紅のBASARA

神無月 侑子

第1話 始まりの時

僕らは、その時、確かにヒーローだった

ある日、異世界からとてつもない黒雲が湧き上がり、空気は汚れPMの値など基準値をはるかに超えた猛烈な毒素を含み、とても出歩ける状態ではなかった

その時、なぜか天空から光が差し込み、世界中のある人物に焦点が当てられ、一瞬輝いた僕らはまるでネットワークを築くように光の帯を次々とつなぎ合わせ、その範囲に収まった地域の空気や水の浄化が始まった

そう、光のネットワークが地球をすっぽりと覆い始めたのだ

異世界の者たちはそれが人間の仕業と気づき、僕らを倒そうと試みたが、その瞬間だけ、僕らは光を保つ肉体だけその場に残して、魂となって標的になっている仲間のもとへ馳せ参じ、異世界人を撃退し続けた

武器もその瞬間に現れ、僕らは難なく敵を撃退することができるようになっていた

その時、僕らは仲間たちの名前や特技などを知ることができた

光のネットワークをつなげていた僕らではあったが、実際は初対面に近い

あるものは機械工学、あるものは水産、農業、科学、そして、僕は大学で経済学の研究をしていたけれど、趣味で車いじりも大好きだった

新しいエンジンの開発なんて、わくわくして分野が違うのに、研究所に出入りしては研究員たちと口角泡を飛ばして語り合ったりもした

そして、なぜか、光のネットワークのメンバーは居場所は世界各地に散らばってはいても、全員が日本人

仲間がいる

一人じゃない

それがどれほどの勇気を僕らに与えてくれていたか

異世界人を倒すと、その場所では分厚かった黒雲が一瞬で晴れ、空気が水が、元のままにきれいになっていった

2年ほども闘ったろうか

その間に、僕らは魂を飛ばせあう技術にもたけて、それぞれがいる場所から仲間たちがいる場所へと移動しあっては、話し合ったり笑いあったりもした

本当の仲間になれた

それぞれが立場も育ちも違う

僕は旅館の跡取り息子だったけれど、その仕事が嫌で上京して経済の研究に没頭してたし、あるものはF1ドライバーを目指していたし、あるものは会社経営に携わり、かなりの規模のグループ企業を作っていた

そのあるもの・・達樹さん

もうひとりのネットワークの仲間、今はイギリスに留学している凛さんは妹

達樹さんとは専攻が同傾向ということもあり、よく話をした

世界の未来にあるべき経済の在り方は・・

けして、こんなに汚れた世界ではないはず

それは僕らの一致した意見だった

達樹さんが僕の開発した武器の設計図を研究ルームに持っていっている間、僕はなにげなく居間をながめていた。

DVDがたくさん並んでいる。

「達樹さんも映画、けっこう好きなんだな」

あれ?

ひとつだけ、ラベルも何もないケースがあった。

いけないこととはわかっているけれど、僕は好奇心につい負けてしまった。


「こ・・これは」


DVDに印刷されていたタイトルは「ラスト・タンゴ・イン・パリ」

見たことはないけれど、噂では聞いている。

マーロン・ブランドとマリア・シュナイダーが出会ってひたすら雄と雌のようなセックスをして物議を醸し出した作品だ。

「なぜ、達樹さんがこれを・・・」

「気になるか」

はっ!

気がついたら、達樹さんが真後ろにたっていた。

「す・・すみません。達樹さんのお宅を物色するようなまねして・・・」

ああ、なんて失礼なことをしてしまったんだろう。

こんなの、マナー違反以前の行為だ。

でも、達樹は何事もないような顔をして、連の手からDVDを受け取った。

そして、いつもの場所にしまいこむ。


なんというか、すごく気まずい。

これでも、僕は、達樹さんほどではないけれど、それなりに教育も受けてきたししつけもされてきた。

なのに、見たこともないような豪邸に圧倒されて、つい、なにか、自分の知っている世界に繋がりたくてこんなマネをしてしまった。

人の秘密を覗き見るなんて、普段の僕ならありえないことなのに。


「なあ、おれが、どうして本を好きか、知っているか?」

「え?」

申し訳なさと、恥ずかしさであたまがぐるぐるしていた僕は、達樹さんがなにを言い始めているのかぜんぜんわからない。

「あ・・あの」

ひたすらうろたえている僕に達樹さんが振り返る。目は笑ってはいない・・・

「行間をよみとるのが楽しいんだよ」

「え??」

ますます、意味がわからない。

「本ってのは、たしかに書かれている文章を読むものだ。だがな、そこに記されているのは文字の羅列じゃない。作者の思いだ。それは、なぜか文章で現されることは少ない。読者はその一行一行の間に込められた作者の意図を読み解くんだ。そういう余地が残された本ほど名作だと俺は思う」

語りかけてくる達樹さんの目は真剣だ。でも、戦っているときとは違う人間らしい暖かさが加わっている気がする。

「そう・・・ですね」

達樹さんの視線が心にまっすぐ入ってきて、痛くて、そういうだけで精一杯だった。

「だから、この映画も俺は好きなんだ。確かに、一見、性描写ばかりでとても見られたものじゃないだろう。だけれど、それでも名作として語り継がれているのは、そこに主人公の孤独や時代背景などをカメラが無言でかたりかけてくるからさ」

「そうなのかもしれませんね」

「人というものは、孤独だ。俺には大事な妹の美羽もいる。だが、やっぱり、俺は一人なんだ。生きているのは俺の人生だからな」

「僕もそう思います。僕にも大事な仲間達はいるけれど、彼らとは重なり合うことは出来ない。何をどう考えて行動しているのかわからないこと、よくありますから」

「だから、人は求め合う。無駄だとわかってはいても、その寂しさに耐えかねて・・・」


すっと、達樹さんが振り返る。そして・・・いきなり、僕を抱きしめた。

「こうして、暖めあうことでその、心にぽっかりとあいた穴を埋めようとする。無駄だとわかっていても・・・」

切なくて、達樹さんの孤独がなにか乗り移ったように苦しくて、僕は抵抗できなかった。

むしろ、受け入れていた。


達樹さんの心。


その、唇が僕の唇に重なる。

舌が僕の口の中に割り込んでくる。

でも、この時の僕は、それを不快に感じなかった。

絡ませあって、ひとつになる。

本当にそんなことができるなら・・・


気がついた。

僕も、こんなに孤独をかんじていたんだ。

大好きな仲間たちとすごす毎日。でも、その中で、僕は一人ぼっちなんだ。

それは、みんなにもいえることで。


寂しい


このことに気付いたら、無性に寂しさがこみ上げてきて、いつの間にか、達樹さんの唇をむさぼっているのは僕の方だった。


いつまで、そうしていたろう。

時間なんて忘れてしまっていた。

気がついたら、僕はソファの上にいた。

ポロシャツも脱ぎ捨て、達樹さんもアンダーを身に纏っていない姿。

なんて、胸板があついんだろう。

ひょろひょろの僕とは大違いだ。

でも、気持ちがいい。この胸に抱きすくめられていると、なんだか、さっき感じていた不安や寂しさがどこかに溶けて流れていったみたいだ。

「連、連、レン・・・」

達樹さんがなんども僕の名前を呼ぶ。

「達樹・・さん」

愛しそうに、肩を抱きすくめられ、顔中にKISSの雨・・・

こんなにも、人は人をもとめずにはいられないのか。

激しくて、優しくて、暖かな唇

胸に、背中に受けるたびに、僕は、僕の中にあいていた穴が少しずつ埋まっていく感じがした。


達樹さんの手がベルトにかかっても、僕はなんとも思わなくなっていた。

全てを達樹さんに・・・


どくん、どくん

舌が絡まるたびに心臓がはねあがる。

僕はどんな顔をしているんだろう。


その時がきた。

すべてを、あなたに・・・


「はあ、はあ、はあ・・・」

言葉にできない思い。


僕も無性に達樹さんがほしくなった。

ベルトに手をかける。

そうしたら、達樹さんはちょっとビックリした顔をしていた。


「僕にも、あなたを、ください」

達樹さんは微笑んでいたのだろうか。


僕は、こんな行為は初めてだ。

だけれど、さっき達樹さんがやってくれたように、いっぱいKissをして、舌をからませて・・・

僕が受け取った分、達樹さんの心にあいた穴が埋まるように・・・


一滴だってこぼしたくなかった。

達樹さんのすべてを僕の中に・・・


そんな、僕の口を達樹さんは舌できれいに舐めとってくれた。

なんて、柔らかい笑顔。

達樹さんに会ってから、僕はこんな顔をみたことはなかった。


「戦いがおわったら・・・」

「え?」

ぐったりして、達樹さんの胸に顔を埋めていた僕に、語りかけてくれた。

なにか、さっきまでとは違う、甘い、ゆったりした声。

「一緒にスイスに行かないか」

「え?あの・・・」

突然の申し出に、ぼおっとしていた僕の目がぱっちり開いた

「俺は、スミソニアン財閥の後継者だ。その前のほんの少しの自由な時間を父母がくれた。でも、いずれはその世界に帰らなくてはならない」

別れがくるのか・・・


嫌だ


嫌だ


だって、こんなに満ち足りた気持ちになったのは、これが初めて。

手放したくない。

「そして、結婚もする。だが、俺たちの世界は政略結婚だ。相手なんて、選ぶ自由はない。」

一言、一言が身にしみる。

そうなんだ。うん、そうなんだろうな。

「だから、連が側にいてほしい」

「え?」

「おれは、この世界を心底きらいだった。薄汚れたつまらない欲望の渦。そこに放りこまれることはわかっている、この家に生まれた以上、そこからは逃れられない。でも・・・」

達樹さんのきれいな手が僕の顔を包む。

「お前が側にいてくれたら、それも乗り越えられそうな気がする」


必要とされている。


ああ、そうか。達樹さんもずっと独りだったんだな。

それを、もし僕が埋めてあげられるのなら。


「行きます。僕にも達樹さんが必要なんです」


それは、ほんとうのこと。

この時間があったら、僕は、もう、心にあいた穴から目をそらさずに済む。

「お前を利用するようで、辛いんだが・・、でも、俺の心を満たしてくれるのはお前の存在なんだ」


この人は、ほんとうに・・・

ちゃんとわかっていて、でも、僕を必要としてくれる。

僕には、それで十分だった。


「利用してください。僕が、あなたの側にいます。どんな時でも、どんな所でも、全部、あなたのために。それが嬉しいから」

だれかに必要とされることが、こんなに嬉しいことだとは思わなかった。


ここに、僕の居場所がある。

それだけで、十分だった。


達樹さんが抱えている重荷を、ほんの少しでもわかちあえるのなら。


この時の、達樹さんの笑顔、僕は一生わすれない。


最後に残ったのが日本というのは僕にとって皮肉としか言いようがない

高度成長期に光化学スモッグなど、今、発展途上国が問題視されているスモッグの元凶が僕らの国にはあったのだから

その時、光のネットワークでつながっていた仲間たちが、体を伴って日本にやってきてくれた

最後の不気味な穴

あれにふたさえすれば・・・

多数の異次元体も出現し、それぞれが必死で闘った

これが最後、ここさえ納めれば

そんな闘いのさなか


達樹さんが消えてしまった。凛さんと一緒に。


仲間たちが次々と敵の能力で異次元に消えてしまった後、僕は本当に戦いが恐くなってしまっていた。

危険は、いつも覚悟していた。死ぬ事だって。

でも、あんなふうに存在そのものが消えるなんて、なかったことにされてしまうなんて・・・


足が動かない。身体が前に出ない。もう、戦えない。


でも、そんな僕らを励ましてくれたのは消える前の凛さんだった。

「ほら、スマイル。スマイル、スマイル・・でしょう。私は美香のスマイルになんども勇気をもらったわ。あなた達は世界一頼もしい私の仲間」

やっぱり、凛さんは達樹さんの妹だ。

心が強い。僕の覚悟なんて、ちっちゃく思えるほどに頼もしくて、でも優しい。

僕が立ち上がれたのは、凛さんの言葉のおかげだ。

だって、その凛さんの言葉は、達樹さんの言葉にも思えたから。


それなのに、達樹さん、凛さん。ごめんなさい。

「アナライザー、感度最大でこの現象のデーターをとれっ、アナライザー!!!」

達樹さんに、そんな役割をさせてしまった。

僕が、達樹さんを支えつづけるって、約束したばかりなのに。


「達樹、お前ら・・・」

「大丈夫だ、お前達ならこの世界を救える」

「信じているから・・・」


そう、ぼくらのいまやるべきことは、この世界を救うこと。

だったら、やろう。

例え、どんなに厳しい戦いになろうとも。

そして、絶対に取り戻してみせる。僕の・・達樹さんを、みんなを。


だから、ふさぎこみがちな美香にも笑顔でご飯をすすめることができた。

僕たちにはやるべきことがあるんだから。


異次元人が無限に発進されるのを見て、敵の本拠地の居場所を突き止めることが出来た。

瀕死の異次元人の幹部が、皆を取り戻す方法をおしえてくれた。

種族が違ったから、価値観が違ったから戦いがおこったけれど、こうして、仲間の絆が彼らにもあるのをみると、僕たちと何も変わらないじゃないかと思えた。

どうして、戦いがおこってしまったんだろう。

どうして、彼らは、自分たちのいた場所で満足できなかったんだろう。

彼らをこんな風にした破邪帝国王、絶対に許せない。


僕らは、必死でデウスマギアを逆転させた。一縷の望みをかけて!!

その間に帝国王が出撃してしまった。

ぼくらのは車で空を飛べない。

追いつくのに時間がかかる!


そのとき、僕らは知らなかったけれど、帰ってきていたんだ、

消されていた、あの4人が・・達樹さんが。

「地上がやたらうるさくて、ゆっくり死んでいられなかったんだ」

後で聞いたけれど、達樹さんらしい言葉だと思う。

なんとか、間に合った僕たち。

僕らの光を終結させて発射しようにも、まだ僕は質量がたりない。だから、僕は達樹さんにキャストスナイパーを預けた。

達樹さんが、みんながここにいる。きつい攻撃がこようとも、もう、ぼくらの心がくじけることはない。

どんなに破邪帝国王が否定しても7人の心との絆はそれを上回る。


勝った。地球は地球のままで、綺麗な青空とさんさんと降りしきる太陽の世界のままでいることができた。


「ええ・・・?達樹とスイスにいくう!?」


他の6人とこれからのことについて話しているときには、さすがにびっくりされた。

特に大輔には掴みかかられてしまった。

「おまえ、俺のメカニックやってくれるんじゃなかったのかよっ!俺様は、F1に行くんだぞーー!優秀なメカニックがいないとこまるんだっつーの!!」

「ご・・ごめん、大輔。でも、こないだ、達樹さんと約束してしまったんだ」

「すまんな、大輔。彼は、もう、俺の片腕なんだ」

「たーつーき―――、てめえ!」

むちゃくちゃつっかかる大輔を引き離すみんな。

ごめんよ、大輔。僕も君のメカニックになってあげたかったけれど、でも、君はスターだから、僕よりも優秀なスタッフはすぐ集まるよ。

だけど、達樹さんには・・・


「まあ、私もアニィから話を聞いた時はびっくりしたけれど、連はちゃんと優秀な成績で経済学部でているし、運転も上手いし、スミソニアン財閥の中枢にいたっておかしくない人材なのよね。だから、ごめんなさいね、大輔。代わりに、あなたがF1レーサーになった時はうちがスポンサーになってあげるから。いまの世の中、そっちの方が大事でしょう?」

凛さんが仲裁に入ってくれた。

「そ・・そりゃあ、そうだけどよお」

「と、いうわけで、いくぞ、凛、連」

「ええ、もう!?」

さすがにみんなびっくりしてる。そりゃそうだよね。

「じぃが、荷物まとめてスイスにおくっちまったんだ。もう、あの別荘にもいられない。しばらくホテル暮らしをしてから、スイスに行く」

「ごめんね、みんな。でも、はやく、現実の世界にもなれないといけないから・・・」

「そうだよな。当然だ」

僕を後押ししてくれたのは、以外にも達平だった。

「これからは、みんな、社会人として生きていかなきゃならない。できるだけ早く動くのは正解だ。俺も、復職するしな」

「え?達平さん、FBIに戻れるんですか?」

英司が目をキラキラさせて聞いた。

「ああ、ボスがうまく上層部に取り計らってくれた。特殊捜査班に配属OKならいいってさ」

そうか、達平はとうとう、本当の刑事になるんだ。

「で、美香ちゃん、しばらく、ホテルに泊まりにこない?」

「え?凛さん、いいんですか?」

「うん、だって、アニィッたら、スイート2つもとるのよ。いつもはひとつなのに。連にはやくいろいろ教えなきゃならないからお前はじゃまだって。ひっどいと思わない?」

「えー、それは達樹さん、ひどすぎますう。でも、スイートってすごい。私、憧れだったんです。わあ、どんなお部屋なのかしら」

「じゃ、きまりね」

「よし、じゃあ、いくか」

「お・・おーい」

ひとり、とまどってる大輔を後に、僕たち4人はそのまま、ホテルにむかったんだ。


「そういえば、お前の実家も5つ星の老舗旅館だったんだよな」

「え・・ええ、でも、こういう部屋って規模が違うというか・・・」

ホテルのスイートのあまりの広さと設備にぼーぜんとなっている僕に、達樹さんが笑って語りかけてくれた。

「ありがとう、俺を選んでくれて」

後ろから、そっと僕を抱きしめてくれる。

僕の首筋をついばみながら。

達樹さんの唇は、魔法のようだ。一瞬で、僕の頭の中から、いろんな雑念が消えて、ただ、達樹さんのことだけでいっぱいになる。

くるりと僕を自分に向かせて、唇を重ねてくる。

ああ、達樹さん。

僕がどんなにあなたを愛しているか、どうしたら全部わかってもらえるんだろう。


・・・そのとき、はっと気がついた。

僕は今日、あの戦いの後のままじゃないか。


「あ・・あの」

急に下を向いた僕を怪訝そうに達樹さんは見ている。

「すみません、シャワー浴びてきていいですか?ぼく、今日戦いで汗だくだし、汚れているし・・・」

達樹さんは、目をぱちくりさせていた。そして爆笑。

「そういえば、そうだったな。俺たちを助けるために、敵の本拠地にまで乗り込んでくれたんだったか。悪かった。バスルームはあそこだ。バスローブもおいてあるから」

「あ・・ありがとうございます」


達樹さんの顔をまともに見られないまま、僕は脱兎してバスルームに駆け込んだ。

これじゃ、まるで、今夜、抱いてくださいって自分から言っているようなものじゃないか。

でも、でも、飾るつもりはないけれど、達樹さんの前では、いつもきれいな自分でいたい。

なんか、自然にそう思えるようになっている自分にびっくりする。

あの人が、僕の心の穴を埋めてくれる。

そして、あの人も、僕を必要だといってくれている。

抱いて、抱かれて・・・

今は、それしかないけれど、いつか、もっと・・・


待たせるのは悪い。

急いでシャワーを済ませて、髪にドライヤーをかけようと鏡の前に立った時・・・


僕は、こんなに貧弱な身体をしていたのか

戦っているときはぜんぜん思いもよらなかったことだったけれど。

それなりに、鍛錬はしてきたつもりだったけれど。

考えてみれば、大学を主席で卒業したといったって、普通の経済学部経営学科。

達樹さんの学問とは雲泥の差だ。

達樹さんは、僕を片腕と言ってくれたけれど、そんなこと本当にできるんだろうか。

もし、期待に添えなかったら、その時、僕らはどうなってしまうんだろう・・・


急に不安が込み上げてきた。

僕は、達樹さんを支えるつもりだった。

身も心も全部捧げても惜しくはない。それは、変わらない。

でも、それでも、能力が足りなかったら・・・

達樹さんは優しいから、僕をサポートしてくれるかもしれない。

でも、それじゃダメなんだ。

僕がサポートできるまでにならなければ。


できるだろうか。

いままで、すき放題してきた自分に。

あの程度の旅館を継ぐのすら重荷に感じて、バス会社なんかに逃げ込んだ僕に。


「おいっ、いつまで入ってい・・」


達樹さんがバスルームを開けたとたん、絶句してしまった。

僕は・・泣いていたらしい。


「どうした、なにがそんなに不安なんだ?」

「!」


どうして、達樹さんは、ぼくがぐるぐる考えていたことを読み取ってしまえるんだろう。

これも、あの第六感なのかな。


「ばか、お前の考えてることなんてお見通しさ。初めての世界に飛び込むんだ。足がすくんだっておかしくない」

「でも、僕は、本当に普通で、身体もこんなに貧弱だし、語学だって・・・」


ぶつぶつ言っている僕の口を達樹さんの唇がふさいだ。

「それ以上、なにか、言ってみろ。ただじゃおかない」

いつもの優しくてクールな達樹さんじゃない。この視線は、こんな強い力、見たことがない。

「俺は、今のお前が好きなんだ。それを卑下するようなことは、俺が許さない」

これも、達樹さんのひとつの顔なんだ。

僕が僕のまま、ありのままでいいと言ってくれている嬉しさよりも、驚きの方が先に立ってしまった。


どん、と、僕はバスルームに叩き込まれた。

「そのまま、後ろ向きになって壁に手をつけ」

言うがままになるしかなかった。

「今から、お前にしるしをつける」

「え?」

「俺以外のことを考えることができないように、余計なことに惑わされないように、しるしをつけるのさ」

そういって、壁に向かって突き出したお尻を、達樹さんはぐいぐいと押し始めた。

あ、そこは・・・

さすがの僕も、達樹さんがなにをしようとしているのか、わかった。

「た・・たつきさん、そこは」

「黙れ!俺が認めた男を粗末にした罰だ」

むりやり押し広げられる入り口。

達樹さんが、ゆっくりと僕の中にはいってくる。

「あ・・あう、いた!」

とたんに、口がふさがれてしまった。

「叫ぶことも許さない。お前は、俺が一番大事にしているものを自分で否定しようとした。俺がお前をどれだけ思っているか、その身に刻み付ける。ゆっくり感じろ」

ううう、達樹さん。

頭を貫くような痛みと一緒に、達樹さんの泣き顔が見えた気がした。

達樹さんは怒ってなんかいない。

僕が、達樹さんを信じきれていなかったことを悲しんでいるんだ。


何度も、何度も貫かれる。

痛みとともに、達樹さん自身が僕の身体中に刻み付けられていく。


そのうち、なぜだろう、とても気持ちよくなってきた。

「あ・・はぁ」

ため息が、僕の口から漏れる。

「やっと、慣れたか」

さっきとはうって変わったような、優しい声。

「達樹さん」

「お前は俺のものだ、俺だけの。余計なことは何も考えなくていいんだ。俺たちだけの世界のために」

「離れません。もう、余計なことも考えません。だから・・もっと、ください」

ふっっと、達樹さんが笑ったのを感じた。

「ああ・・望むだけ、くれてやる」

「あぁ、達樹さん、好きです。僕の・・全部はあなたのものです」

「わかった」


何度も何度も貫かれて、そして・・・


気がついたら、僕は全裸のままベッドに横たわっていた。

そして、達樹さんは・・

達樹さんは、あそこを舐めてくれていた。

「痛みはどうだ」

「あ、少しは良くなったようです」

「かなり強引だったからな、裂けてはいないようだが、こうすれば、大分違う」

達樹さんの舌が心地よくて、僕の全身に震えが走る。

「ん?」

「ごめんなさい。僕が・・僕・・・」

また、涙があふれてきた。

達樹さんは、今度は、その涙を舐めとってくれた。

「連、お前は、お前のままでいいんだ。今の連だからこそ、俺はお前を求めたんだ。なにも変わらなくていい。ただ、お前がいてくれるだけで、おれはあの世界でも俺のままでいられる」

「ごめんなさい。利用してくださいといったのは僕なのに。なにか、あまりにも力が及ばない気がして、勝手に不安になって」

「連は連のままでいいんだ。孤独だった俺の前に、お前が現れてくれたとき、本当に、俺は天に感謝したんだぞ」

「達樹さん」

「連、お前だけなんだ。俺を救ってくれるのは」

「僕だって、達樹さんがいない世界なんて、もう、考えられません。」

そう、僕はちゃんと決めてきたんだ。

「連れて行ってください、どこまでも。僕はもう振り返りませんから」


返事はやさしいKiss。


そう、僕は、もう、迷わない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紅のBASARA 神無月 侑子 @hiraran

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ