短編小説

@foret_0316

少女Aの憂鬱

 それはちょっとしたその場のノリと言いますか、好奇心? いや、期待感みたいなものでやったといいますか。

 お風呂からあがり、身体を拭いてパンツを履いて、いざブラジャーを付けますかと、前屈の体制から体を戻そうとしたときだ。

 普段は目にもとめないような位置にポツンと置いてある体重計。それがたまたま目に入った。

 じっくり凝視すること約一分。

 そういえば最後に体重を測ったのはいつだっただろうか。

 少し横着して、足先で体重計を引き寄せる。片足をそっと乗せて離し、ちゃんとメモリが動くか確認してから、思い切って両足を乗っけてみた。

 カタン、カタカタカタ……。

 今は乗るだけで勝手に計測してくれるデジタル体重計や、体脂肪率まで計測するようなものまで販売されているが、我が家は昔の、ほら、お米とか小麦粉とかを図る計量計みたいなメモリで測るタイプだ。

 メモリがメトロノームのように、しかしそれと違って段々と間隔を狭めていき――そして止まった場所の数字に、目を疑った。

 ――52㎏。

 一体何が起こったのか、一瞬分からなかった。その間、私の頭は真っ白けだった。

 私の身長は150cm。適正体重というのは、標準体重=身長(m)2×22で割り出す。身長150cmの場合1.5×1.5×22=49㎏。ちなみに標準体重×1.2を超えると肥満とされている。

 幸い肥満体重には達してはいないが、これは忌々しき事態だ。

 原因はなんだろうと、考えて考えて考えて、一つだけ思い当たることがあった。

 最近、ついつい学校の帰りにコンビニでコロッケやドーナツや焼き芋といろんな味覚を堪能しまくっていた。ええ、それはもうたっぷりと。

 今なら、まだ三㎏なんて余裕に違いない。

 油っこいものや甘いものを摂取するなんて、今の私には罪同然。明日から買い食いは止めて、とにかく運動だ。

 私は固く決意した。


 ……憂鬱だ。

 ここまで見事に現実を見つめたくない心境になるなんて、一週間前の私は考えていただろうか。

 いや、全く考えていないだろう。なぜならそうならないように努力したつもり……だった。

 少しでも体重が減るようにと、まあ意味はないだろうが、思いっきり限界まで息を吐きだし、余計な酸素を吸い込まない内に、急いで息を止めながら体重計に乗っかる。

 ――51㎏。

 ……あれから一㎏しか減っていないじゃないか!

 心の中で盛大に突っ込みを入れながら、意気消沈のまま体重計から降りる。

 ああもうどうしよう。このままじゃ、恥ずかしくてあいつに会えない。

 いつもにこにこ顔でいる白髪のあいつが脳裏に浮かんで、思いっきり溜息をついた。

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