第43話 月陰の姫君

 この中には自分の両親がいる。

 ルーナはただ暗い表情でその部屋を眺めた。

 ウィルにはやはりこの少女の行動原理が分からない。

 まさか風呂に入りたいというのは口実で最初からここに来たかったのではないか。

 止めるのも聞かずまっすぐにこの食堂に足を向けた彼女を、彼は不審そうに見つめる。

 もうどれがどの王族のものなのかも分からない身体のパーツが散乱、今尚死臭に包まれた部屋。

 と、ルーナが踵を返した。

「エリディア、来い」

「……はい」

 ルーナに呼ばれて、心配そうにエリディアは彼女に寄り添った。

「他の者は別働隊を探すも良いし大客室で待機するのでも良い」

 そそくさと階下へ向かう。慌ててそれを追うウィル。中に入れてもらえなかった者たちは引き返してきた≪望月衆≫一班の二人とルーナを不安そうに迎えた。

「こ、ここは」

「興味本位では覗かないでください。この食堂は……ここから全てが始まったのです」

「……」

 民衆は押し黙る。おかしくなった近衛兵が『偽者』の陛下に命じられて王族を皆殺しにしたことは、洞穴で聞いている。

「……ウィルさん、なんでここまで来て三班と四班が見当たらないんでしょうか……」

 リーザが青くなっていた。

 ここは三階──この棟の最上階だ。

 そして二班と六班が行った方向で起きたことを引きずっている。

「分からん事については考えるな。その辺にいるさ、きっと」

 言いながらも≪ネットワーク≫での安否確認という方法があることを失念しているくらい、動揺していた。

 ルーナは足早に歩いて行く。エリディアがそのすぐ後に続く。やや遅れてウィルたちが追いかける。市民たちの後ろは五班が固めている。

「今はルーナ様の護衛だ」

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