エピローグ2「いつかまた会える日まで」

「プラトー! あなたもぼーっとしてないで、さっさと運びなさい!」

「……ああ、すまんな」


 物思いに耽っていたプラトーに、ブリンダの怒号が飛び交う。

 彼はやれやれと肩を竦めて、資材運びに取り掛かった。

 戦いで失ったビームライフルの代わりに、今は普通の手を取り付けている。

 彼が戦うことはもう二度とないだろう。

 ユウがいなくなってから一年。復興作業は、今日も順調に進んでいる。


「がっはっは! 仕方ねえさ! プラトーは今、ちょっとセンチメンタルなんだ」


 ステアゴルが、いつものように豪快に笑った。

 彼は、他人の五倍の量は資材を抱えて、それでも余裕にしている。

 彼自慢の力は、この日も大活躍だった。


 そこへアスティが、顔を見せにやってきた。


「やっほー! 元気にやってますかー?」

「あら。アスティじゃないの。会うのは久しぶりね」


 ブリンダとアスティは、あのパーティー以来すっかり意気投合して。今ではちょくちょくメールを送り合う仲になっていた。

 アスティは、にこっと笑って言った。


「聞いて聞いて! サプライズ発表! あのラスラねえとロレンツがね! なんと、今度結婚するのよ!」

「へえ! あの二人がねえ」

「ほう。それはめでたいな」


 地味に作業をサボり気味だったジードが、にやりと笑った。

 そこで、アスティは気が付く。

 いつもいるはずの、彼女の姿がないことに。


「あれ? リルナさんは?」

「ああ。あいつなら、想い人を追って行ったよ」

「ふーん。って、ええーーーっ!?」


 仰天するアスティに、プラトーはそれ以上答えず、遠い宇宙を想って空を眺めた。

 幸せにな。リルナ。

 プラトーは、穏やかに微笑んだ。



 ***



 リルナは思い出の地の一つ、ルイス・バジェット研究所を訪れていた。

 ようやく戦後処理も落ち着いてきた、今になって。

 もうこの世界では、自分とプラトーしか存在を知らないだろうから。

 製作者である彼の弔いでもしてやろうかと思って、気まぐれで訪ねたのである。


 ユウ……。


 またふと、彼と過ごした日々の思い出が蘇る。

 彼のことを想うと、幸せな気持ちと、どこか切ない気分が心を満たす。


 わたしは、元気にやっているぞ。お前はどうなんだ。

 今もどこかで戦っているのだろうか。それとも、穏やかな日々を過ごしているのだろうか。


 研究所入り口の壁には、謎の人物A.OZなる人物の書き込みがそのままで残っていた。


「ん?」


 よく見ると、書き込みは。

 元の文章の下に、さらに文字が追加されていた。

 それも、彼女が読めるこの世界の文字で。

 実は赤髪の少女が、時間差で現れるように巧妙な魔法式でこっそり細工をしておいたのであった。

 彼女だけに伝えたいことがあったから。


『追記 リルナさんへ

 どうか、ユウくんの力になってあげて下さい

 ユウくんには、あなたの力が必要です あなたの愛が必要です

 辛いとき 苦しいとき 支えてあげて下さい

 あと、一つだけ

 先は譲りますけど、あたしも負けませんから!

 いつかきっと会いましょう

 ↓ 地下に直した宇宙船 あります』


 リルナは、駆け出していた。


 どうして気付かなかったのだ。

 二千年もの間、自分が眠っていたのは一体どこなのか。


 あのときわたしは、地下に送られていたのではないか!


 苦労の末、地下への隠し通路を見つけて、必死に探し回る。

 やがて、カプセル型の宇宙船を見つけた。

『遠宇宙型2-101』と書かれている。


「ふ、ふふ……」


 リルナは、笑いが込み上げてくるのを抑えることができなかった。


 こんな近くにあったのだ。ユウとまた繋がるための道が。


 どんなに離れても。心は繋がっている。

 かすかにではあるが。

 深く繋がったリルナには、今でもわかった。

 ユウの気配が。ユウのいる方角が。


 機械の身体に生まれて。

 彼と繋がることができても、人のように子を成すことはできない。

 だが今は。

 それすらも、尊ぶべき運命のように感じる。


 わたしは、人よりもずっと長生きができるのだから。


 可能性があるなら。ほんのわずかでも構わない。

 どこまでも。追いかけてやる。宇宙の果てまで。


 わたしのしつこさを、忘れたわけじゃないだろう?


「待っていろ。ユウ。いつか必ず。また会おう」


 何度離れても。

 その度にまた会いに行く。


 リルナを乗せた宇宙船は。

 遥か宇宙の彼方へと、希望を乗せて飛び立っていった。

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