バニラ

広崎 七

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 バニラアイス融けきるころにはあなたの別れ話はおわっていて、返事を待たれない私は乱暴な千百四十円といっしょにテーブルに残される。お済みのグラスもお下げされず、私はひとり頬杖ついて薄ら黒く座っている。テーブルに置かれたやたら綺麗な百円玉が目の端で気に障って、舌打ちする気も起きないのでしょうね。きっと(なにが「俺どうしたらいいかわかんないわ」だよ。私だってしらねーよそんなの。どうしろって)誰もいない対面に頭の中でまくしたてて、(いうの。三十一年製のぴかっぴかの百円なんかつかってんじゃねーよ。なんなの。)ばかみたいに散々まくしたてて、黙ったまま頬杖つい


 て、教授の熱のこもった解説を聞くともなしに聞く。レジュメがいつもより多い今日最後の授業。すこし力をこめて折り目をつける。なんかもういいや。つかれた。別になんか変わるわけでもなかったし。どうしたってどうしようもないようなことがナルヨウニナルとかいってどうしようもなくなっていくのは結局おなじだし。今回は教授のきまぐれで、

「――じゃ、まあ、今日はちょっと早いけどこのへんで」

 早めに終わるし。

「ああ、出席カード前に送ってください」

 平成二十八年一月八日。カードにしるす。未来が見えたってわかったってなんにも変わらない。今日は夜雨降るけど私は傘持ってないし。来週のレポートは提出期限が直前で延びるけどなんやかんや理由つけて私は提出しないし。来年度の夏に本気で恋するひととはその三年後にどうしようもない形で別れるし。未来が見えたらちょっとは生きるの楽になるかもとか一瞬でも、思った私がばかでした。

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