4章 修行
第59話 もっと自分を大切に
「これを一から再建か………」
ポートは何軒か奇跡的に無事な家などがあるだけで、他は全て崩れていた。現在は動ける人によって瓦礫などの撤去が行われている。とりあえず手伝おうとして足を前に出そうとした時、不意に視界がゆらゆらと揺れ、足が動かず前に倒れてしまった。
「はん、どうか……。美智永、さん、ミアを頼むよ。隼人は、僕を、お願い」
最後の気力を振り絞って伝える事だけ伝え、意識は途絶えた。
※※
「はぁ……ったく。無茶しやがって」
急に倒れて意識を無くした鉄には後でたくさん言ってやらないとな。
「まあしょうがなかったんじゃないかしら?今回は一人でダンジョンに行ってそのまま休まず戦ったんでしょう?無理をしないというのが無理な話よ」
「そりゃそうだけどさ……。もっと、俺たちを頼ってくれたって良いんじゃねぇの?」
今回の件にあたって鉄が頼ったのは今隣にいるウサギ耳の女性のリンさんと美智永に背負われているミアさんだけだ。
「まだまだ、私達の実力が足りてないんでしょうね」
「それもあるが、鉄条の場合は俺たちを危ない事から極力避けさせようとしてるんだろ。何かあるみたいだしな」
「何かってなんだよ」
「こんなぶっ倒れるような事をしておいて怪我一つ無いなんておかしいからな」
あー、そっか。神代は吸血鬼の事知らないのか。あの時まだ一緒にいなかったから。
「あー、それか。それは直接鉄に聞いた方がいいな。俺らが言っていい事じゃない」
「そうか」
「あー、話は其処までにしてとりあえず復旧作業手伝わないか?」
レオンさんが目の前の凄惨な光景を見て言う。
「あー、そうですね。そうしましょうか」
「……私はアンシアのとこ、行ってくる」
「ああ、それがいいだろうな。幻覚は一応使っとけよ?」
「……最初からそのつもり」
リンさんはアンシアさんに会いに行くと行ってすぐに跳んでいった。
「さて、やるか……」
鉄はポートを再建させるつもりみたいだし、いったいどのくらいかかるのかね……。
※※
眩しい、そう思って目を開けると視界いっぱいに綺麗な青空が広がっていた。朝のようだ。いったい何日ほど経っているのであろうか。
「あ、あー、反動で落ちたのか……。足は……まあ、動かないよなぁ……」
足が動かないのはフルで雷纒を使った時には起こっていたので今回もあると思っていた。その他で身体に異常がないか調べていく。
「指は動く、手は動く、手首も動くけど腕は動かないっと。首も動くな。どのくらいで治るのか……。なるべく早めがいいんだけど……」
前回は1日2日経ったら動けていた。だけど、今回は限界を無理矢理引き上げた。その反動がどれほどのものかが計り知れない。治らないなんて事はないだろうが、一週間動かないって事になるかもしれない。
「この現状を前にして寝てるしか出来ないなんてなぁ……」
周りには怪我をして寝かされている人や倒壊した家の瓦礫などがまだまだ残っている。どうやら今寝かせられている場所は、瓦礫をある程度取り除いて怪我人などを一まとめに寝かせておく場所のようだ。
「あ、テツ君起きたんですね〜」
左から呼ぶ声がしたので見てみればミアが横になりながらこちらを見ていた。
「怪我は大丈夫?ある程度はポーションで治したけど」
「怪我自体は治ってるんですけど、まだ動く事が出来なくて……」
ミアのも反動か何かなのかな?
「そういえば、ミアってあんなに強かったんだね。びっくりした」
「これでも一応一人旅をしてましたからね!あんまり魔物とは戦ってきてなかったですけど。でも、今回のは相性とちょっと無理をした結果ってものです」
「無理をしたって一体何をしたのさ?」
「えっと、以前魔族の体内には精霊がいないって話をしましたよね」
「ああ、青髪魔族とやった後に聞いた気がする」
「今回の事件で沢山燃やされて精霊は怒っていたんです。水の精霊も居場所を奪われた事でとても怒っていて、私がその怒りを晴らすチャンスとして自分の体内に精霊を取り込んで力を借りていたんです」
「怒ってた精霊の数ってかなりいたんじゃない?そんな事して大丈夫なの?」
「普通は大丈夫じゃないです。魔族の体内に精霊がいないのは精霊が入ると拒絶反応が起こるからですし。あの時、私が血を大量に流していたのは体内に取り込んだ精霊の多さに伴って拒絶反応が大きく出たからです。普通ならあのまま死んでしまう事もあり得ますが、そこは精霊との取り決めで死なないように保護してもらっていたので大丈夫でした。でも、今動けないのは精霊を取り込んだ影響がまだ残っているからだと思います。私が倒れてから精霊はすぐに私の体内から出ていったので、あと少し休めば動けるようになると思いますよ」
……。普通なら死んでしまう事もあり得た?そんな、そんな事をしていたのか。
「……ミア、あんまり危険な事はしないで欲しい。もしかしたら死んでいたかもしれない行為なんて止めてくれ」
「止めません。それだけは譲れません。私はテツ君の彼女です。テツ君を守る力が必要です。テツ君だけ無茶をさせる訳にはいかないんです」
「僕はミアを守りたいんだ。死んでほしくないんだ。だから安全な所にいてほしいんだ」
「私だって!私だってそう思ってます!テツ君に死んでほしくないです!安全な所にいてほしいです!無茶な事だってしないで欲しいです!前回だって、今回だって!前回も一人で無茶をして、今回だってきっと私が付いて行かなかったら一人で無茶をしていたはずです!テツ君が私の事を思ってくれている以上に私はテツ君の事を思っています!私が何回心配したと思っているんですか!?もしかしたら帰ってこないんじゃないかって、酷い怪我をしちゃったんじゃないかってずっとずっと思ってたんですよ!?テツ君は周りを心配し過ぎです!私だってテツ君の親友の人達だってただ守られるだけの存在じゃないんです!テツ君はもう少し、自分を顧みるべきです!大切にすべきです!誰かを守る結果で自分が死んでしまったら意味が無いんです!私達はテツ君が無事じゃないと、ダメなんですよ……。もっと、自分の事を考えてください……」
「……」
ミアが怒ったのは初めてだった。いつも笑っていたり、恥ずかしがっていたりで怒った姿なんて見た事が無かった。僕は、いつもみんなを守る事だけを考えていた気がする。危ないからって、死なないようにって。自分は吸血鬼だから、すぐ治るからって。守られる側の気持ちも考えないで。青髪魔族のメルエスとやった時は不意を付けたから勝てた。不意を付けなかったら確実に負けていた。今回の赤髪魔族アレウスだって僕一人じゃ勝てなかった。ミア、リン、隼人、レオンさんの協力で勝てたものだ。どちらの場合も勝てなかった時には死んでいる。死んだらどうなるか、残された者が悲しみを負う。だからこそ僕はみんなを守れるようにと行動してきた。その行動のせいでみんながどれほど心配していたのかも考えずに。自分を顧みて、大切に、考えて、か。
「……ごめん。みんながそんな事を考えてるなんて思ってなかった。僕をそこまで思ってくれてたなんて、知らなかった」
「いいんです。これからは無茶をしないで、みんなで乗り越えていくようにしてくれれば」
「うん、これからはそうするよ」
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