ViReX

紅龍 輝

プロローグ

――初めてそれを見た時、彼女はまだ10歳だった。

その店は彼女が両親と暮らすアパートの大家が経営する店で、彼女は幼い頃から店主と顔見知りであり、度々遊びに訪れていた。その日も店を訪れ顔見知りとなった年若い店員と話していると、突然テレビの画面が荒れ始めた。それを見た店主が壊れたかと首を傾げる。が、店員の方は数秒目を見開いたかと思うと、楽しそうに笑みを浮かべ彼女に声を掛けた。

「いっちゃん、外に出てごらん。良いものが見られるよ」

不思議に思い、言われるがまま外へ出る。歩道では電話をしながら歩いていた人達が足を止め、液晶を見て首を傾げ、道路を走っていた車は緊急車両が来たかのように道の片側へ停車した。が、それらが現れる気配はない。街のあちこちに居た鴉が、何かに警戒するように飛び交い始める。

「――来たよ」

傍らに居た店員が、道の先を指す。数秒の静寂の後、道路のど真ん中を走り抜ける一台のバイク。それを追うように、何頭もの猛獣がビルからビルを飛び交いながら、車の間を駆け抜けながら、バイクを追いかけていく。牛程もある真っ黒な犬が、次々と集団で駆け抜けていく。そしてその一団を追うように、“それ”は現れた。

――ターン…――

「!?」

それは先に駆け抜けたどの猛獣よりも威風を放ち、斎の目を奪いながら駆け抜けていく。他の狼よりも長く艶やかな夜色の毛並をした狼が横切った瞬間、彼女はその向こうに人影を見つけた。正確には、“狼の中に”だ。

「ひ…と…?」

「ああ…ラッキーだったね。あれはViReXヴァイレックスの取り締まり部隊“GARDISガルディス”だよ。フィールドの外じゃなかなか見られないシロモンだけど…見られるなんて、いっちゃんは運がいいね」

彼女の頭を撫で、その場を離れる青年店員。彼女は目の前で起きた事が信じられず、止まった車が動き出しても、しばらくの間その場に立ち尽くしていた。

彼女がその正体を詳しく知る事になったのは、それから十数年後の事だった。


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