極彩色真帆の彩色堂

龍導

第1話 少年は線路を駆ける

【1-1】


今年の夏もいよいよ佳境に差し掛かり、いい加減に扇風機だけで暑さを凌ぐのも厳しくなってきた。

都会に比べればまだマシな方であるが、こちら長野も夏は暑いのだ。

こんな日にまで軽々しく呼び出す勤め先の店主の神経はおよそ人のものではない。


「バイトの金でクーラーでも買うべきなのかなあ……」


松本の城下町を練り歩きながら、夏目蓮介は火照った顔で呟いた。

蓮介は松本市の大学に通う学生である。彼は月に一度親から送られてくる雀の涙ほどの仕送りとバイト代のみで生計を立てているため、先ほど述べたような代物を買う財力は持ち合わせていない。

親元を離れてみて、最低限の生活を維持することの困難さが初めて分かった気がした。


「生きているだけで金は掛かるんだから。僕ももっと頑張らなくちゃ」


ならば死んでみればいいのではないか。

基本的に死人を養うような義務は日本にはない。死人に金は掛からない。

そんな破天荒というか、極端というか、聞く人が聞いたなら支離滅裂にさえ感じてしまうようなことを考えながら、蓮介は、目的の場所へとたどり着いた。

その店は、縄手通り沿いにある骨董屋だった。その通りは江戸時代の城下町を再現しているとのことで、いつ来ても心穏やかな気持ちになる。しかし。


「この店は時給以外の取り柄が無いからなあ……」


優しい顔して実に下衆な台詞を吐きながら、蓮介は、古びた骨董屋のドアを潜った。

骨董屋の看板には、達筆で『彩色堂』と書かれていた。


































































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る