第3話

「こ、ここは……」


 おれは機体の中が外見より遥かに広いことに驚きながら言葉を漏らす。

 外見は普通に街中を走っている軽自動車くらいの大きさなのに中は普通にマンションの一部屋分くらいある。


「時空間移動車。タイムマシンなんて言った方が分かりやすいかな」


 少年はにこやかに紅茶を注ぎながら言う。


「おっと、自己紹介がまだだった。僕はレスポール・ボナパルト。16歳」


 白いウェットスーツのような服を着たレスポールは、右手を差し出す。学生服のままのおれは左手で受け、しっかり握手を交わす。


「剛くんはさ、『夢』だと思ってる?」


 おれは答えることが出来ずに黙った。『夢』だと思いたい。でも、物に触れた感じやあの生々しいほど暖かった血、それに血の鈍い臭いは現実と酷似している。


「これは『夢』なんかじゃない。現実に今起きてることだよ」


 真っ直ぐにおれを見据えて告げるレスポールの顔に嘘をついている様子は見受けられなかった。


「じゃっ、じゃあ! 体育館で血を流して倒れてったヤツらは……し、死んだってのか!?」


 声を震わせ、レスポールの胸ぐらを掴み問い掛ける。

 レスポールはただ黙って頷いた。


「何で……、何でおれだけ助けんだよ」


 胸ぐらから手を離したおれは全ての力を失ったように弱々しく訊く。


「世界を救うために」


 俯いたままだが、力強くレスポールは答えた。


「世界を? 冗談じゃねぇ。おれ如き何ができるんだよ」


「できるよ。僕ときみとそしてまだここにはいない偉大な10人の血を引くものとならば」


 レスポールの言葉はおれたち2人だけのタイムマシンの中を木霊した。


「どういうことだ」


 驚きを隠せないままおれはどうにか言葉を絞り出す。


「人類が誕生したころ。この地球はまだ平和だった。でも、それから100年近く経った時ある化け物が地上に姿を見せるようになった。それがさっき君の見た化け物"魔獣"さ」


「魔獣……」


「そう。あいつ達は元々僕たちの次元にはいない存在なんだ」


「次元?」


「うん、次元。よく言うでしょ? アニメとかのことを"2次元"みたいに」


「あぁ、うん」


「あいつ達は元々次元と次元の狭間で暮らす生物。でもあいつ達は次元を超える能力ちからを付けたのさ。ある物を糧として」


「ある物?」


さ。それから地上には度々魔獣が現れるようになった。欲を喰らいに。ちょうどその頃の地球は狩りをして暮らしていた時代らしくて……、あの集落のあの人より大きいものを、この集落のこの人より多くの、なんて欲が渦巻いてらしいよ」


「でも、どうして魔獣は欲で次元を超えてくるんだ? それに次元と次元の狭間で暮らしてるって……」


 とめどなく溢れ出てくる疑問を口にする。


「それはまだ分かってないんだ。僕のいた世界では、ね。でも、元々あいつ達は人の欲から生まれただけで次元と次元の狭間なんかにいないって説もあるよ」


「そんなやつどうやって……」


「倒す方法があるのかって?」


 おれはこくりと頷く。


「あるよ。それに僕が倒したのを見ただろ?」


「あぁ」


「でも、全部を倒すことは不可能に近いんだよ。人の欲は無くなることはないからね」


「それじゃあ」


 言うか言わないかでレスポールは言った。


「封印だよ」


「封印?」


 意外な単語をオウム返しする。封印なんて方法があるのか、心底で頷く自分がいることに気付きながら話を聞く。


「偉大な10人が作った宝玉ミスリルストーンを集めて、秘島ココロ島の祠に収めればね」


 スケールが大きすぎる……。おれは言葉を失った。しかし、そこである一つの疑問が浮かび上がってきた。

 "どうして今まで魔獣が出てこなかったのか"という。

 おれは思い切ってレスポールに訊いてみた。


「封印が解かれたんだ。どんな地図にも記載されていないし、普通の人には発見することさえできないはずなのに」


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