初デート記念
春の日曜日、時刻は13時。
電車の窓から見える景色は、満開の桜とそれを見物して楽しそうにしている人達。
俺の横には銀髪美少女が座っている。
車内に人は少ないが、俺達と同い年ぐらいの部活帰りのスポーツマン達が何やらこっちを見てひそひそと話していた。
彼らのニヤついた顔を見れば、会話の内容は予想できる。
優美と一緒にいるとおなじみの反応と言った感じだ。
しかし、本人は気にしていない様子。
初めて出会った時に着ていた桜色のワンピースがあの日を思い出させる。
いや、初めて出会ったというより、久しぶりに再会した時か。
あれからまだ数日しか経っていないのになんだか妙に懐かしく思えてしまう。
地元から少し離れて、都会に向かう。
目的地は祇園四条駅、駅の付近には祇園、四条河原町、新京極、同じ京都とは思えないぐらい人が溢れているが、映画館にゲームセンター、飲食店も選び放題。
これぐらい設備が揃っていれば、安心だ。
さぁ、初デートだ! 楽しみますか!
電車を降りて改札を抜け、4番出口から地上に出る。
目に飛び込んできたのは、四条大橋と橋の下を流れている鴨川、河原にはカップルが桜を見ながら談笑をしていた。
「まずは、映画だな! 橋を渡って河原町のほうにいくか!」
「はい。 それにしても、人が多いんですね」
少し困り顔の優美。
周りを見渡せばたしかに人が多い。
近くには南座に祇園花月などもあり、外人観光客や、家族で円山公園で花見をしに来ている人もたくさんいるようだ。
「優美! これで、大丈夫だ!」
「え!? 隼人さん!?」
普段ならこんなことはしない。
しかし、今日はデートだ。
俺は優美の小さな手をしっかりと握った。
「ほ、ほら、デートだから。 それにはぐれたりしたら困るだろ?」
「そうですね。 い、行きましょうか」
勢い任せに行動してみたが、やはり恥ずかしい。
声が少し上擦ってしまい、繋がれた手から変な汗が出ないか心配になる。
「昨日は、その…… 悪かったな」
「ん? 何がですか?」
「いや、裸…… わざとじゃないし、優美は気にしてないかもしれないけど一応な」
「全然気にしてないですよ。 また見たいですか?」
「ノーコメントで」
いたずらに笑いかけながら俺をからかってくる優美の反応は、いつもの調子だ。
ただ、気のせいだろうか?
俺の手を握っている小さな手から伝わる力が一瞬強くなった気がした。
「今日見る映画って少女漫画原作のやつだよな? 優美は原作も見たのか?」
「もちろん全巻揃ってますよ。 切ないラブストーリーです」
「やっぱり切ない系とかちょっと重たい話が好きなのか?」
「そうですね。 あっ、隼人さんが書いてるハーレム系も好きですよ」
気付いたら映画館に着いていた。
優美の小さな歩幅に合わせて歩いていたが、会話をしながらだと、あっという間だった。
「上映まで、まだ30分ぐらいあるな」
「隣のゲームセンターでも行きましょうか」
「そうだな。 UFOキャッチャーでもやるか」
「もちろん、私に取ってくれるんですよね?」
「まぁ、今日はデートだからな」
映画までの上映時間を潰すためにあるような、映画館の隣のゲームセンターに入る。
まずは、ゲームセンターの定番、UFOキャッチャーだ。
「せっかくだから優美が選んでくれ。 それを俺が取る!」
「ありがとうございます」
自然と俺の手を離して、一人で歩きながらお目当てを探す優美。
さっきまで繋いでいた手には、今は離れているのに優美の体温がまだ残っている気がした。
俺は、優美の少し後ろから何を選ぶのか気になりながら、ついていく。
ピタリと一台のゲーム機の前で止まる優美。
ゲーム機のガラスケースの中には、かわいい白猫のぬいぐるみが入っていた。
「これがいいのか?」
「はい! これがいいです!」
「よし、任せろ!」
余程気に入ったのか、優美は声のトーンが少し上がっていて何やらそわそわしていた。
ぬいぐるみの大きさ的にはおそらく取るのはさほど難しくないはずだ。
しかし、思わず任せろとか言ってしまったのでプレッシャーはある。
失敗しても、もう一度やればいいのだろう。
だが、ここは一発で決めたい。
大丈夫! 俺ならできるはずだ!
根拠のない自信を頼りにゲーム機にお金を投入。
優美に見守られながら、集中力を全開にする。
ターゲットは白猫一匹。
なぁに、軽い仕事だ。
まずは、クレーンを縦に動かし白猫の位置に合わせる。
ここまでは順調。
次に、横にスライドさせて白猫の真上にクレーンを移動させる。
よし、完璧だ!
「いける!!」
思わず声が出た。
クレーンは下に伸びて白猫をガッチリキャッチ!
そのまま、排出口まで白猫を運んできてくれた。
「すごい! 隼人さん! すごいです!」
子供見たいに喜ぶ優美にゲーム機から取り出した白猫のぬいぐるみを手渡した。
「初デート記念ってやつだな」
「はい! ずっと、大切にします!」
俺の手を離れた白猫のぬいぐるみは優美に抱きしめられた。
初デート記念とか少し恥ずかしいことを言ってしまったが、悪くない気分だ。
「まだ、時間あるからレースゲームでもやろうぜ!」
「私、免許持ってないのでできません! やったこともないです!」
「俺も持ってねぇよ! いいからやるぞ!」
優美の手を引っ張りながら歩いて、レースゲーム開始。
優美はひたすら壁にぶつかったり逆走したりとなかなかにおもしろかった。
なにやら、ムキになりながらコースや車が悪かったなど騒いでいた。
普段は冷静でクールな感じもするが、こうやって遊んでいると普通の女子高生だ。
「そろそろ時間だな。 映画館に戻ろうぜ」
「はい。 行きましょう!」
今度は優美に手を引っ張られた。
そんなに引っ張らないでも、俺は嫌がってないのだが。
コーラとポップコーンを調達して、席に座る。
一番前でも一番後ろでもない、真ん中らへんの席だ。
映画が始まり、優美も俺もスクリーンに集中していた。
映画館は映画を観る場所であり、カップルがイチャイチャするための場所ではないのだ。
映画が終わり場内が明るくなると優美と俺は同時にため息をついた。
思わず目が合い笑ってしまった。
映画に集中していると終わった後、ついため息が出てしまうのはなぜだろう?
そんな疑問が浮かんだが、答えが見つからなさそうなのですぐに考えるのをやめた。
映画館を出て、クレープ屋に向かった。
優美は何やらややこしい名前のクレープを頼んでいた。
ちなみに、俺はシンプルにチョコバナナクレープを注文した。
「この後はどうする? 何かしたいことあるか?」
「もう一度ゲームセンターに戻りましょう!」
「またレースゲームやるのか?」
「それはやりません!」
クレープを食べ終わるとさっきのゲームセンターに戻った。
ちなみに、優美はクレープのクリームをほっぺたにつけるというお約束を知らなかったようだ。
クリームを足にこぼしたり、顔につけることなくきれいに食べきっていた。
「それで、何がやりたいんだ?」
「あれです!」
「え……? マジか?」
「マジです」
「あれは、さすがにやめないか?」
「隼人さん、今日はデートなんですよ?」
「いや、わかっているけど……」
優美がやりたいと指を指した先には、コスプレ!!と大きく書いてあった。
そう、コスプレをしてプリクラを撮ると言い出したのだ。
コスプレをしている女の子はかわいいと思ったことはあるが、自分がするとなるとやはり恥ずかしい。
「さっ、行きましょう!」
優美に手を引っ張られてプリクラコーナーへ。
もうこうなったらやるしかないようだ。
「隼人さんは、これとかどうですか?」
優美が選んだ衣装を見て、どこかの黒の剣士さんが頭に浮かんだ。
しかし、他を見てもどれもなかなか選びがたい物が多い。
「優美が選んでくれたやつで良いよ」
「じゃあ、私はこれにしますね!」
優美の衣装は黒に対して白の剣士と言った感じだ。
着替えが終わり、自分の格好を鏡で見る。
恥ずかしいがなんだか、少し強くなった気がした。
この衣装には能力上昇の効果でもあるのだろうか?
優美も着替えて試着室から出てきた。
なかなかに似合っている。
いや、正直めちゃくちゃ似合っている。
「優美、似合うな」
「隼人さんもカッコイイですよ」
「じゃ、じゃあ撮るか!」
「あ、はい! 撮りましょう!」
お互いいろんな意味で赤面しながらプリクラ機の中に入る。
「せっかくここまでしたんだからいろんなポーズでもするか?」
「そうですね! やりましょう!」
俺と優美は恥ずかしさを捨てていろんなポーズをしながらプリクラを撮った。
「え~と…… じゃあ、最後は隼人さん、正面を向いてください」
「こうか?」
「あっ、はい! そんな感じで……」
チュッという音がフラッシュと同時に聞こえた。
「え……?」
「私からの初デート記念です……」
優美は俺よりも顔を紅色に染めていた。
プリクラ機から出てきたプリクラには、優美が俺の頬にキスをしている姿が写っていた。
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