第58話 撃破

 光は次第に収まっていき、リンは大丈夫かと心配すると、そこには1人の大人の女性が立っていた。リンと同じ髪色をしたロングヘアーで、頭には特徴的な耳が付いている。身体も出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。アレウスも突然の変化に呆然としている。


 えーっと、どちら様?


「……やっと、月が出た」


 今の話し方、それに声、もしかして………。


「えっと、リン、でいいのかな?」


「……そう。この姿では初めまして」


 ……。なんか空から降ってきた光を浴びたら大人の姿になったリンがいた。どーしよう、意味が分からない。


「えっと……とりあえず、僕ももう参加してもいい?」


 何故か分からないけど大人になったリンだけど、後で聞こうか。今はアレウスの方が重要だし。


「……ん、いい。でも、あれの準備はしてて」


 あれの準備。炎天土天の事だろうね。リンが大人になった事でどう変わったのか、それが気になってるんだよね。


 弾倉を炎天土天のものに切り替え、左に短剣、右に銃を構えて戦闘に参加しようとするが……。


「てめぇ……いったい何しやがった!?」


 リンがアレウスに対して圧倒的な速さで長剣を振りかざしている。先程までとは比べ物にならない程の速さだ。このままもっと削ってほしいと思っていたら。


「……あっ」


 長剣が2本とも同時に折れたのだ。ぽっきりと。何回か長剣でガードしていたのが相当響いていたんじゃないかと思う。


「リン!」


 剣を失ったところへアレウスの拳が入りそうになり、短剣2本を操作して防御させるが、こちらの短剣も2本とも折れリンの腹に拳が入る。


「っ!?」


 しかし、吹き飛ばされはしなかった。僕の短剣が防御した一瞬で少しだけ下がり直撃を避けたみたいだ。


「……危ない」


「ちっ……」


 リンは無事だったが状況としては悪化している。長剣2本が折れたのだから。しかし、リンは徒手空拳でアレウスに立ち向かっている。何か心得があるのか、動きは悪くなく、長剣が無くても相手取りは出来るようだ。


「おーい!鉄!」


 と、ここでポートの方から声が聞こえてきた。隼人の声だ。


「隼人!」


「すまん、遅くなった。街は消火済み、怪我人も回復魔法が使えたり、ポーションを持っていたりする人が治療にあたってる」


「ってことは、仲原さんはポートだね。他のみんなは?」


「こっちに向かってるのは美智永と神代だ。メネア王女様はまた街に火が放たれた時の為に、近藤は護衛だ」


 なるほど。ちゃんと分かれてるのか。


「それと、俺がいるぞ」


 隼人の影の中からレオンさんが現れた。影の中ってどういう事だ。というかここにいて仲原さん達の護衛はどうした。


「嬢ちゃん!これを持ってきたぞ!」


 レオンさんは隼人の影から二振りの刀を取り出した。リンは素早くアレウスから距離を取り、刀を受け取る。


「……いくよ、朔月さくげつ望月ぼうげつ


「そうだ、ミアさんはどうした!?」


「ミアならあそこ。倒れてるけど、大丈夫」


 ミアには回復ポーションを飲ませておいたので怪我はある程度治っている。


「そうか。あいつが黒幕なんだろ?さっさと倒そうぜ」


「それが出来てたら苦労してないよ。今はリンが優勢だけど、僕は今役に立たないからね」


 炎天土天についてと現状についての説明を短く伝えた。


「つまり、確実に当てられればいいってわけだな」


「そうだね。けど、見ての通りどんなに怪我を負わせても動きが鈍くならない。だから長引いてる」


「俺が動きを止めよう」


「なら俺はリンさんと一緒に引きつけだな」


「隼人には無理だ。見ての通り速くて反応出来ない」


「前までの俺ならな。エンチャントウィンド、エンチャントサンダー、風纒、雷纒」


 隼人の脚が風と雷に纏われる。最後に使った雷纒はバッジのもの。他は自前のものだ。


「風纒なんて出来たの!?」


「この前のランク上げの時に出来るようになったんだよ。そっから見せる機会が無かっただけだ。これなら、あの速さにも合わせられる」


 確かに、いけるかもしれない。だが。


「魔力は大丈夫なの?」


 4つも同時展開させていたら魔力消費量は途轍もないはずだ。


「今回に限っては短期決戦だろ。引きつけて動き止めてとどめ。なら魔力は存分に使える」


「……わかった。お願いする」


「ああ、任せろ!」


 隼人は地面を蹴ってリンの下へ向かって行った。アレウスの拳を紙一重で躱したり、捌いたりしている。


「レオンさん、なるべく早めでお願いします」


「それは、あいつら次第だな……」


 リンは二振りの刀でアレウスの身体に傷を付けていく。隼人も僕があげた剣に魔力を流し、魔法を使いながら果敢に攻めている。リンの動きが良くなったからか、次第にアレウスは防戦一方になっていっている。


「今だな……」


 レオンさんが僕の影に入る。影に潜ると影から影へ移動する事が出来るらしい。


「影鎖縛!」


 アレウスの影から突然、鎖の形をした影が大量に出現し、アレウスを縛り上げていく。


「ぐっぐぐぅ、こんな、ものぉ!」


 鎖の形をした影を引きちぎろうとアレウスが身体に力を込めるが、鎖はビクともしない。


「今だ!」


 影から声がする。僕はしっかりと狙いを定めていた銃でアレウスの心臓部へと炎天土天を撃ち込んだ。


「あ、が、がぁぁぁぁぁぁぁぁ。ミストォォォォォ助けろぉぉぉぉぉ」


「離れて!」


 アレウスに炎天土天が命中した瞬間、大量の光と共に熱が放たれ、アレウスの身を炎が燃やし、焦がし、跡形も無く消し去っていく。


「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 アレウスが雄叫びをあげ、光と熱が収まると、そこには何もいなかった。炎天土天が当たった瞬間から魔眼や魔法などが使えるようになっていた為、魔眼で確認していたが、誰かが助けに介入した様子は無かった。つまり、死んだのだ。


「倒した……」


「……倒せた」


「はぁはぁはぁ……。疲れた……」


「お疲れさん」


 何とか、倒す事が出来た。そう思った時。


『お疲れ様、と言っておこうか。よくアレウスを倒した。メルエス、アレウスを倒したお前には感謝しか出てこない。良くやった』


 突然、何処かからか声が聞こえてきた。周りのみんなにも聞こえているようだ。メルエス、あの青髪の魔族の名前だったはずだ。


「誰だ!」


 相手が誰であるか把握したいので、確かめなければならない。現状、一番の候補は今回の事件を引き起こしたもう一人の者だ。アレウスは忍者の主ではない、協力しているだけと

 言っていたからね。


『そうだな。緑、とでも答えておこう。今回は俺の手の上で踊ってもらった。見事、俺の目的は果たされた。また、お前に会うかもしれないがその時は敵ではない事を願いたい』


 緑。青、赤ときて緑だ。アレウスと協力関係だった事から魔族であると思っていいだろう。しかし、敵でない事を願う?いったいどういう事だ?


「どういうことだ!」


 僕は叫ぶが返事は返ってこなかった。もう話す事は無いという事だろう。


「後味が悪い……」


「一人を仕留めただけでも上出来だ。まずは、ポートを再建しないといけない。今回の件でだいぶまずい事になったからな」


 かなりの間火災が発生していた為にほとんどの建物が燃えて崩れ落ちたという。


「……。どうにか、しないとな。行こうか」


 ミアを背負い、全員でポートに戻る。途中でこっちに向かっていた美智永さんと神代君に合流し、街についた。

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