第67話 前準備

 休憩後、1階層と同じ方法を2階層でも試したが1階層よりもかなり辛いものだった。理由として、さっきまでとはダンジョンの形状が違う所、魔物の種類が多くなった事。だが、今回はミアと別々では無く一緒に倒しているため辛いのに変わりないが多少の余裕はある。今回はミアが少し危なくなった時にクロが乱入して助けていた。


「全部気にしなくていいのなら思いっきりいけるのになぁ」


「ですよねー」


「それでは修行になりません」


 修行という名目だからこそ派手な大技を使わずにやっている。本当ならこんなに辛い思いはしない相手なのだ。どれだけの数がいようとも。


「マスターと奥様。どうやら夜になったようです。一度ダンジョンから出ましょう」


「ん、わかったよ」


「はい」


 暗闇で1階層にワープし、外に出る。月は……出てるみたいだね。


「ではマスターは私と共にあの兎少女のもとへ。奥様はマスターのお夜食を作っていただければと思います」


 ……普通、メイドが作るものじゃないか?まあ別にミアの料理が食べれるのならいいのだけども。


「わかりました!テツ君楽しみにしててくださいね!」


「うん。簡単に食べれるものにしといてくれると嬉しいかな。後はミアと一緒に食べれるといいかも」


「はい!それでは作ってきますね!」


 ぴゅーっと走り去っていくミアを見つめながらクロにお願いをしておく。


「ミアの料理が完成したら休憩入れてね」


「奥様の為にもそうしたいですが、それはマスター次第かと」


「そっか。あ、ミアにクロの分身つけといてね」


「そちらは既にしておりますので御安心を」


 優秀だなぁこのメイドは……。


「っと、リンは何処だろうか」


「それならば既にこちらに」


 クロが右手を横に向けるとクロの分身に首根っこを掴まれたリンが運ばれてきた。


「……何してるの?」


「……無理矢理連れて来られた。何の用?」


「マスターの月の力会得の協力をと思いまして。マスターを向かわせるのも悪いと思った次第なので連れて来させて頂きました」


「……言ってくれればこんな事して連れて来なくても協力する」


「僕がやってって言ったわけじゃないからね!?」


「……わかってる」


 明らかに僕の方を向いて言ってた気がするのは気のせいなのだろうか。


「……何処でやるの?」


「うーん、あいつと戦った場所でいいんじゃないかな。街の中だと何かあった時にまずいし」


「……ん、そうだね」


 暗闇はセットしてないからアカをって思ったけどアカは隼人が乗ってない時は街の外にいるんだっけ。


「とりあえず街の外に出ようか。アカに乗って行こう」


「……わかった」


「マスター、あの竜はそこまで人数が乗れないと思いますので私は走って行きます」


「ん、了解」


 僕と同スペック以上のクロならついて来れるだろう。

 そうして街を出るとアカがちゃんと座ってジッとしていた。アカがずっと街の外にいるのは魔物を寄せ付けない為ってのもある。街はまだまだ直ってない所が沢山だからね。そんなアカを連れてってもいいのかと思うが僕が飼い主な為自由にしてくれと言われている。


「よーしよし、いい子にしてたか?」


『グォォォ』


 頬ずりをして舌で舐めてくる。犬とか猫がしてくるならともかく大きな図体の竜がしてくると全身涎まみれになる。着替えやタオルなどは暗闇の中に入っているからいいのだけれども。


「はぁ……。アカ、ちょっと乗せてって欲しいんだ」


『グォ』


 良いみたいなのでリンと共に乗る。


「場所は言うから飛んでいいよ」


『グォゥ』





 数分後無事到着し、クロも走ってついて来ていた。


「それじゃ、教えてくれない?」


「……ん。まず、自分の中の魔力とは違うものをちゃんと把握出来ないといけない。魔力把握みたいな感じでやってみて」


 魔力把握か。あれは手に入れるのに結構時間がかかったんだよね。魔力とは違うもの、か。魔力把握を使いながらやってみようかな。


 ………。なんだろう……。このもやもやっとしてて常に体の外に出て行ってるものがそうなのかな?


「なんかもやもやしたものなら感じ取れたけど、それが月の力でいいの?」


「……そう。まさかこんなすぐに出来るなんて」


「魔力把握の時に少し苦労したからね。似たような感覚でやってみただけだよ」


 よかったよ、すぐに出来て。ここから何時間もとかやってたら夜が明けちゃうからね。


「……次は体から漏れ出ている月の力を自分の内に留める。これは方法は何でもいい。私は薄い魔力の膜を体に覆う事で留めてる。この方法だと魔力を常時使う事になるからあまりお勧めはしない」


 ふむ。魔力で抑えることが出来るのか。お勧めしないっていうけどどんなものか分からないし、ちょっとやってみようかな。


「ん、こうかな?いや、こうか」


 魔力単体での扱いにはあまり慣れていないから何となくでしかないが、多分出来ているはず。血や雷纒なんかを纏う感じに似ている。


「……一応、出来てるけどそれだと多すぎる。もっと魔力を少なく薄くしないと魔力枯渇を起こす」


 少なく、薄くっていうのがなかなか難しいんだけどね。血なら必要量出せばいいんだけども。……血でやってみるか?


「……そういえば、吸血鬼だった。血を使えば簡単」


 僕が血を使い始めてからリンがそんな事を言い出した。そういうのは始めに言ってください。それとクロも何かアドバイスとか無いんですかね。


「マスターが私に何を望んでいるかはわかっていますが、生憎私は月の力を使えません。アドバイスの仕様がないのです」


「ならなんでついて来たんだ……」


「マスターに尽くすのがメイドですから」


 そうなのね……。っとこんな感じかな。血の量もかなり抑えて近くで見ても血を纏ってるようには見えないようにした。


「……さっきと同じみたいに感じ取ってみて。体内に留まってる筈だから」


 んー……。あ、本当だ。出て行こうとしているのを跳ね返してる感じがある。


「……これで前準備は一応完了」


「これで前準備なんだね」


 習得には時間がかかりそうだ。

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