三つ目の輪

 リルが二十五になり、しばらく過ぎた頃。夏が盛りを迎えていた。

 

 彼はユピカの一番の側近になり、関係を深めることに成功した。ユピカを殺す日は明日に迫っていた。


 彼の両親が死んでから十八年。彼はその間に百近くの人を殺した。彼の特殊能力は「首斬り」で、一瞬にして何人もの命を奪うことができる能力だったのだ。彼は存分に能力を活用していた。


「リルぅ。ユピカのパパとママの話なんだけど? 早く死因が分かると良いなぁ。犯人、知りたいでしょぉ?」

遠回しな表現でリルに頼むユピカ。手を後ろで組み、上半身をリルの方へのり出している。その姿はきれいな顔立ちと相俟あいまって、兵長とは思えない雰囲気を醸し出していた。

 リルは全くそれに動揺せず、ただただ爪を打ち鳴らし続ける。

「早く知りたいのは俺も同じだが、……今はそんな気分じゃないんだよな。お礼とか、あるのか?」

「もちろんよぉ! あ、もちろんアレねえ」

リルは一瞬、アレとは何だろう、と考えを巡らす。しかし、答えは見つからなかったらしく、何事もなかったかのようにユピカに答えた。

「じゃあ引き受けるか。お前って本当良い女だな」

「は、恥ずかしいわよぉ。もう」

満更でもなさそうな顔で照れているユピカ。リルはそんな彼女に殺意を膨らませていく。もうすぐで彼の能力が始動しそうだ。


「あ、リル。この間のことだけどぉ、考えてくれたぁ?」

この間のこと、とはリルとユピカの結婚についてだ。

「まただ。早くした方が良いか?」

殺意を隠そうと試みるリル。遠くの風景を見てなにかに耐えるような顔をしている。

「ちょっ、照れるわぁ」

ユピカがそういった瞬間とき。リルを押さえていた何かが吹き飛んだ。リルのユピカへの殺意が顕となり、言動の全てに表れる。


「そうだ。ユピカ?」

リルは唸るかのように低い声でユピカに訊ねる。

「なぁに? さっきのぉ?」

「いや。お前が俺の両親を殺したって話を聞いてな」

リルはたくさん人を殺してきた剣をユピカの胸へと突きつけた。彼は能力でユピカを殺したくなかったのだ。ユピカは動きを止めて、ゆっくりとリルを見上げた。

「誰に聞いたのかしらぁ?」

今までと全く変わらないユピカの間延びした声。しかし、その片鱗には警戒心が窺えた。

「お前の両親だよ。あと、お前の両親を殺したのは俺だ」

ユピカが目を見開き、息を飲んだ。

「犯人は、あなただったのねぇ……!!」

彼女はそういった直後に胸を刺された。心臓を突かれたようだ。目を真ん丸くさせたまま、固まっている。 

「僕は勝ったんだ、父さん達の仇を取れたんだ!」

「それは、……どう、かなぁ?」

興奮したようなリルの叫びに、ユピカはこう遺言を残して逝ってしまった。


 この日から、リルは昔暮らしていた森に戻ることにした。

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