mission10-17 坑道最奥部の激戦
五対一。
人数で見れば圧倒的有利なはずであったが、相手がヴァルトロ四神将アラン=スペリウスでは話は別だった。
ルカとリュウがタイミングを合わせてアランの前後に攻め入っても、
「おーら、爆発だ!」
至近距離で食らったら致命傷は免れない爆破攻撃を繰り出してくるのでうかつには近寄れない。
「ボクらも行くよ、グレン!」
「ああ!」
クレイジーとグレンが遠距離から攻撃を仕掛けようとすれば、
「おっと足元注意だぜ!?」
アランが手を地面につくと、クレイジーたちの足元から有毒ガスが噴き出し妨害してくる。
それならばとクレイジーはナイフを構えて近接攻撃に切り替えようとしたが、すぐそばまで迫ったところでアランの左腕が盾のような形状へと変化しガードしてしまった。
「くっ、読まれてるねェ……!」
「お前、人の裏をかくのが好きなタイプだろ!? 残念ながら俺もなんだよなぁ!」
アランに弾かれ、クレイジーは一旦退いて体勢を整える。
一見デスクワーク派のように見えるアランだが、彼の強さは腕力や神通力の高さとは別の意味での強さを持っている。
それは、頭の回転の速さだ。
一撃一撃は他の四神将たちと比べるとそこまで重くはないが、状況に応じてすぐさま技を切り替えてくる。ゆえにこちらが大勢でかかってもまるで隙を見せない。
そして——
「ロキ、次はどんな悪戯がいい? ……オーケー、あれとあれだな」
アランは左手をぎゅっと握りしめたかと思うと、次に開くと同時に火炎を放出してきた。矛先は後方で支援に専念していたユナだ。グレンはすぐさま水流の矢を放ち火炎を相殺、火に強いリュウが一気に攻め込む。
「ヒャハハハ! まだだぜ!」
空気がひんやり冷えるのを感じてリュウは攻め込むのを中断、アランから距離をとった。今度は左手から冷気が放出されたのだ。
「くそっ、なんでもありだなあの神石……!」
ルカは奥歯を噛み締める。
アランの神石は悪戯好きの邪神ロキ。ルカの耳に聞こえてくるアランとロキの会話を聞く限り、どうも何かと何かを合成して新しいものを生み出す力があるらしい。例えば爆発は空気中の酸素と水素、そして義肢が持つ熱エネルギーの組み合わせであり、有毒ガスはこの地に溢れる硫黄と金属物質を組み合わせたものだ。
アランの手数が多いのは、トリッキーな神石を彼の発想力で上手く使いこなしているからこそなのである。
「今のメンツだと、彼と戦ったことがあるのはユナだけだよね? ユナ、なんとか彼をひるませられないかい。一瞬でいいから」
アランがルカとリュウの対応に気を取られている間にクレイジーがユナに尋ねてきた。
「方法が無いわけじゃないですけど……」
ユナはジーゼルロックでの戦いを思い浮かべる。あの時は相手の感覚に直接響かせるエラトーの歌でキリもアランも動きを鈍らせることができた。二度目がどこまで効くかは分からないが、形勢逆転するには有効な手段だ。
(ただ……)
「あまりむやみに使わない方がいい」
ユナの考えを代弁するようにグレンが口を挟む。
「隙は作れるかもしれないけど、その後が面倒だ。こんな場所で前みたいにがむしゃらにあちこちぶっ壊されたら俺たちも生き埋めになるからな」
「そうだよね……」
ユナは頷く。前に戦った時はエラトーの歌によってアランの気性が入れ替わってしまった。鬱状態のアランは手数が少なくなって攻めやすくなる代わりに、本人でも制御が効かなくなるのか一撃がかなり重くなる。そのせいでジーゼルロックの上層を崩落し、ユナたちだけでなく彼の仲間の四神将たちも皆下の階に落ちてしまったのだ。
「なるほど。それじゃちまちまやるしかないか」
クレイジーがグレンから受け取っていた呪術の触媒をばらまき、呪文を唱え始めた。
「さっきから何をごちゃごちゃ話してるんだ!?」
ルカとリュウの攻撃をいなしたアランは、詠唱で隙ができたクレイジーを狙ってきた。振り上げた機械の腕の先端にある鋭い爪が毒々しくきらめく。
その時——
ドプン!
アランが地面に足を取られて姿勢を崩した。クレイジーが呪術で彼の足元に泥沼を作ったのだ。
「ただの泥沼じゃない……毒の沼だよ!」
「ぐっ……うっぜぇな……!」
アランは顔をしかめて沼から抜け出す。グレンが作った毒薬は大した殺傷力があるわけではないが、相手が動けば動くほど身体中に回り弱体化させる作用を持つ。長期戦にはもってこいの技だ。
「グレン!」
「ああ!」
グレンは弓を強く引き絞ると、天井に向かって矢を放った。
「断罪の雨よ、降り注げ——“
天井で群青色の光がほとばしったかと思うと、アランめがけて土砂降りのような雨が降り注ぐ。これも普通の雨水ではない、肌に触れると痺れが走る特殊な雨だ。さすがに義肢の左腕には効かないが、生身の身体には効果はあったようだ。アランの動きが鈍り始める。
好機だ。ルカとリュウ、そしてクレイジーは一気に畳み掛けるように攻撃を開始。
だが——
「ああああああああ! うぜぇんだよ!」
アランの左腕の神石の光が一層強く輝いた。
クレイジーはアランに近づこうとしていたルカとリュウの服を引っ張り無理やり後退させると、後方に待機していたユナに合図を送った。ユナはクレイジーが言わんとしていることを理解、腕輪の神石に手をかざす。
「"
ユナの歌は激しい爆音によって途中で遮られた。
一箇所の爆発ではなく、広範囲で爆発がいくつも発生。避ける暇はなく、全員がもろにダメージを食らう。服は燃えてぼろぼろになり、皮膚はところどころ火傷でひりつく。ユナによって施されたカリオペの守護の光がなければ戦闘不能になっていてもおかしくない威力だ。
「ヒャハ……ヒャハハ……どうだ、思い知ったか……!」
そう言うアラン自身も息を切らしている。大規模な技を使った反動と、クレイジーの毒攻撃とグレンの痺れ攻撃が効いているのだ。
エラトーの歌で隙を作り、とどめを刺すなら今しかない。
ユナがよろけながら再び歌を口ずさもうとした時——
アランは白衣の内側から丸薬の入った瓶を取り出し、一粒口に含んだ。すると、みるみるうちに顔色が良くなっていき、あっという間に息切れも回復してしまった。
「ふーーーー。我ながらいい出来だぜ」
そう言って口をぬぐうと、爆発でダメージを受けたばかりのルカたちに向かって攻めてくる。
(これじゃきりがない……! 一体どうすれば)
ルカはふとクレイジーの方を見た。不利な状況にもかかわらず、彼はアランの方を見てにやりと余裕のある笑みを浮かべていた。ルカはその視線の先がどこに向けられているのかじっと追ってみる。クレイジーが見ているのは、アランの生身の右手の指先だ。
ほとんど戦いに使うことのない右手は、トントンとリズムを刻むように動いているようだった。リュウが攻撃を避けるたび、グレンが状態異常作用のある攻撃を仕掛けるたび、ユナが味方を支える歌を歌うたび、その指の動きはだんだんと加速していく。
クレイジーはルカに向かって手招きすると、彼の耳元でそう囁いた。
「ふふ……いい作戦を思いついたよ」
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