プロローグ

「おめでとう。このゲームは君の勝ちだ」

 主犯格である青年の宣言。それは今回の一件がすべて終わったことを意味している。

 その筈なのだが、何一つとして充実感がない。ただあるのは虚しさだけだ。

 確かに事件は無事とは言い難いが解決した。だが、問題は何一つ終わっていない。

 その上、多くの人間が犠牲になった。それもこれも全てが後手に回ってしまった為に。

「僕はね。人間の愚かしさ。いや、醜さこそがその本質だと考えている、何故だか分かるかい?」

 投げかけられた言葉に僕は拳を握りしめた。それを認めてしまえば、それは――。

「例えばだ。今回の一連の事件も全てはとある人間の愚かしさに起因している。全てはその醜い願望の為にだ」

「黙れよ……。ただ、抗おうとしただけだろ! それをどうして愚かしいと語れる!」

「なら、言い方を変えよう。彼女は自分の望みが叶った事を知ったとき、どんな反応をしたと思う?」

 僕はその次に投げかけられた言葉を聞くことを放棄した。いや、する他なかった。

 嘘を嘘で塗り固めたところで、真実は確かに存在してる。

 そして、その真実とは剣だ。この場合、多くの人間を深く傷付ける。

「分かったろう。立場から解放され全ての枷から解き放たれた時、その人間の本質が現れる」

 ようやく理解した。目の前に立っている男は人じゃない。人の形をした何かだ。

 けれども、魔女先輩とも違う。もっと、冷たい深い闇のような底の知れない何かだ。

「君に興味が湧いて来たよ。君はその立場から解放された時、どのような本質を見せてくれるのかな?」

 僕を見下ろしていた男の目はガラス玉のように透き通っていた。生気すら感じられない程に。

 ただただ、気味が悪い。なぜなら、その目にはその纏う雰囲気とは真逆の慈愛に溢れていたのだ。

 そう、まるで人間という存在を愛していると言わん限りに。

「既に分水嶺に楔は打ち込んだ。直に多くの悪意に塗れたそれは決壊し、この町を包むだろう」

 目の前の青年はソレだけ告げるとこの場を立ち去ろうとするのだが、最後に立ち止まると一言こう言い残した。

「楽しみにしているよ。君がその絶望を前にどのような答えを見い出すのかを」

 これがこの男との初めての邂逅だった。そして、その事件の始まりは三週間前に遡る。

 一つの事件が終わり、夏期講習が始まった。あの暑い夏に。

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