていた幕僚たちは大人しくなり、彼の指示を遂行する態勢に入った。
「艦隊をシズレクと大陸中央との補給ルート上に配置する。地上部隊はこのままシズレクに前進せよ」
「了解いたしました」
コンラートが作戦行動に入ったとき、ダスティンも迷っていた。
敵の狙いは明らかだ。
補給路を遮断してシズレクからおびき出し、その隙にシズレクを攻略する。
しかし援軍の見込みがなく、戦力の限られたダスティンにとって、これは極めて有効な手だ。
「さてどうしたものかな……」
ここで迷う時間はない。
先の第2次シズレク会戦で大敗を喫したホルス軍が、戦況巻き返しの為に無理を押してでも攻略を図るかもしれない。
そうなると面倒だ。
シズレクを明け渡すリスクを負ってでもニブルヘイム艦隊を討つべきか。
「全イルダーナ兵士に告ぐ。これより全戦力をもって、補給路を脅かすニブルヘイム艦隊を攻撃する。各員は各々の持ち場において最善を尽くせ、以上」
沸き立つ兵士たち。
士気は極めて高い。
「さて、行きますよ」
離水する艦隊。
離陸する航空機。
車庫から飛び出す戦車。
各々が同じ目的地へ進撃する。
「今度の相手はニブルヘイムか。ホルス人より多少マシな程度の連中だ。我ら優秀なイルダーナ人には到底及ばんわ!」
第2CDF装甲師団ブラウウェン師団長アーチボルド・ベアリングCDF少将が豪語した。
彼はT-7の砲塔から顔を出し、周囲を見渡した。
彼の周囲の戦車もまたT-7である。
大きな車体に角ばった砲塔が乗っかり、そこに長身大口径な砲身が伸びている。
彼は誇らしそうに眺めた後、CDFの部隊歌を口ずさんだ。
「我らは栄誉ある民族 艱難辛苦をその身に受けても なお屈することを知らぬ心 我らが道を塞ぐ者あらば 銃をとれ 命を捧げよ 正義は我らを導かん--」
アーチボルドに呼応するように他の隊員も歌いだす。
「--そして我らは勝利する それは約束されたことなのだから」
歌い上げた後、彼らは銃を天に突き上げた。
「俺たちは優れたイルダーナ人だ! 劣等な汚らわしい輩を大地から駆逐してしまえ!」
湧き上がる歓声。
高まる士気。
彼らは鋼鉄の獣を駆り、“劣等な輩”を狩るのだ。
******
「打って出てきたか。まあそうするしかないだろうな」
コンラートは参謀に語った。
「数の上ではこちらが有利ですが、敵将はボイエット大将です。不利な戦況でありながらホルス軍の反攻を跳ね返し、ホルス南部を依然として保持し続けているのですよ」
「恐れていちゃ一生勝てやせんよ」
コンラートは不敵な笑みを浮かべる。
「接敵まで10分です!」
副官が伝える。
乗組員は既にそれぞれの持ち場についている。
砲門も開いている。
後は攻撃命令を飛ばすだけだ。
コンラートは手元のモニターを見て敵の位置を確認している。
近づくにつれて気分が高揚していく。
高揚感がもたらす緊張が額に汗を浮かばせる。
「撃て!」
ほぼ同時に両者の攻撃が開始した。
交わされる赤い光線。
光線を弾き、煌めくシールド。
光線が突き刺さり、炎上する戦艦。
戦況は数で勝るニブルヘイム軍が有利に進めている。
ニブルヘイム軍は両翼を広げて翼包囲を試みる。
地上の対空部隊は中央に火力を集中させる。
鮮やかな火線が空へと結ばれる。
線に触れたものは、戦場に美しい炎の華を咲かせて散っていく。
中央に火力を集めることで、地上からの攻撃を避ける為に両翼に逃げように誘導するためだ。
それをさせまいと、イルダーナの地上部隊が躍り出る。
対空部隊は両翼に重点を置いて展開し、翼包囲を試みる艦隊に攻撃を加える。
他の部隊は中央のニブルヘイム軍を駆逐しようとする。
「主砲斉射! 撃て!」
アーチボルドが怒鳴るように命じる。
T-7の90ミリ砲が咆哮する。
爆発音のような音を立てて砲弾が射出された。
放物線を描き、敵の装甲をいとも簡単に撃ち抜いた。
「我らに敵う戦車などいないのだ!」
豪語するアーチボルド。
意気の上がるブラウウェンの隊員たち。
「やはり翼包囲ではだめか……」
眉をしかめるコンラート。
「中央を突出させろ。どれほど抵抗されても構わん。とにかく中央は前に出ろ」
コンラートの命令を受けて前進を開始する中央艦隊。
それを迎え撃つ艦隊と地上部隊。
地上からの苛烈な対空砲火が艦底部を襲う。
どれほどの艦が爆散してしまおうと、前進を続ける中央艦隊。
その圧力に屈したのか、イルダーナ軍中央は引き始めた。
「敵の中央を引きづりこんで孤立させろ!」
何も知らずに敵陣奥深くに進撃する。
イルダーナ軍の左右両翼は前進し、中央艦隊の背後に回り込む動きを見せた。
その時だ。
ニブルヘイム軍の左右両翼が前進し、中央艦隊に気を取られているニブルヘイム軍に襲い掛かった。
突然の動きに動揺して混乱が混乱を呼び、被害を大きくする。
左右からの圧力がなくなった中央艦隊はさらに前進を続け、イルダーナ軍の中枢に迫る。
「たったの一瞬にして片が付いたというのか。まったく、不甲斐ないものだよ」
ダスティンはそう言うと、撤退命令を出した。
「我らが負けたというのか。つまらん冗談はよしてくれ」
アーチボルドはにわかに信じられなかった。
撤退命令が本当だと理解すると、彼は歯を食いしばり、口惜しさのあまり車体に拳を叩きつけた。
「あのような劣等民族に負けるなんぞふざけている! 徹底抗戦だ!」
吠えるアーチボルドを回りの者がなんとか宥めて撤退行動に移った。
シズレクには帰れないので、アルフヘイムとの国境地帯に後退することにした。
ホルス南部に展開して北上を目論むムスペルヘイム軍を牽制していた部隊にも撤退を命じる。
この戦いの結果、イルダーナはホルスを失陥したのであった。
戦いを制したコンラートであったが、やや不満を残す結果であった。
「戦略的勝利は得たが、戦場では戦術的勝利にとどまってしまった。イルダーナ軍は戦力のほとんどを温存している。ボイエット大将は致命的なカタストロフを避けたんだよ」
それでも勝利は勝利である。
ニブルヘイムはホルス北部、西部を、ムスペルヘイムはイルダーナが撤退して軍事的空白地帯になった南部を、そしてホルスは中部以外の地域の奪還はできなかった。
そしてバルジを巡る戦いの帰結はアルフヘイム、ミッドガルド、ルーンの3か国にわたる広大な地域での戦いにて決まる。
バルジを討て 後編
南部からはムスペルヘイム、東部からはニブルヘイム、ムスペルヘイム、ホルス、北部からはニブルヘイムが迫っているのがイルダーナの現状である。
北部と南部から迫る軍はニブルヘイムはアルフレート率いる艦隊はルーン帝国、マックス率いる艦隊はアルフヘイムを、ムスペルヘイムはミッドガルドの占領を目指して進撃している。
「北部のニブルヘイムにはアトキンソン艦隊を、東部にはボイエットの東方総軍を、南部はエイブラムに任せる」
「南方総軍の司令官はベックフォード大将ですが……」
ブルーノの命令に参謀のひとりが疑問を投げかけた。
その男の名はシェリンガム大佐。
所属組織は皇帝直属参謀本部といい、そこは陸空軍参謀本部と両軍共同作戦を統括している統合作戦本部に対抗するための組織で、作戦本部同様に戦略立案や戦闘計画を立案する。
軍部による戦争指導ではなく皇帝による指導を目指し、今回のように親征する場合は直属参謀本部から皇帝の参謀として帯同する。
シェリンガムはそこの長官である。
「あの男は予の死守命令に背いた。よって南方総軍司令官をエイブラムに変更する。ベックフォードはネヴァン要塞線を含むイルダーナ南部の防衛を任せる。A軍集団のうちの3個艦隊を南部防衛に差し向ける。残りはC軍集団に編入する」
こうなるとA軍集団の戦力が半減するが、南部防衛の為に駐留している3個艦隊が存在しているので、実際は所属が変わるだけで戦力は変わらないのである。
「このような処置をとってはいるが、彼の能力については否定していない。命に背いたことを罰しているにすぎない」
******
かつての義勇軍の旗艦であった旧式戦艦ゲルズのブリーフィングルームに、南方総軍に所属する軍集団の司令官が集まっている。
ゲルズは今ではC軍集団の旗艦となり、所属軍集団の司令官も2人である。
アルバートは今回の人事に不満である。
アンブローズは戦略的に正しい決断を下したのだ。
そんな彼が最前線から外されて国内に更迭である。
別にエイブラムに不満があるわけではない。
彼は作戦行動中に一度も過失を犯していない。
いつだってアンブローズの作戦意図に従い、遺漏なく任務を遂行している。
戦いで負けることもあったが、それは最高司令官であるアンブローズと戦争指導者のブルーノの責任である。
エイブラムは指導的立場になかった為に非難の対象となりえないのだ。
何もともあれ、これから彼の口から今後の戦略が発表されるのである。
アルバートは発表される作戦を聞いてから非難をしようと考えた。
「では反攻に転じたムスペルヘイム軍に対する戦略を発表します。何重にも防衛線を敷き、敵の侵攻を遅らせることを目的とした縦深防御策を実行します」
現実的な戦略である。
正面から決戦を挑んでも、圧倒的な生産力の前には、大きな戦果を挙げたところで無意味であることはヴェルザンディの戦いで証明されている。
「持久戦略によって敵の攻勢限界点を待つということか」
エイブラムは頷いた。
「それしか打つ手がないことはわかる。こちらに増援がない限り、物量で全防衛線を突破されてしまうことはわかりきっている。何か策はあるのか?」
「ありません。今回の縦深防御策は大陸中央に展開している全帝国軍を撤退する時間を稼ぐ為の作戦でしかありません」
「そのことは陛下に?」
首を振るエイブラム。
「この後に撤退を具申するつもりです」
「それならいいんだ」
と言ってアルバートは退出して自分の艦に戻った。
エイブラムはブリッジに行った。
指揮官席の手元にあるモニターで会話するためだ。
モニターの電源を付けて、ブルーノとのコンタクトを試みる。
「どうしたエイブラム、何の用だ?」
「今後の戦略のことです。はっきりと申しますと、このままでは南方総軍が崩壊します」
「増援を送ろう」
「敵はそれ以上の戦力を動員してきます」
「ではどうしろと?」
若干不機嫌になるブルーノ。
それに構わずエイブラムは言う。
「本国への撤退です」
「そのようなことをせずともよいだろ。北部のニブルヘイム軍を撃退すれば、アトキンソン艦隊と予の直属艦隊をそちらに回すことができる」
「こちらが崩壊する前に撃退できる保証はあるのですか? それに東方総軍がどうなるかわかりません」
ブルーノは眉間にしわを寄せて考える。
「撤退し、敵が一か所に集結したところで、戦争の帰趨を決定づける決戦を挑む。これなら問題ないだろう」
エイブラムはそれに答えない。
「南方、東方総軍がミッドガルドに撤退が完了するまで耐えるとしよう。エイブラム、会える日を楽しみにしているよ」
「私もです、ブルーノ様」
灰色になったモニター。
反射して映る自分の顔だけが見える。
「果たして勝てるのだろうか……」
******
「この戦いによって、突出部の北部を守る艦隊を撃破し、南方より北上するムスペルヘイム艦隊と突出部の後方で合流することで、大陸中央にイルダーナ軍の孤立化を図る。ということでよろしいですか?」
ヒルデブラントがアルフレートに作戦の流れを確認する。
「その通りだ」
アルフレートが頷く。
「他の戦線に異状はないか?」
「東部戦線はバルテル艦隊がホルス南部に展開するムスペルヘイム艦隊とホルス艦隊と合流して西上作戦を実施中です。南方戦線はニブルヘイム軍主力が大規模攻勢を行っています。双方現段階において非常のことはありません」
「それならいいんだ」
アルフレートは目の前の戦場に想いを巡らす。
ニブルヘイム艦隊の陣形は左翼に主力を重点的に配置した斜線陣である。
この布陣によって敵を完膚なきまでに叩きのめさなければならない。
この戦いで勝ったとしても敵に継戦能力が残っていれば、突出部を遮断したつもりが自軍が進出してできた突出部の背後に回り込まれて敵中孤立することもありうるのだ。
「間もなく射程に捉えます」
「砲撃準備を」
アルフレートは右手を掲げる。
それを勢いよく振り下ろした。
最初に砲火を交えたのはニブルヘイム軍の主力である左翼とイルダーナ軍の右翼である。
放たれる光線。
跳ね返すシールド。
赤い光が死に満ちた戦場を彩る。
ニブルヘイム艦隊左翼が優勢になりつつある。
「右翼が危ういな。左翼、中央から戦力を抽出して右翼に回せ」
この命令が各艦隊に伝わったとき、右翼艦隊を指揮しているアトキンソンから通信がきた。
「なりません。敵の狙いは手薄になった中央、左翼のどちらかに総攻撃を仕掛けるものと思われます。ここは右翼に戦線を最低限維持できる戦力だけ残して、中央、左翼の戦力をもって敵の中央を撃破して一気に勝負をつけましょう」
「なるほど……貴公の意見を採用しよう」
アトキンソン艦隊は極端な縦深陣を敷いて消耗戦に持ち込む態勢をとった。
「アトキンソン艦隊を除く全艦隊に告ぐ。我に続け!」
ブルーノ率いる皇帝直属艦隊を先頭に、イルダーナ艦隊がニブルヘイム中央艦隊に突撃を敢行した。
それに動じるニブルヘイム軍。
「左翼は目の前の敵を叩き潰せ! それまで他は持ちこたえろ!」
アルフレートが怒号を飛ばす。
しかし左翼はアトキンソンの布陣を破ることができず、それどころか損害を増やす一方である。
そしてアルフレートのいる中央の懐深くまで銃火の音が迫る。
「陛下、ここはいったん引きましょう。作戦を立て直すのです。万が一ここを突破できなくとも、敵を引きつけてさえいればいいのです。その間にムスペルヘイム軍が北上してくれればこの戦いは勝てるのです」
「確かにその通りだ。しかし……」
アルフレートはなんとしても勝ちたい理由がある。
彼はヒルデブラントに操られているような気がしてならないのだ。
皇帝に即位した経緯がそれを物語っている。
即位はアルフレートの意思ではなく、軍部の利害を代表したヒルデブラントの意思によるものだ。
今回の戦争への参戦を決めたのは他でもないアルフレートだ。
しかしそれすらもヒルデブラントの手の内で踊らされているだけではないのかと思えてしまうのだ。
彼としては、現状の傀儡皇帝としての立場を脱却したい。
そうしないと軍部、ヒルデブラントの都合で消されることありうるのだ。
ヒルデブラントの影響かから脱する為には力が必要だ。
力なきものに誰が従うだろうか。
その力を見せつけるのに手っ取り早いのが戦場だ。
戦場での指揮官としての器を示し、軍部、特に前線指揮官レベルの者たちを味方に引き入れる。
武装闘争するような事態に陥ったとしても、実戦部隊を味方につけているから、戦闘になればアルフレート側が有利なのは必至である。
そのよのような事態に備えて、目の前の敵を撃破しておかなければならないのだ。
しかし、ヒルデブラントの判断は正しい。
「やむを得ん、ここは一度退こう」
アルフレートは撤退命令を出した。
ヒルデブラントの意見を丸呑みしたわけではない。
彼はまだ目の前の敵を撃破することを諦めたわけではない。
******
「左翼の敵は後退したが、中央、右翼の敵が前進しているぞ」
アルバートが南方総軍司令官エイブラムに言って指示を仰いだ。
「左翼は態勢を立て直すのに時間を使うはずです。なので後退しつつ敵中央の迎撃をお願いします」
「了解した」
エイブラムが行っていることは遅延戦術。
後退しているものの、敵には着実にダメージを与えている。
しかしムスペルヘイム軍の戦力はエイブラムの想定以上に多く、エイブラムが南方総軍司令官を引き継いだ段階の戦線から、300キロ近く後退している。
これ以上の後退は厳しい。
ここを引けば東部戦線から撤退しているダスティン率いる東方総軍の退路が断たれてしまうのだ。
東方総軍はルーン帝国に入ったばかりである。
あと少し持ちこたえれば勝機のない消耗戦から解放されて、本国へと撤退できるのだ。
エイブラムにとって、目の前の敵はしばらくは対処することができるので問題ないと見ている。
本当に厄介な敵は内部に潜在しているのではいないかと思っている。
フェンサリル陥落の頃から、軍部に反ブルーノ勢力が存在しているという噂が流れているのだ。
所詮は噂に過ぎないと思いたいところだが、火のない所に煙は立たぬという以上、ブルーノに注意を促しておく必要を感じた。
その頃左翼側ではイルダーナ軍機甲師団が展開している都市、フォールクヴァングに向けてムスペルヘイム軍の機甲師団が進軍していた。
フォールクヴァングは辺境の田舎町でありながら、南方戦線に補給物資を送っている路線が通っており、交通の要所であるのだ。
要所である以上、奪取を目論むニブルヘイム軍機甲師団が投入した戦車は約600輌。
それに対し、イルダーナ軍は正規軍、CDFを含めた約400輌の戦車と、即興の防衛陣地と対戦車砲を配置している。
この地の守備隊指揮官は第1CDF装甲師団プイスの師団長であるアシュリー・ブラッドバーンCDF少将が担当している。
本来はCDFより正規軍の指揮系統が上位になるが、この場にいる正規軍の将校の最高階級が准将であること、そして正規軍よりCDFの方が戦力が多い為、例外的にアシュリーが指揮をとっている。
アシュリーは対戦車砲による防衛陣地より前に戦車隊を配した。
そして戦車隊にムスペルヘイム軍の装甲師団が襲いかかった。
「撃て!」
T-7の90ミリ砲が吠える。
射程外からの攻撃に為すすべなくムスペルヘイム軍の戦車であるMT-7は装甲を撃ち抜かれた。
撃ち抜かれた戦車に乗っている歩兵も負傷し、戦車から放り出されて地面を這いずり回っている。
このように、ニブルヘイム軍の戦車の外側には一般の歩兵数人が乗っている。
これはタンクデサントと呼ばれる戦術で、戦車で戦線を突破すると同時に、歩兵も展開できる。
しかし敵の砲撃下に直接さらされるので被害も大きい。
戦車が撃ち抜かれて炎上するとき、乗っている歩兵まで巻き添えを食らうのだ。
犠牲を多数出しながらも前進をやめない。
圧倒的な物量を背景に、損害を度外視した行動をとれるのだ。
多大な出血を強いられながらもイルダーナ軍の陣地に迫る。
「中央の部隊は左右に散開しろ!」
アシュリーが指示を飛ばす。
中央を駆け抜けるニブルヘイム機甲師団。
中央突破したニブルヘイム機甲師団を待ち受けているのは対戦車砲が配された陣地である。
「撃て!」
一斉に火を噴く対戦車砲。
砲弾は正面装甲を貫き、乗組員は何が起きたのかわからないまま戦車の炎上に巻き込まれ、冥府に旅立っていく。
ニブルヘイム軍の左右からはイルダーナの機甲師団が迫りくる。
しかしそれでも前進を止めない。
砲弾を装填している間に距離を詰めて、対戦車陣地を強行突破を行ったのだ。
圧倒的な物量の波に飲まれて崩れ去る陣地。
市街地に辿り着くと、戦車に乗っていた歩兵が降りて街の制圧にとりかかる。
フォールクヴァング市街地にはほとんど守備隊が配されていない。
勝負は決した。
アシュリーは撤退命令を出し、フォールクヴァングを後にした。
補給路を寸断された以上、南方総軍は退かざるをえない。
エイブラムは東方総軍、ブルーノの部隊が撤退できる時間を少しでも稼ぐ為に、極力ゆっくりとした速度で交戦しつつ撤退を開始した。
******
ブルーノはアルフレートの新たな軍事行動への対処を迫られていた。
「ニブルヘイムはこちらを迂回して、本国の方面へと進軍しているのか。敵の意図は補給路の遮断か……」
ブルーノの思考は敵の殲滅しかない。
ここで敵を討ち、他の戦線の救援へと向かう。
あわよくばアルフレートの首をとる。
イルダーナにとっての活路はこれしかないのだ。
ここでブルーノがしかけてくることはアルフレートだってわかっているはず。
しかし彼は勝負に出た。
「アトキンソンはニブルヘイム軍の予想進路を先回りして迎撃しろ。予は迂回したニブルヘイム艦隊の背後を衝き、先行したアトキンソン艦隊と挟撃する」
「全軍で敵軍の背後を衝くべきかと思われます」
ブルーノの作戦は敵に読まれている可能性があることをアトキンソンの副官が補足した。
副官のような者が皇帝の許可なく発言することは、本来であればあってはならないことだが、アトキンソンはあまり多くをしゃべらない為、ブルーノや、その周りの者たちは目をつむっている。
「確かにその作戦でも敵を撃退可能だ。しかし殲滅はできない。今、我らがすべきことは敵を一兵たりとも逃さず叩き潰すことだ。そのことを忘れないでもらいたい」
作戦は確定した。
決まったとなれば速やかに行動に移らなければならない。
アトキンソン艦隊は国境方面へと転進し、背後をとるべくブルーノは前進した。
しかしアトキンソン艦隊の動きは遅いものだ。
「このような前進速度でよろしいのですか?」
副官が問う。
アトキンソンはそれに頷いただけであった。
一方アルフレートは一連の動きを察知していた。
「敵はこちらの予想した通りに動いている。全軍、こちらの背後をうかがっている敵艦隊を討て!」
反転するニブルヘイム軍。
そんなことを知らないイルダーナ軍は前進を続ける。
1時間もしないうちに互いの存在を認識した。
「なぜだ! なぜ敵はこちらに向かって前進している! 奴らはこちらに背を向けているのではないのか!」
ブルーノは現状を受け入れられないでいる。
たとえそれがアトキンソンに指摘されていたことだとしてもだ。
「やむを得ん、迎え撃て!」
しかしブルーノの艦隊よりもニブルヘイム艦隊の方が圧倒的に戦力が多い。
戦闘の帰趨は見えている。
膨大な光線がイルダーナの艦艇に突き刺さる。
血が噴き出るように爆炎が巻き上がる。
陣形が崩れ、イルダーナ軍から秩序が完全に失われようとしていたとき、ニブルヘイム軍の動きに変化が起きた。
「なに! 背後に敵が接近しているだと!」
状況の急転に困惑するアルフレート。
「このままでは挟撃されてしまいます。速やかに撤退を!」
ヒルデブラントがアルフレートに即時撤退を促す。
アルフレートだって撤退しなければいけないことはわかってはいる。
しかし自己の立場などが邪魔をするのだ。
ここで勝利して自身の権威向上を……。
そのような思考が頭の中をぐるぐるとまわる。
「アルフヘイム方面より敵の大軍が接近しています! さらに南方からも敵が来ているという情報があります!」
「ホルス方面の部隊か!」
副官からの連絡に、アルフレートは決心せざるをえなかった。
「全軍撤退せよ!」
ニブルヘイム軍は戦場を急いで引き上げ、挟撃の危機を免れた。
アルフレートは唇を噛みしめて戦場を後にした。
イルダーナ軍は東方、南方総軍と合流して国境の要塞線まで撤退した。
こうして広大なバルジを巡る攻防戦は幕を降ろした。
ニブルヘイム、ムスペルヘイム、ホルス連合軍は大陸東部南部、そして中央からイルダーナを駆逐した。
しかしイルダーナ軍の主力は健在である。
争いの女神はまだ流血を求めているのだ。
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