一方その頃 後編 side隼人4

 ミアさんを連れて、牢に向かう。夜間警備の騎士団の方達がいて、親切に道を教えてくれた。これなら城の構造を王女様に聞かなくてもよかったな。王女様が俺たちに教えるように言ったんだろうけど。


「ミアさん、何があるか分からないからなるべく離れないでくれ」


「はい、分かりました!」


 牢に入れられているし、拘束もされているだろうが、魔族と通じていたらしいし何か隠し玉的なものがあるかもしれないからな。


 騎士さんの案内で牢に辿り着く。土井は1番奥に入れられているらしい。危険がないようにと騎士1人が付いてきてくれる事になった。


 奥に進み、土井がいるという牢の中を覗くと、そこには土井はいなかった。代わりに1人のかろうじて騎士とわかる男性が四肢を捥がれ、頭を潰されていた死体が横たわっていた。


「なっ………。いったいどうなってる!?」


「っ………」


 騎士さんが声を荒げ、俺とミアさんは視線を逸らした。そして、3人しかいないはずのこの場所で4人目の声が背後から聞こえた。


「死ね!」


 危険感知が発動し、咄嗟に回避行動に移るも、脇腹を剣で斬られてしまった。


「ぐっ……」


「ちっ……」


 仲原がいない今、回復手段はポーションが数本といったところ。ポーションも飲んですぐ治るわけじゃない。徐々に傷が塞がっていくだけだ。先手を取られたのは想像以上にきつい。


「どういう事だ!土井!」


「どういうことってのは何に対してだぁ?」


「魔族と手を組んだ事についてだ!」


「はぁ?んなもん魔族の方が有利だからに決まってるだろ?ちゃんと与えられた役割さえこなせば力だって貰えるんだからなぁ!」


 有利?戦力に関しての事か?それに力だって?俺たちが気付かないうちに背後を取られたのもそのせいか。


「土井は帰りたくないのか?」


「あんな世界よりもこっちの世界の方が100倍面白いね!なんであんな世界に戻らねぇといけねぇんだ?」


 そうか。帰る気はないのか。なら、手加減なしだ!


「フレイムソード!」


 5本の火で出来た剣を出し、土井を狙って放つ。しかしどれも避けられてしまった。あの土井の速さ、厄介だな。ミアさんと騎士さんは………距離的には大丈夫だな。


「エンチャントウィンド!」


 脚に風を纏わせる魔法だ。鉄がよく雷でやっているやつを真似して作り出した。同じ雷でやろうとしたんだが、失敗続きで今の所は断念している。


「フレイムボルト!」


 火と雷の複合魔法。普通にフレイムを放つよりも速度が速い。複合魔法はこれと他に1つしかまだ使えない。


「当たるかよっ!」


 土井がまた避ける。だが、フレイムボルトは普通のフレイムとは違う。着弾した後、爆発する。


「うおっ…!?」


 爆発で出来た一瞬の隙を狙って土井に接近、脚の風を解放して風の刃を展開し、剣を落とさせ、防具の上から風の斬撃でダメージを与えていく。最後に『雷魔法』で手足を動かないように痺れさせる。その後、首に剣を添える。


「さて、お前が会話していた魔族について話してもらおうか」


「へっ、知らねぇよ!俺が知ってるとでも思ったのか!」


「本当か?」


「さぁてどうだろうなぁ?お前は俺を殺せないそうだろ?」


「ちっ……」


 クラスメイトを手にかける、魔族の情報を持ってるかもしれない、この2つの理由から俺は土井を殺すことが出来ない。それを土井は理解している。


「騎士さん!土井が動かない今のうちに捕縛お願いします!」


 あいにく俺はそういう道具も魔法も持ってないからな。


「あと監視を数人と情報を引き出す人をお願いします。俺たちは一旦戻ります」


 ミアさんを連れて、使わせてもらっていた部屋に戻る。現状、どうにかして土井から魔族の弱点などを引き出さない限り、俺たちが鉄の所に行っても足を引っ張るだけだ……。


 どうする……。時間だけが無駄に過ぎていく。早く、早く行動しないと……。


 俺が必死に悩んでいると、隣で顔を伏せていたミアさんが急に顔を上げて、部屋の外へ駆け出して行った。


「どうしたんだ?ミアさん!」


「テツ君と魔族の戦いが終わったんです!早く行ってあげないと!」


 なんだって!?ミアさんのこの慌てようはどっちだ?


「鉄は大丈夫なのか!?」


「わかりません!そこまで詳しい情報はまだ……」


 ちっ。鉄、無事でいてくれよ!




 ミアさんと一緒に王都の外まで来た。地面が抉れたりとだいぶ酷い有様になっている。その中で、倒れている2人を見つけた。


「鉄!」


「テツ君!」


 息もちゃんとしている。外傷は見られない。鉄には怪我を治すスキルがあったからあれのおかげだろう。とりあえず、良かった。


 鉄の近くで倒れていた魔族の方は身体がズタズタだった。血があらゆる所から流れ出ている。念のために確認するが、息はしていなかった。


 魔族の方は置いておいて、とりあえず鉄を城まで運んだ。王女様の方にも魔法道具で連絡をしておいた。これで時期に戻って来るだろう。鉄を部屋のベットに寝かせ、ミアさんは鉄のそばに、俺は魔族を回収しに行った。死んでいるとはいえ、何か分かるかもしれないからな。


 王女様達も戻って来て、全員揃った。鉄に一応回復魔法をかけてもらい、交替で鉄のそばに1人ずつ付くことにした。鉄が生きててくれて嬉しかったよ。マジで。王女様が城に滞在していいと言ってくれたので、心置きなく休む事が出来る。早く目を覚ましてくれよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る