第29話 VS魔族 前編

「逃すと思うか?」


 奴が暗闇を出現させ、黒球を暗闇に投げ入れた。その瞬間、危険感知が背後から発動し、慌ててその場から離れると、先程まで僕がいた所を黒球が通り過ぎた。あの暗闇が本当に厄介だ。


「美智永さん、早く!」


 この場で1番正しい判断が出来そうな美智永さんに声をかける。全くわからない相手と戦うのに守りながらは無理だ。


「っ!わかったわ!みんな、一旦王都に戻るわよ!」


 ミアも流石に今回は素直に従ってくれた。残られなくてよかった。


 奴が新たな暗闇を出現させ、その中に入ろうとするのが見えた。その瞬間。パンッ!という音と共に1つの銃弾がそれを阻止する。


「追おうとしたようだけど、させないよ」


(おい、俺に代われ。戦闘は俺の方が得意だろう)


 それもそうか。ならここは素直に従っておこう。僕が起きてる時に代わるのはこれが初めてだね。


「さて、やるか!」


「まずは吸血鬼、貴様を行動出来ないくらいにしないといけないようだな」


 とりあえず、危険感知が頼りだな。奴には気配感知も魔眼も効かないし。


 またも奴が暗闇を出す。しかし、今度の数は今まで以上、7つだ。その全てに黒球が投げ入れられる。危険感知が一気に7方向に働いた。雷步で全て避けるとさらに背後に危険感知が働く。


「っ!このっ!」


 体を屈ませてなんとか躱す。見れば腕を突き出した奴がいた。突きだけで危険感知が働くとかどんな化け物だっての。


「ふぅ。少し、聞いていいか?」


「ふむ。よかろう。私の一撃を避けたのだしな。それでなんだ?」


「あんたは王女を狙ってるんだろ?ならなぜ1番最初の黒球で狙わなかった?あれなら十分殺れたはずだ」


「ふむ。確かにそうだな。だが私にも色々とあってな。私があの小娘を殺すのは少し都合が悪いのだ。まあ殺しても問題は無いのだがな。それに何処に行こうと私の力ならすぐ追いつける」


「なるほどな。疑問が晴れたところで、再開といこうか!」


 雷纒を放ち、糸で動きを封じようと試みる。しかし、雷纒も糸も暗闇の中に飲み込まれ、撃ち返されてしまった。あの暗闇本当に厄介だな。


(そうだね。鑑定も効かないし。倒すにはあれをなんとかしないといけないよ)


 俺はあいつと戦ってるから正体とか対策とか考えといてくれ。そういうのはそっちのが得意だろ?


(まあね。それじゃあ時間稼いでね)


 ああ。


 俺は幾度となく黒球を避けながら、雷纒で何とか反撃を繰り返す。しかしどれもが暗闇に飲み込まれ、撃ち返される。正直言って打つ手がない。ここはあれをするか。


 黒球が来なかった一瞬でポケットから血晶を取り出し、中身ごと飲み込む。そして。


「クイック!」


 俺の体が軽くなり、先程よりも速く動けるようになった。奴が黒球を暗闇に投げ入れた瞬間に肉薄し、血をコーティングした短剣で斬りつける。が、上体をそらし避けられてしまったので、もう1本の短剣でも斬りつけるが、カキンッという音が鳴り、暗闇に防がれてしまった。


 1度距離を離し、今の暗闇について考えてみる。なぜ短剣が飲み込まれずに、弾かれたのかだ。


 血をコーティングしていたからか……?それとも魔法じゃなく物理的な武器だったからか?


(多分、血をコーティングしてたからだと思うよ)


 なんでそう思う?


(奴の黒球は鑑定は出来たから調べてみたけど、魔法的な物じゃなく、何かの金属で出来ているみたいだからね。)


 なるほど。じゃあ何で血だと暗闇に弾かれるんだ?


(うーん、そっちはまだ何とも。吸血鬼の血だからとか色々考えは浮かんでるんだけど、わかんないね)


 そうか。まあ血が効くってんならやる事は1つだ。


 自身の至る所に仕込んだ血晶を取り出し、全てを針に変化させ、投擲する。奴に届く前に全て暗闇に防がれるが、飲み込まれる事はなく、弾かれる。弾かれた針を全て『血液操作』で回収する。


「チッ」


 奴が舌打ちをする。これはもしかすると、暗闇が血を弾く事を知っていたな。そういえばあの夜俺の事を殺せないとか言ってたな……。血のせいなのか?


 とりあえず、血を何度も何度も投げまくる。血を弾いてる間、黒球をこちらに送ってくる様子はない。だが気になるのは防御に使っている暗闇が5つしかないことだ。俺が見ただけでも7つの暗闇を、もし黒球を暗闇から暗闇に送っているのだとしたら14つの暗闇を同時に展開出来るはず。いったい何を狙っている?


「ふふっ。やはりいいな。強者と戦うというものは」


 なんだいったい。いきなり笑いやがって。戦闘狂かこいつは。


「俺は別に強くねぇよ」


「謙遜はよしたまえ。私相手にここまで善戦出来ているのだ。なかなか出来る事ではないぞ?そんな貴様が相手なら私の力を見せても問題なかろうな」


 謙遜なんてしてねぇっての。それに力だと?


「まだまだ手があると?」


「私の力がこの暗闇だけだとでも思っていたのか?それは私を舐めすぎだ。相手が格下なら別に構わないが私のような格上に対してそれはいただけないな」


 頭上に危険感知が反応する。


「くっ」


 掠った。クイックと雷步を使った状態の速さで。速すぎる!いったい何で攻撃して来たのかすら見えなかったぞ!?


 っ!またっ!?何なんだこれ!?おい、なんかわかんないのか!


(速すぎてこっちでもわかんないよ!目視すら出来てないんだから!)


 ちっ。しょうがねぇ。雷纒も込みだ!これなら何とか避けられる!


「ほう。これすらも避けられるとはな。なかなかやるな」


 その余裕そうな感じがイラつく。おい、使うぞ、あれ。


(出し惜しみしてたら負けそうだからいいよ)


 弾丸全てに血をコーティングしていく。この血はクイーンと戦った後に回収した黄色い模様が付いた血だ。あの後、調べてみたがこの血に少しだが電気が帯びていた。雷纒の効果が残っていたのだろう。


 それらを全て装填していく。


「何かしようとしているみたいだが、この闇をどうにかしない限り、私には届かないぞ?」


 んなこと分かってる。だが、こっちにあれの弱点なんてわからないからな。だったらあれが守るよりも速く、攻撃を当てさえすればいいってことだ!


「スロウ!」


 奴の動きを出来る限り遅くする。クイック、雷步、雷纒の出力を全て最大まで上げる。今出せる最大の速度。


「これでっどうだ!」


 守りのためにあった暗闇の隙間、奴がいる場所へ速さを活かした各方面からの射撃を行う。何発かは暗闇に当たったが、それでも完璧に奴に当たったはずだ。撃った弾から血を回収する。その時背後から声がかかった。


「いや、驚いた。まさか暗闇のほんの少しの隙間を狙い撃つなんてね。だが、私には届かない。それにしてもその武器は一体なんだい?」


「なっ………」


 無傷だった。弾痕などなく、銃弾が帯びていた電気をくらったような痕跡もない。今の一撃を完全に完璧に避けられたということだ。


「いったいどうやって!?」


「あの速さには驚いた。私よりも速いし、それに私の攻撃よりも速かった。だが、狙いは私だ。いくら速くなってこちらが遅くなろうと、私が狙われていると判れば逃げる事など造作も無い事だろう?」


 奴の暗闇で簡単に逃げられた。ただ、それだけ。守りに使われていた暗闇はたったの5つ。14つ、たとえ7つだったとしても逃げる為に暗闇を使う事が出来たという事だ。俺は思考を巡らせる。


 くそっ。どうする!?他に何が出来る?どれなら奴を倒せる!?いったい………。


(全て出し切らないの?)


 いいのか?やっても?やったら多分、動けなくなるぞ?


(さっきも言ったよ。出し惜しみしてたら負けるって)


 そうだったな。ならやるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る