253「ユウ、ハルと一時を過ごす」

 ハルに案内されて、フェルノート都心部にある多目的スタジアムに向かう。そこは人の熱気でごった返していた。


「うわ。これ、みんな俺のために来てくれたの?」

「そうだよ。もちろんレオンの人望やネームバリューもあるけどね」


 ……ざっと1万人はいるな。

 レジンバークはホームタウンだったから2万人も来てくれたけど、さすがにそれよりは少ないか。でも十分だ。

 と思ったら全然違った。


「とりあえず今日の分はこんなところかな」

「今日の分だって?」


 驚く俺に、ハルはにこりと笑う。


「うん。レジンバークでは人が一気に押し寄せて大変だったみたいだから。整理券を配ってね、順番通り日を分けて来てもらうことにしたんだ。徹夜とかじゃなければ、1日に1万人相手できれば良い方だと思うからね」

「なるほど。じゃあ全部でどのくらいいるの?」

「15万人くらいはいたはずだよ」


 15万人!? 桁が違うじゃないか!


「マジか! すごいな。ということは、最低15日はかかる計算になるのか」


 フェルノートは約1500万人が暮らしている都市だから、100人に1人くらいは来てくれた計算になる。

 こんなにたくさんの人が来てくれるなんて。思っていたより全然多い。

 代わりに時間はかかる。ありがたい悩みだな。


「キミと繋がることは、繋がった人を守ることにもなるからね。時間はかかるけれど、やる価値はあると思う」

「そうだな。よし。一人一人大切に繋げていこう」

「でもテキパキやらないとね」

「ほんとは丁寧にやりたいんだけど、そこが悩みどころだよな」


 ほとんど握手会のような流れで、《マインドリンカー》を結んでいく。

 レジンバークと違って冒険者の数は少なく、一般人が多いため、一人当たりから受け取れる力はそこまで大きくない。

 しかし、15万人もの数が集まれば巨大な力となる。

 結局、トータルで奴の3割程度という見積もりを大きく超えて、4割弱かというところまで持ってくることができた。剣麗ハルもほぼ同じだけの力を得ており、来たる戦いに向けての準備は万端だ。

 ただし、思ったよりも時間がかかってしまったのは痛かった。

 というのも、ナイトメアや魔獣は断続的に襲い掛かってきており、その際には繋がりを結ぶ作業を中断して、ハル(時々レオン)と共に防衛戦にあたったからだ。

 ここでは力の大きな伸びを実感することができた。魔神種が相手であっても互角以上の立ち回りができるようになっていた。おかげで被害らしい被害はなく撃退できた。

 それでも、均して二、三日に一度は襲撃されたため、結局合計して一カ月ほどは滞在することになった。

 その間トレヴァークでは大きな事件がなかったのが幸いだったけれど、タイムリミットまで残り2カ月を切ってしまった。早くトレヴァークに戻り、ラナの記憶を集める作業を再開しなければ。

 また、滞在期間中は、できるだけハルと共に過ごすようにした。何より彼女が望んでいたし、俺も死ぬところだった彼女とまた触れ合えるのが嬉しかったのだ。

 もちろん日中はすべきことで忙しかったから、朝や夜の時間などを大切にした。もう会えなかったかもしれないという気持ちや、世界が終わるかもしれないからという思いがあり、今まで遠慮していた分を埋め合わせるように濃密なひと時を過ごした。

 決して打算があったわけではないけれど、繋がりを深めていくことで、俺もハルも一段と力を高められたような気がする。

 ……ただ、何も伝えられないままにハルと仲良くしてしまったことは、リルナには本当に申し訳ないと思う。ごめんなさい!

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