第68話 クロと修行

「それで、この状態からどうすればいいの?」


「……月の力を貯めておく。だからその状態を維持」


 維持、維持ねぇ……。別に血を使ってるからそれは簡単なんだけど……。


「……いつまで?」


「……とりあえず今日いっぱいはずっと」


 えぇ………。それじゃあ今日出来ないじゃん……。


「貯めることは動いていても可能ですね?」


「……ん、可能。でも動くとそっちにも力を使うから貯まりが悪くなる」


「悪くなるというだけで微量でも貯まるのなら問題ありません。マスター、修行をしますよ」


「別にいいけど、魔物は?まさか探し出してくるって言わないでしょ?」


 ずっと何もなしに待ってるよりは修行をしてた方がいいけどさ。ここはダンジョン内じゃないから魔物はいるにはいるけど大量にって訳ではないし、この前の事件からあまり魔物が近くに居ないって隼人が言っていた。


「はい。お相手は私がさせてもらえればと思っています」


 クロが?確かクロは僕と同じスペックなんだっけ。


(ま、スキルの試し撃ちをしてないお前よりスキルを上手く使いこなしてるクロの方が強いだろうがな)


 久しぶりに出てきて言う事がそれか。僕だってスキルの試し撃ちはしたいさ。けどする機会がないだけなんだって。


(今試せばいいじゃねーか。別にクロも殺す気で来るわけじゃないんだ。試して戦術に組み込むのも手だろ?)


 まあ、そうだね。じゃあやってみようか。


「クロが相手なのはいいけど、そういえばクロって今、分身を使ってるから魔力使ってたりしてる?」


「はい。今は分身を奥様の側に1人、ギルドに1人、そして街に何か異常がないかを監視しているのが1人の計3人です」


 おー、自分の判断でそこまでしてたのか。ありがたいね。


「なら補充しておこうよ。魔力が無限にあるって訳じゃないんだしさ」


「そうですね。お願い致します。今の魔力残量的に半年程活動は可能ですが、魔力を使用していくと活動時間はどんどん少なくなって行きますので」


 確かあの時って半分くらい魔力を注いだんだっけ。それで半年なら4分の3くらい注げば合計で1年半くらいいけるかな?


「それじゃ、やるよ」


「はい。魔力を注ぐのは心臓部に近い所からお願い致します」


「わかった。じゃあ背中からやるね」


 クロの背中に手を回し、魔力を注ぐ。


「んっ……あっ……」


 クロから吐息が漏れる。……そういう反応は、その、僕には悪いんで出来ればしないでもらえると嬉しいんだけど……。


「あー!?テツ君!?何してるんですか!?」


「ミ、ミア!?」


 早くないか!?というかなんていうタイミングで来たんだ!?って、ミアの横にいるクロの分身が笑ってる。狙ってやったな……!?


「ミア、これは違うんだ。これは魔力を注いでるだけで……」


「言い訳はダメですよ!もうダメですから!今夜は一緒に寝てもらいます!」


「なんで!?」


 え!?なに!?僕何かされるの!?


「テツ君が浮気しないようにします!」


 それ、何する気ですかね……?


「だぁぁぁぁぁ!もういいだろ!クロ!さっさと誤解を解け!」


 さっきから魔力を注いでないのにずっと蹲っているクロに対して怒る。


「すみません、マスター。どうしても試してみたくなりまして。奥様もすみません。今回の事は私に魔力を注いで頂いているだけで他意はありません。マスターの奥様に相応しいのは奥様だけでございます」


「そ、そうですか?ふ、相応しいだなんてそんな……。今回だけは許しますけど、次からこういうのはしないでくださいね!クロさん!」


「かしこまりました」


「それとテツ君は今日から一緒に寝てくださいね!」


 あれ!?今夜はから今日からになった!?なんで!?とりあえず、話題転換だ。このままだと色々めんどうだ。


「ほ、ほら、魔力提供も終わった事だし、やろうか?」


「そうですね、マスター。一応スペック的には同じですが、スキルの都合上マスターに不利だと思いますので、少し手加減を致します」


「あ、そこは大丈夫。僕もスキルを試しながらやるから。ミアとリンは見てて」


「……わかった」


「はい!あ、夜食はここにありますからね!」


 あ、ちゃんと夜食は出来てたんだ。仕事が早いなミアは。


「……始め!」


 リンの合図と共に僕はとりあえず雷纒、雷歩、クイックを発動する。いつものだ。クロも発動している。


「マスターのいつものみたいですから」


 だそうだ。同スペックで同じスキルを発動していれば速度は同じ。使った意味がほぼ無い。とりあえず他のスキルを試してみようか。


「分身!」


 とりあえず見た事のある忍術の分身を使う。すると、自分の隣にもう一人の自分が出現した。


「まずは分身なんですね。では、行かせてもらいます!」


 クロが暗闇を出し、武器を投射してくる。明らかに僕が持ってなかった武器だし、暗闇の中は共有してない筈なんだけど、その武器どこから出したの?


「この武器達は全て自分で製作致しました。分身を使い鍛治スキルで。場所などはレオンという人から提供して頂きました」


 ……あのギルド長見ないと思ったらクロにそんな事してたのか。


「さあ、マスター、避けてください」


 投射され続ける武器を全て何とか避けていく。分身の方もどうやらある程度の自意識はあるらしく避けている。時々避けられないものが混じっているのでそれは弾く。このまま防戦なのは好ましくないので、反撃に出る。


 脚に風魔法を一瞬だけ使い、加速する。投射される武器と武器の合間を縫うように躱しながらクロに近づき、黒球を投げつける。分身体も同じように避け、こちらは重力場を使用する。


「やはり同じスキルを持っていると何がどう発動するか分かるものですね」


 僕らがこの行動に出るのを読んでいたかのようにクロは重力場の範囲から直ぐに引き、黒球に黒球をぶつけ相殺していた。さらに横に短剣を投擲する。


「あちゃー、バレちゃうか」


 クロの横には僕の2人目の分身体がいた。避ける時に出したものだ。どこに出すかはある程度決められるようだったので横から奇襲をかけてもらおうと思ったのだ。


「なかなかやるね」


「マスターの記憶は保持しておりますので」


 あー、そっか。つまり僕の戦い方とか分かってるって事か。それは辛いなー。

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