mission2-1 黒十字のリーダー


「……と、いうわけなのよ」


『だいたい分かった。要するに、またルカが勝手なことをしたんだな』


「ちょっと! なんでそういう話になるんだよ。別にいいだろ、なんとかうまくいったんだからさ」



 人気ひとけのない浜辺に、砂まみれの三人が立っていた。彼らの傍らにはバラバラに砕け散った飛空二輪だったものが横たわり、煙を上げている。もう走れそうにない。


 一方、飛空二輪とともに落下したはずの彼らは、全身砂だらけではあったが無傷だった。落下の寸前、アイラが銃で浜辺を撃ったのだ。そんなことをして何になるのかとユナは不思議に思ったが、すぐにその意図が分かった。彼女の銃弾は自在に動く砂と変化し、着地の際のクッションとなったのである。




 なんとかアルフ大陸に入ったことを報告するため、サンド二号はブラック・クロスの本部と通信をしている。本部にはサンド一号がいて、各地に散らばったブラック・クロスのメンバーと連絡が取れるようになっているらしい。


 ルカが手招きしてユナに合図を送る。ユナは口の中に入った砂でむせながら、耳をぴんと立てたうさぎのぬいぐるみに向かって言った。


「ノワールさん、初めまして。ユナ・コーラントです。ブラック・クロスのお二人には散々ご迷惑をおかけした挙句、勝手についてきてしまって……」


『あー、いいっていいって! そういう堅苦しいのは無し』


 サンド二号から聴こえてくる声は、明るく軽快な雰囲気の男の声だった。ブラック・クロスのリーダーだというからもっと厳格な人物を想定していたユナは少し拍子抜けする。


『ユナ姫……あー、ユナでいいかな? 君は話を聞く限り、何か目的があってこいつらについてきたんだろう』


「はい。ヴァルトロの人たちやルカたちのことを知って、このまま何もしないのはダメだって思ったんです。コーラントも、私自身も。自分の目で世界を見て、諦めかけていた行方不明の幼馴染のこともちゃんと探したい。勝手だとは思うけど……それが、理由です」


 通信の先のノワールは何も答えず、沈黙が流れる。しゃくにさわることを言ってしまっただろうか。しかしすぐにその不安を吹き飛ばすような笑い声が聞こえてきた。


『君は真面目だねぇ。脅かすみたいで悪かった。俺たちは基本的には誰でも歓迎なんだよ。特に、意志が強い奴は大歓迎だ』


「そうなんですか? てっきり、もっと限られた人たちの集まりだと思ってました」


『はは、そうじゃないとアイラとルカみたいにタイプの違う奴らが一緒に組むわけないだろ。君がただルカたちに同行するのか、それともブラック・クロスに加わるのか、それは俺たちがやることをちゃんと見てから決めればいい。ブラック・クロスはユナのような王族にとっては敵の立場になることが多いから。ま、いずれにせよまずは神器を作ってからだな。今ミッションシートを送ったぜ』


 ノワールがそう言うと同時にガーッという音がして、サンド二号の口から一枚の紙が出てきた。アイラはその紙を手に取り、顔をしかめる。


「ノワール。あなたやっぱりちゃんと文字の練習した方がいいわよ。もういい歳したおじさんなんだから」


『なっ! おかしいな、ちゃんと書けてたと思うんだけど。てか、おじさんっていうなよな! 俺はなー……』


「はいはい。どうものんびり話してられる雰囲気じゃないみたいだから、これで切るわよ」


『おい、アイラ!』


 通信が途絶えると、サンド二号が縮んでいく。アイラはサンド二号をコートのポケットに入れると、両耳の十字のピアスを外し、くるんと指で回す。ピアスは黄色の光を発したかと思うと、液体のように弾け、黒い双銃となって再びアイラの手に収まった。


「早速お出ましのようね」


 アイラがそう言って初めて、ユナは周りの状況に気づく。


 三人はいつの間にか異形なものたちに囲まれていた。人の骸のような形をしているものもいれば、獣の形をして四つん這いで構えているものもいる。


 破壊の眷属けんぞくたちがじりじりと近寄ってくるにつれ、飛空艇の倉庫の中で嗅いだのと同じ匂いが漂ってきた。けだるく、何かがび付いたような匂い。今いる場所は遮るもの一つなく明るいため、その匂いの正体が分かった。



 破壊の眷属たちが身にまとっているボロ切れには、びっしりと血の跡が付いていたのだ。




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