第31話 その後

 ふむふむなるほどね。ミアから僕が寝ている間にあったことを聞いた。僕3日間も寝ていたらしい。そんな長いこと寝ていたつもりは無かったんだけどなぁ。3日間も寝たら吸血鬼の方は回復してるかな?


(………)


 返事がないからまだなんだろうな。とりあえず、みんなに会いに行きたい。心配させただろうし。けど動かないんだよねぇ。どうしたものか。あ、ミアに頼んでみんなを連れて来てもらうか。


「ミアーお願いがあるんだけど、いいかな?」


「はい、いいですよ!何ですか?」


「みんなを呼んで欲しいんだ。心配させちゃっただろうからね。あと王女様もお願い」


「わかりました!それじゃあ行ってきますね!」



 数分して、ミアが帰ってきたようだ。声もするからちゃんとみんないるみたいだね。


「おい、鉄!無事か!?」


 隼人が僕の体を揺らしてくる。


「ちょっ、あっ、痛い、痛いからそれ止めて!」


「あ……、悪かった。それでどうなんだ?大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ。今の所、体のどこも動かせないし、痛むけどね」


「そうか……。よかったぜ……」


 やっぱりかなり心配させてたみたいだね。こっちも聞きたい事があるんだよね。そっちの方が心配なんだよね。


「みんな、今回の事で怪我とかしてないよね?隼人が土井に怪我を負わせられたのは知ってるんだけど、それ以外で」


「大丈夫よ。みんな傷1つないわ。鉄条君のおかげでね」


 美智永さんが答えてくれる。いやぁ良かった良かった。僕は『自己再生』あるから痛みを我慢するだけでいいけど、みんなは違うからね。仲原さんが『回復魔法』持ってたけど、仲原さん自身が怪我をしたら『回復魔法』も使うのが難しいだろうし。


「それじゃあ王女様に訊きたいんだけど、あの魔族とかはどうしたの?」


「そうですね。話しましょうか。まず、あの魔族ですが、調べた人によると幹部だったそうです。魔王には幹部が4人いるとの事らしいので、これであと3人という事みたいです」


 あ、やっぱり幹部だったんだ。暗闇でワープ出来るし、あの驚異的な速さを持った能力があったんだし、当たり前か。僕(吸血鬼)が勝てたのも何とか油断させて噛み付けたからだし。あそこで油断してくれなかったら時間切れで僕の負けだったからね。というよりあれほどの強さの魔族があと3人もいるっていうのに驚きなんだけど。


「それで何ですが、調べた人が1つ気になる事があると言われたんです。その魔族のスキル欄が何1つとして無かったんです。鉄条さんは何か分かりませんか?」


 あー、はい。多分それ『吸血』のせいですね〜。けど何1つ無かったってなんでだろう。僕の吸血ってせいぜい2つくらいが限度だったんだけどなぁ。吸血鬼の方が『吸血』を使ったからなのかな?けど、ガルルの時も吸血鬼がやってたしなぁ。訊いてみようか。


「ちょっと関係ある事なんだけど、ガルルのスキル欄ってわかったりする?」


「ガルルですか?まあ分かりますよ。ええっと確か2つあったはずです。『連携』と雷系のものが1つ」


 雷系のは雷纒だね。吸血鬼が『吸血』した時も雷纒しか手に入ってないし、吸血鬼の方も限度があるって考えていいのかな?こんな時に聞けたらいいのに……。となると、今回の件は『吸血』以外も絡んでるって事かな?流石にスキルが1つ2つなわけないだろうし。


「うーん、流石に僕は関係無いかも。僕が関係ない事は分からないや」


「そうですか。魔族の死体は厳重に保管されています。この話はここで終わりですね。それで、あの魔族と関わりがあった土井の方なのですが……」


 ん?土井に何かあったのか?


「何者かに殺されたみたいです。見張りをしていた騎士達も含めて」


 ………。口封じのため、なんだろうね。


「そっか……」


 虐められていたとしても死んでほしくなかったし、クラスメイト全員でちゃんと帰還してほしかったんだけどな……。『血液譲渡』も死んでる人には効かないだろうし。


「蘇生魔法ってないの?」


「ないですね。死んでしまったらもう……」


 蘇生も出来ないか……。それじゃあ全員で帰還ってのはもう出来ないって事か……。


「そっか……。残念だったね……。それで、王女様はなんで狙われてたのかはわかったの?」


 このまま空気が沈んでいくのは良くないから話題を切り替える。


「そちらも分かりません。今の所、今回の件は謎だらけで」


 そっちもわかんないのかぁ。そこが一番重要なところなんだけどなぁ。


「ありがとう。僕が訊きたかった事はもういいかな」


「そうですか。あ、動けるようになったら呼んでください。父様が呼んでいたので」


 扉が開く音がした。王女様が出て行ったのだろうな。


「それじゃあ、鉄条君。私が聞きたい事があるのだけれど、いいかしら?」


「うん、いいよ」


「吸血鬼って鉄条君の事よね?」


 やっぱりきましたか。あんの魔族がみんなの前で吸血鬼なんて言うからぁ……。ま、しょうがないか。バレちゃったならこれ以上秘密にする事もないだろう。


「そうだね」


「はぁ………」


 ちょ、そこでため息ってどういう事?事と次第によっては僕怒るからね!?


「これで納得したわ。なんで鉄条君が強いのかも、レベルが高いのかも」


 吸血鬼ってだけでそんなに分かるのか。僕って城である程度本を読んだくらいの知識しかないからもう美智永さんの方が博識だろうね。旅をする都合上本なんて買えなかったし。


「どういうことだ?俺にも分かるようにしてくれ」


 あ、近藤君は分かってないみたい。隼人、仲原さんは事情を知ってて、美智永さんと近藤君は今知ったけど、美智永さんは知識があるから聞いただけでわかったってことかな。


「鉄条君=吸血鬼で、吸血鬼には血を吸って自身を強くするスキルがあるの。きっと鉄条君はそれを使って強くなったんだっていう事よ」


『吸血』の事だね。強くなるっていうかスキルを手に入れるスキルなんだけどね。スキル以外にも強くなってたりするのかな?レベルとかのせいで身体能力の方で測るのは難しいし、魔力総量は大抵雷纒使うから増えていっててわかんないからねぇ。


「成る程!そういうことか!ってそれずるくね?」


「まあ私たちが0からスタートに対して鉄条君は1からスタートしたってくらいじゃない。その後の増幅値がかなり違うけどね」


 うーん、初手魔法持ってたみんなと違って僕魔法持ってなかったし、みんなの方が1で僕の方が0だと思うんだよなぁ。血もたまたま発見しただけだし。


「あ、僕の事はここだけの秘密にしといてもらえないかな?吸血鬼っていっても半分は人間だからさ。他の人にはバレたくないし、吸血鬼扱いもされたくないから」


「わかったわ。誰にも言わない」


「おう。わかったぜ」


 この2人もきっと言わないだろうから安心だ。なんか徐々に増えてってる気がするし、対策みたいなのないかなぁ。


「そうだ。結局旅に出る?僕が動けるようになるまではここにいる事になるだろうけど」


「鉄が動けるようになってから1日、2日後くらいでいいんじゃないか?その間は依頼でも受けて腕が鈍らないようにしてればいいだろうし」


 みんなから異論は上がらなかった。


「じゃあそれで決定でいいかな。急に呼び出してごめんね。みんなここに来る前にしていたことしていいよ。僕は休んでるから」


 顔が動かないから誰が出て行ったのかわからない。と、思っていたらミアがこちらを覗き込んできた。


「どうしたの?ミア」


「3日間も寝ていたので、お腹が空いてるんじゃないかなって思ったんです!」


 ああ。そういえばお腹空いてる気もする。けど、起き上がれないし、手も動かせないからなぁ。


「気遣いありがたいけど、この状態じゃあ流石に食べられないからまた今度だね」


「そうですか……。それじゃあ何かしてほしい事とかありますか?」


 うーん、してほしいことねぇ……。特にないような気もする。


「特にないかなぁ。ミアもやりたい事やっていいんだよ?」


「私はテツ君の役に立つ事がしたいんです!」


 あー、そっかぁ。そうでしたねぇ。前もこんなこと聞いた気がする。けどねぇ。本当にないしなぁ。今やらなきゃいけないのって全部僕じゃないと出来ない事だしなぁ。うーん……。


「ミアって衣服とか作れたりする?」


「服、ですか?一応作れますよ。スキルはないですけど」


 ミアって家事全般出来るのかな?だとしたら凄いと思う。


「ならさ、この糸で好きな服とか色々作ってよ」


 動きはしないが、糸は出せる。この糸をずっと出していればいいだけだ。後は、ミアのセンスがどうかの問題……。


「わかりました!」


 さて、どうなることやら。

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