二つ目の輪
それからちょうど十年経った日のこと。リルは十七歳の誕生日を迎えようとしていた。その日は彼の能力が覚醒する日だった。
「リルは本当に良いやつになったなぁ」
「ありがとうございます、叔父さん」
リルは親指の爪を人差し指の爪に打ち付けながら笑顔で答えた。こうして爪を鳴らすのは彼がイライラしているときの癖だ。
リルはあれから、能力を受け継いでいない叔父と叔母のもとで暮らすようになった。そして、両親の死の真相について調べ始めていた。調べたなかで彼がもっとも驚き、怒り狂ったことがある。叔父達がリル一家の行方を敵へと教えていたと言うことだ。
リルの両親の能力はとても有名だった。その絶対性や強さ、使い道などすべてが素晴らしかったからだ。そして、次第に周囲は二人の間の子を危険視するようになった。「子を殺せ」という暗黙の命令は瞬く間に広まっていった。リルの両親は彼を庇って死んだのだ。
叔母が感心したようにリルに声を掛けた。
「リルったら。本当に真面目な子ねぇ」
「死んだ二人のためですから」
「偉いわねぇ」
憎悪を目の奥に潜ませているリル。彼は世の中で上手くやっていくためには完璧にならなくてはならない、と悟っていた。何もかも良くできていなければならない、と。
それは仇をとることに関しても同じで、彼は早く仇をとろうとしていた。彼は今日、最初の殺人を犯そうとしていた。
「叔父さん。話したいことがあるんですが」
叔父の後ろ姿に向かってリルは問いかける。叔父は振りかえって彼を見た。
「何だ? 言ってみろ」
「父さんと母さんを殺した奴の名前を教えてください。今すぐに」
彼はそう声を発すると共に二人の喉元に剣の切っ先を突きつけた。残忍で鮮やかに光る剣は彼の憎しみを伝えるかのように震えている。
「…………」
黙りこむ二人に
「答えてください。殺しますよ?」
と拍車をかけるリル。未だに震えている剣に少しずつ力を加えていく。
「言うからっ!! 言うから、やめて! やめてちょうだい……?」
焦ったように叔母が口を開いた。だが、剣の震えは止まりそうもない。
「じゃあ、誰ですか」
「マルア国の国兵よ」
「名前は」
「ゆ、ユピカよ」
リルは目を見開いた。
「あいつかよ……」
マルア国はリル達の敵だった国だ。今でこそ国王がかわり、特殊能力者の命を狙わなくなったが。
リルの
リルはしばらく叔母の処遇について考えていたが、口を開いた。
「叔母さん、ありがとうございます。良い来世を送れると良いですね」
「本当!? あの子は本当にかわっ……」
リルは躊躇いもせずに話し途中の叔母の首を剣で払った。血飛沫が舞い、リルの顔や体がそれを浴びる。彼はそんなことを気にも留めずにうっすらと微笑み、叔父の方を見た。叔父は化け物を見るかのような目で彼を見つめていた。
「それで、叔父さん? まだ知ってることありますよね」
「い、いや、ない。だが……命だけは助けてくれないか?」
「
リルが笑みを深めると、叔父は恐怖を感じたらしく目を見開いていた。
「ユピカに義娘がいることはお前も知ってるだろう。あの子を苦しませたくない」
「もうわかりました、叔父さん。さよなら」
うんざりしたように爪を打ち鳴らしながら首を斬り捨てた。リルは呆気なく転がった首を見る。ようやく爪の音が鳴りやんだ。
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