第3話 最強と最敬―IKUSA

制服の上から白衣を着ると一直線に研究実験室に向かう

長い廊下の先、4mほどの大きなセキュリティードアにカードキーをかざす

ドアが開くと、凱斗くんに気が付いて一斉に研究員が寄ってくる

「お邪魔します、雨宮主任はどちらに?」

『呼びましたか?プロフェッサー?』

汚れを付けてシワシワになった白衣をした結構だらしないが顔立ちは結構いい男性がやって来る

前髪が長くて左目は完全に隠れているが、見えていない訳じゃない

「すみませんいきなり呼んでしまって、この馬鹿がMMDを壊したもので」

「ここは君の自由にして良いって言ってるだろ?そんな事は気にしないでくれ。元々僕は君に助けられたんだから、それに僕もここに居る皆も君と仕事することを誇りに思っているんだから自信を持ちなよ」

「俺も貴方に助けられた身ですよ」

「まぁその話はいいじゃないか、それで後ろにいる人達は君が通っている学校の―――」

「一条高校生徒会長の叉條院雪風です」

「一条高校委員会連盟代表、松下東十郎です」

「『七術家』の当主さん2人も、これはふざけた事が出来ないですね」

ふざけた拍子だが、さっきまで出していた警戒心は完全に溶けた

技術者を言っているがこの方は只者じゃない、この人と戦って勝てる人を俺はあまり知らない。因みに俺は分からない

「まぁ俺としては早くこの場から帰りたいんで、七泉のハードの予備ってどこでしたっけ?」

「あれは第二倉庫のロックドアの向こう側の一番奥のアタッシュケースの中に入っていた筈」

「そうですか」

『私が行きますよ』

まだ状況を知らないのか新人が俺に提案してきた

「いや、そこのドアを開けられるのは俺か雨宮さんしかいないですよ。それよりもソフトの準備をしてください」

「もう少し命令口調でも誰も怒らないと思うよ、君はあんなすごい術式を完成させているんだから」

「考えて起きますよ」

関係者がいなくなって気まずい雰囲気となる

命令を出し終わると雨宮さんの方が話しかけてきた

「プロフェッサーと一緒に来たという事は、ある程度の事までは知っているって事と受け取っていい話?」

「一応全員、魔力の事と『術式破壊』の事は知ってます。そして自分と七泉ちゃんのMMDを自作している位です?」

「まぁ半分位は知っているって事だね」

「まだ半分なのか、そもそも彼は一体何者なのですか?」

「それはイマイチ僕にも分かってない、最初に会った時には既にあぁなっていたからね」

それが僕と彼の初めての出会いでもあった

彼は初めにあった時は血だらけで倒れていた

「おい!!君大丈夫!?」

3年前、ちょうどこの研究所が出来たと同時に凱斗くんと出会った

すぐに調べて連絡をして見ると七泉ちゃんとその父親だけがやってきた

・・・だけど彼の家族は来る事はなかった、正確にはというべきかな

あとから聞いた話だと事故によって彼の家族はもう誰も残っていなかった

その事故から必死に逃げて着て辿り着いたのが僕の所だった

僕は医者の経験があったから何とか一命を取り留めたが家族はもういなかったという現実を認めなくてはいけない

暫くは何も話す事をしなかったが七泉ちゃんと僕の妹の影響もあって少しずつ現実を認めて元に戻り始めた

僕はそんな彼に少しずつ気持ちを紛らわす為にMMDの技術や術式を教えてあげた

飲み込みが早く、あっという間に常人クラスの術式の情報量は会得していた

ちょうどそんな時に事件が起きた

国際魔法競技大会の生放送を見ていた時だ

この頃凱斗くんは症状も治ってよく手伝いに来てくれていた

「雨宮さん何見ているんですか?」

「国際魔法の大会だよ、どんなMMDを使っているかを調査しないと」

競技が始まり、各選手がMMDを構えて術式を展開し始める

「あの選手、氷柱術式を使いますね。妨害の為かな?」

「えっ?」

そして凱斗くんが言った通りその選手は氷柱術式を展開した

MMDがあるとは言え、使用者が何を使うのかが読み取れるわけがない

ましてやその場にいる訳でもなくテレビ越しで当てるとは

そして代表選手が使う術式なんて普通のスペル以上の情報量だ、機械でも一瞬では読み取れない

「じゃあこの選手は何を使う」

「爆裂系です」

「じゃあこの選手は?」

「短期加速です」

指した選手は全員言った通りの術式を展開した

しかも相手が独自に作り出した術式やカテゴリーに適さない術式までも言い当てた

彼自身そんな事は当たり前だと思っていたのか不思議そうに僕を見ていた

これが彼が最強になっている要因の一つだ

この当時、彼はまだ術式破壊は作り出さしていないが術式破壊は攻撃前の未然に防ぐものだ

高度術式や上級な物となればジャミングでは回避できない、危険なものだ

それを一瞬で読み取って防ぐ、それは同時にも攻撃となる

こんな人材を腐らせる訳には行かないと彼の眼をしっかりと見ながら説得し始めた

「凱斗は今の中学を卒業したらどこに行く気だ?」

「普通に高校に行きますよ」

「どこの高校に?」

「まぁ親が亡くなって今は七泉の家に住ませてもらっていますから出来るだけ学費の安い所ですかね」

「君は一条高校に行った方がいい、国立だし奨学金も出る。何ならここが君の学費を払うよ」

僕の言葉で彼は今行っている学校へと入学をする事となった

そしてまだ数日しか経っていないのに問題を起こして今に至ると

「彼は自他共に認める天才だよ」

「そんな事があったの」

「一応術式破壊のスペルは、一般的な数と同じだけど彼は相手が何を使うかによって使い分けているからスペルが長くなっ

ているんだよ」

簡単に言えば普通の術式破壊はジャミングよりも高確率で止められるが凱斗のは確実に止める事が出来るものだ

その分長く、それ専用のMMDを作らないといけない

だけどそれを簡単に作り出してしまったのが凱斗くんだ

「道理で副会長の士燮君を追い詰める事が出来たのね」

「副会長?彼は術式破壊を使って負けたのかい?」

「えぇ、勝負的には勝っていましたけど少し距離感を間違えて失格負けになったんです」

「距離感を間違えたか、『癖』が出ちゃったみたいだね」

「癖?と言いますと」

「それよりも驚いたのが副会長に勝っていたという事だ」

「彼の実力なら可能性はあったとは思うが」

「これは言ってもいいのか分からないですが、今の彼はので一条高校副会長が負けるという事の方が驚いているんです」

「祠堂があれ以上の力を持っていると言うのですか」

「今は事情が在って『二人共』真の力を出せない状況ですけどね」

「では、彼のバススロットの数値のはどういう事ですか?」

「あれは、彼は術式回路が人の2倍あるって事でその分彼自身の体が常人の2倍の量を作り出しているだけ」

「回路が2倍いうのはどういうことですか?」

「それはね―――」

『俺の姉の回路が混戦しているんですよ』

目的の物が見ったのか手にはアタッシュケースが握られていた

「お姉さんの術式回路が入った?どういう事だ?」

「姉は回復系の術式を使いますが、事故によって家族全員が危険な状態で一番マシだった俺を助けるために自身の回路を自己再生術式と共にして入れたんです」

それが今凱斗が使っている術式、これもオリジナルなので正式なものじゃない

回路が2倍なのだから魔力貯蔵量も二人分なので2倍なのは不思議な話ではない

「ブランク術式は、一般的には知られていないですからね。取り敢えず凱斗くんが何をやっても驚かない自身はあるよ」

「まぁ過去に驚くことをやった前科がありますからね」

「術式破壊以外に何をしたんですか・・・」

「それは僕の口から説明するけどまずは現物を見ないと始まらない、凱斗くんも作業を開始したいでしょ?」

そう言って研究実技室へと移動する

長方形のホールの中、私達はガラス一枚の遮りによって見える場所に移動した

中ではなーちゃんが機械の前に立っており、私達の目でパソコンを操作している凱斗くんの言う通りにしている

『じゃあ七泉、いつも通りあのディスプレイに手を触れて一定量魔力を放出してくれ』

放出している間、MMDの中に術式データを効率性の改善面を構築する

人は術式を使う事によってその放出方法に癖が生じる

自分に合っていない物だとより多くの魔力を出させてしまう

そんな微調整をしながら、指示を出していく

『よし、そんな所でいいだろう。特に新しい術式は完成してないし、あとはこっちで済ませる』

キーボードを操作しながらMMDの中にデータ術式を入れ込む

ソフトも使用するが全く頼らず、全てマニュアルで操作している

10分程度で作業は終わり、完成した

「やっぱ頼りになりますね、凱斗は」

「なら迷惑を掛けないことだな」

ずっとカタカタ打っていたので少し疲れたみたいだ

「お疲れ、腱鞘炎にはならないようにね」

「なら俺に仕事を押し付けないでくださいよ」

「はははっ、厳しいね」

だが冷えピタを持ってきてくれたところは優しいとは思った

そして作業が終わると術式データとソフトに馴染ませるために昼寝をしてもらった

「それで凱斗くんの凄い所を言うのは?確かに今の技術も凄いものが多くありましたけどインパクトが無いというか」

「これが本物だったら結構傷つくな、まぁ確かにこれはほんの序の口だよ」

あれを見てみなさい、と言って先にあった物は遺伝子の様に白と黒の螺旋状に捻れ合った棒が入ったスケルトンケース

大量の粒子が流れており、大きさもあるがアレが何なのかは分からない

ケースからは多くのコードが混線しており、その殆どが天井に張り巡らされている

「あれはなんだと思う?」

「オブジェ共取れますが、簡単な話ではないようですし」

「東十郎くんは何だか分かるかな?」

「あれはエネルギーの粒子だという事は分かるが・・・」

「あれはね『半永久的なエネルギー術式』今ある現行最難題術式の内の一つのね」

雨宮さんの言葉に全員の表情が一致する

「現行最難題術式!!あれは実現不可能なものではないのか!?」

「でも現にここにその術式は存在している、今は研究の為の膨大なエネルギーを賄う為に使わせてもらってる」

「まさか、これを祠堂が作ったというのか」

「そのまさかだよ」

最難題術式はもう4つ

『物質移動の座標転送術式』

『空間的干渉術式』

『心造的な空想術式』

『永久的反重力によるゼログラビティ』

特に半永久的エネルギーは、エネルギー問題を抱える国では実現を目指して、頭の良い人達が必死に現実の物としようとして一から考えている机上の空論

「ちょうどこの場にあまり来なくなった少し前のことだからつい二年前だね・・・あれ?」

全員いきなり信じられない言葉と物を見せられて言葉を考えることすら忘れていた

そしてその張本人がやって来る

「どうしたんですか?と言うかこれ全然冷えてないじゃないですか」

「冷感の物だから常温でもいけると思ったんだけどね」

「まったく・・・それで今の状況は?」

「凱斗くん、本当にあれは君が作ったの?」

「あれって・・・あぁ、膨大なエネルギーが必要だって言っていたから作った奴ですか。理論だけであれを機械化したのは雨宮さんですから」

「祠堂、お前あの術式が何なのか理解しているのか」

「始めは理解していなかったですが試験問題で拝見した時に理解しました」

「凱斗くん・・・君は本当にすごい」

「褒めないでくださいよ、なんか恥ずかしいです」

「国に報告すればこの研究所も一気に名が上がるのでは?」

「確かに、2年も前に完成しているのならその時に何で報告しなかったんですか?」

「元々作ったのは彼だ、彼がレボレーションに報告しない限り私からは報告出来ない」

「えっ!?所有権譲渡したんだから雨宮さんが報告するんじゃないの」

・・・・・

どうやら、ただの行き違いの性らしい

「いや、正直便利だから黙秘し続けているのかと思ってました」

「君の中では僕は結構な悪者になっているみたいだね、それに私利しているのは君の方じゃないか」

「ではこれを機に登録するのですか」

「これは権利とか関係なしに聞きたいんだけど、報告して君大丈夫?」

「あぁ~、まぁ大丈夫ですよ。問題ないです、それに俺と同じ問題を抱えている人がもう一人いるじゃないですか」

「あの子はいいよ、現に君から教わった訳だし」

「はいはい、そうですか。意見も聞かずに偉い事」

良く分からない会話が続いたが解決したのは分かった

「じゃあ名義はどうする?」

「雨宮さん達が良ければ何ですが一条とIKUSAの共同開発って事で出来ます?」

「一条の名義も加えてもらっていいの?君個人で登録すれば世界で有名になれるんですよ?」

「俺は特にこんな術式使ってますし、あまり目立ちたくないんで、それに俺にもメリットはあるので安心してください」

「君らしいね、僕は別にいいし他のメンバーも了承してくれるでしょう」

「だが、一条側は全くのこの技術に携わっていない。それでいいのか?」

「そんな事言ったらこっちだってただ技術を借りているだけだし、君達より少しだけ知っている位だよ」

須賀谷先輩にレボレーションに連絡を送ってもらい、術式データも添付する準備を済ませる

「こっちは完了しました」

「大丈夫?スペル間違いとかない?ちゃんと合ってる?」

「雪風、一応祠堂の技術なのだから一歩引いて」

「お爺様にも報告したら大喜びしてました」

「明日は予定を変更して全校集会でこの事を報告するそうです」

「それにしても本当に凄いですね凱斗くんは、尊敬しちゃいます」

「いや、そんなことないですよ」

工程と術式スペルコード、あとは現物を添付して送ってもらった

あと数時間後にはニュースはこの事で持ち切りだろう

「終わったな」

「所で凱斗くん、君?」

「いや、送る訳無いでしょう」

さらっと普通そうにそう言い返した

「えっ!?どういう事なの凱斗くん」

「いや、添付データはちゃんと本物です。あの通りやればちゃんと発動します」

「じゃあ何?」

「実際に見てもらえばいい話だろ」

そう言って投げられたのはさっきまで着けていた黒い手袋状MMDだった

はいはいと言いながら両腕につけて、実験室に入る

『じゃあいつも通りね』

「分かってますよ、同じ事を言わないでくださいよ」

そう言って手の平を天井の方に向けると莫大な威力の火柱を上げる

そして魔力数値は、バススロットの数値に関係なく遥かにオーバーしていた

「これがあの技術を応用して作られた『人の為の半永久機関』」

これが発動している限りは魔力切れを起こすことはなくなる

現物も同じだが術式が発動している限り、使用者が止める以外は二つの術式を同時に破壊しない限り解く事は出来ない。それが出来るのも彼しかいない

「流石にこの技術を手放すのは惜しかったので入れてません、それに接近戦での術式破壊には防御も含めてこの技術が必要不可欠なんで、他の人にこの情報を公開するのはとても出来ないです」

「彼のフィジカルなら、五・・・いや、七の高度上級術式を展開する事が可能だ」

雨宮さんの言葉が後押しになったのか、黙っていた会長がマイクを受け取って話しだした

『凱斗くん』

「何ですか?」

『生徒会に入りなさい!!席を作るから』

「待て、風紀委員という話じゃなかったのか?」

「俺も祠堂の力を見込んで委員会連盟に加えたいと思い始めた所だ」

『それよりも優秀なんだから生徒―――』

そっから3人で討論となった

須賀谷先輩は情報を整理して返答していて、響先輩はどうして良いのか分からなくてオドオドしていた。

七泉は相変わらずこの状況でも寝ている

『凱斗くん、君日本でも結構モテるね』

こんな風にはモテたくなかったよ、そしてなんでか泣きそう・・・

現行最難題術式の一つが肯定した事は、世界中に知れ渡った

それにより現在学校の前には多くの多国籍報道陣が押し寄せていた

裏口にいると同じ考えの人が大勢いた

「よぉロウ、やっぱり正面突破は難しいよな」

「凱斗か、それにしてもこの人達は何なんだ?」

「結構な人がいて全員が教師達に制止されてましたけど」

「こういう時って保護されるから便利よね」

元々俺が狙っていたのはこれだ

この学校に入学している限り、生徒は保護されている為、国は干渉をする事は禁止される

つまりは、卒業するまでは誰が作ったかは隠される

そしてもう一つのメリットは、その使用権が誰の物になっているかだ

国際術式査定機関に提出したがその名義は高校と企業だ

さっきも言ったが学校と企業ならば個人特定は不可能となり、逃げる事が出来る

そして個人ではないこの高校の人間となれば同時に国がその術式の所有権を持つ事が出来なくなる

簡単に説明すれば、使用するのにお金を払われるのは何もしていない国ではなく学校と企業で分割だ

二つ共関わってはいないが、まぁ同じ学校と同業者の好だ。

多分卒業したらそこに就職するんだろうし、それまではこの学校にいなくちゃいけない。理由はそれだけで十分だ

それに二つとも名を挙げたいと思っていたから良い材料になるだろう

「早くしないとHRに間に合わなくなるわよ」

「そういや、今日は緊急集会があるらしいな」

「これは大きな声じゃあ言えないが生徒会がレボレーションに新しい術式を登録したんだ、それも現行最難題術式の一つの半永久エネルギー術式をな」

ロウや満奈が驚いていたが時間がなかったのであまり長い話は出来なかった

見送ると通学してくる人たちの誘導に戻る

どうして俺がこんな事をしているのか?それは少し前、まだ報道陣の数も少なかった時間に俺はいきなり呼び出された

「ごめんなさいね、お爺様がどうしても話がしたいって言う物だから」

「構いませんが、やはりあの事ですか」

「そうよ、昨日の時点でかなり興味があったらしいわよ」

「と言うか俺の事まで話したんですか・・・」

「いや、気がついたらそこまで送っていたから」

案内された先は学園長室、会長がノックしてからドアを開けると一緒に入る

いくつか高級品が置いてある広い部屋の奥にその人はいた

初老の方でジェルか何かで髪をオールバックにして、つり目だが睨んでいる訳じゃなく何か優しく見ているように見える

「待っていたよ、まぁ来なさい」

「じゃあ私は席を外すわね」

「一緒じゃないんですか!?」

「二人っきりで話したいって言う物だから」

そう言い残して唯一の希望は去っていった

共通の人物が居なくなって何を話したらいいかわからない

「初めまして、俺は―――」

「凱斗くんだね、話は聞いているよ」

「はぁ、でも俺はセカンドですからね」

「容量を超えて一周した間違いのセカンドだけどな」

「あの人、そこまで話していたんですか」

「いいや、雪風はそこまでは話していませんでしたがやっぱりそうでしたか。『白巫女』の弟くんの魔力容量が低い訳がないと思いましたから、そして今の君はを名乗っていますね」

「姉を知っているんですか!?」

「えぇ、彼女は災害や負傷者が多い時に多くの人を救ってくれましたから、そして勿論君のも知っている」

姉を知っているのなら俺の伏せている『真実』も知っていてもおかしくない

「回復術式や治療術式しか使えなかったですけどね、俺の誇りですよ」

「君の結果と雪風の話を聞くと君もあまり戦闘系の術式使いじゃないですね」

「どっちかと言うと戦闘系ですけど俺には戦う物はないと言っておきます」

「『祠堂凱斗』くんにはね」

分かっていた核心的な所を突かれ、少し表情が歪めてしまう

俺の顔を見て何かを納得した様に机の引き出しから何かを取り出した

「これは君のお姉さんの忘れ物だ、君になら使える筈だ」

そう言って渡されたのは一冊のノートだった

かなり使い古されていているが中身はちゃんと姉の字だ

「まさか君がを完成させるとはな、正直驚かされたが納得する面もあるよ」

「そうですか、俺と姉は結構正確が違いますからそんなイメージがあったとは」

「でも君には結構期待している方ですから、どうせならファーストになりますか?」

「いや、そのままでいいです。色々と勉強になりますし、友達や『相棒』を残したままには出来ないですからね」

「そうか、君ならもっと上を伸ばせると思っていたのですが」

「これ以上は有名にはなりたくないですよ」

「では、きっともうすぐここら辺も騒動になりそうなのでこの位にしましょうか」

俺が部屋から出ると良いタイミングで会長が戻ってきた

「話は終わったかしら?」

「はい、まぁ色々と話し込んでしまいました」

「じゃあ今日から仕事をバリバリやるわよ、はいこれ腕章」

「ん?なんですかこれは?」

「腕章よ」

「何の為に」

「生徒会に入った人は全員付けるんですよ、話し合いの結果『執行委員長』という役職で決まりました」

風紀委員の様な仕事で委員連共同じ地位という名目で丸く収まったみたいだ

「いつの間に俺は入ったんですか、と言うか俺の意見も聞かずに」

「生徒会の決定は絶対ですよ、それは校則にも書いてありますよ」

「それが運命ならば俺が変えてみせる」

「カッコ良く言っても決定は決定です」

ちらっと俺の後ろを確認する。よし、誰もいない

「因みに逃げた場合は全校放送で君の事を話しますよ、表も裏も全部ね」

「もう逃げる事が出来ないまで追い詰められていたのか」

「大丈夫よ、基本的な役職は君の自由でいいから」

「ですけど、生徒会役員はファーストしか認められていない筈では?名目上はセカンドですし」

「役員と教員がファーストほどの実力を認めたのならその校則は効力を失います」

この場合は生徒会全員と委員連、それに学園長の承諾まで出てる

これを覆すには―――

「無駄よ、他の教師が承認したのなら可能性はあるけど学園長の承認と生徒会の決定となれば覆すのはもう不可能よ」

ちくしょう、俺がやって来た事が裏目に出てきたという事か

もう口が出せない事を良い事にニコニコしながら俺の事を見ている、俺の負けか・・・

「じゃあ早速仕事よ、校門に記者とか報道陣がいるから生徒達を裏門の方へ案内させて」

「さすが執行委員長ですね」

その後も体育館に移動やその場の警備など執行委員の仕事は多かった

式が始まり、俺は誰もいない二階席から見ることにした

俺が出ても逆に混乱させるだけだからあの場は主任と会長に任せた

いざという時は耳に付けてもらっている通信機で返答を教えている

難なく式が終わり、会長と雨宮さんは会見の為に別のホールに移動する

俺もどうせ行かないといけないから移動をはじめる

そんな事をしていると警報がなる

報道陣がざわつくが風紀委員の方々が落ち着かせている

そして後ろから先輩方が急いだ感じでやってくる

「ここに居たか、祠堂」

「東十郎先輩、須郷先輩、なんですかこの警報は?」

「襲撃みたいだ、それも技術を独り占めしようと考えている人達のな、今は風紀委員達が向かっている」

「じゃあ俺の出番ですね」

生徒会に入ったのは不本意だが入ったからにはちゃんと仕事はこなしていく気だ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る