第28話 VS土井
消費した鉄などの材料を補充して、ミア達に合流した。旅に必要な物はもう買い終わったらしい。元々少しずつ準備を進めていたらしいからちょっと買うだけで済んだそうだ。
銃はまだ秘密だ。後で驚かせたいからね。それに宗介が完成させるまでは今僕が持ってる1丁しかないんじゃないかと思うからむやみやたらに出すのは控えたいのだ。
「今日というか時間的には明日だけど、ちゃんとしておいてね?」
「わかってる。というか俺たちより鉄の方だろ。しっかりしろよ?」
「うん。大丈夫。じゃあ僕の鞄お願いね、ミア」
「はい!任されました!」
今まで使っていた普通の鞄をミアに預け、魔法の鞄だけを持って動きやすい服装に着替えたのだ。王女の他に土井の方が気になるからね。
「それじゃ時間はまだまだあるから、少し用事を済ませて来るよ」
「おう、気を付けてな!」
隠蔽をかけて城に潜入する。土井が今日何をするのかを確かめないとね。魔王軍と接触してたし、どうせ良からぬことだろうけどさ。
土井の気配は吸血鬼のおかげでわかる。昨日土井の気配を掴んでくれてて助かった。それで、起きてからずっと気配感知で土井をマークしてた。銃頼んでる時に行動されてたら困るからね。結局何も無かったからよかったけどね。まあ何も無かったって事はこの後に何かあるってことだけど。
ん?土井が誰かと接触したな。いったい誰だ?………。王女だな。王女に護衛は……無しっと。さぁて、今日の間誰にも会わずにいた土井がいったい王女に何の用なんですかねぇ?
キンッ!っと金属と金属がぶつかり合う。ふぅ。危ない危ない。間に合ってよかった。
「え?あなた、どうしてここに?」
「王女様が危険かもしれないって思いましてね」
とりあえず、王女を土井から離す。お、土井が僕に気づいたみたいだ。
「な、なんでくず鉄がここにいんだよ!邪魔すんなよ!」
「僕が何処にいたって別に土井君に関係ないでしょ。それに王女様に剣を向けるのを邪魔するなって無理な話だよ」
「うるせぇ!俺はやらなきゃいけないんだよ!」
「魔王軍と契約したから、でしょ?」
「っ!?」
土井が驚きを顔に出す。そりゃあそうだよね。バレないようにって慎重にやってたと思ってたのに既にバレてるんだから。
「魔王軍?いったいどういう事です?」
「土井は僕達が倒そうとしてる敵側に寝返ったっていう事ですよ、王女様」
完全にそうかって決まったわけじゃないけど、あの土井だからねぇ。そんな寝返る振りなんてするわけないだろうし、確定でいいと思う。
「それで、王女様。土井はどうします?さすがに殺すのは勘弁したいんですが。一応クラスメイトですし。」
「そうですね。生け捕りです。それで情報を引き出します」
「了解しました」
さぁて、生け捕りっていうと雷纒で気絶させればいいかな。
「来るなら来いよぉ!くず鉄に負けるほど、俺は弱くねえ!」
あー、そういえば土井の前でちゃんと戦った事ないかも。だから差がわからないのか。
「それじゃあ、行くよ!」
雷歩を発動させ、土井の懐に潜り込み、雷纒を使った拳を土井の腹に打ち込む。しかし、土井はこちらの速さに合わせるようにその拳を避けた。
「へぇ、今の避けれるんだ」
今までの土井の力じゃ今のを避ける事なんて出来るはずがない。騎士団に入ったといっても冒険者の僕達みたいに簡単にレベルが上げられるわけじゃないと思うからね。僕の方がレベルは上だろう。その僕の雷歩も使った速さについてこれるってことは、何らかの力を使っているのかもね。うーん、簡単にいくと思ったんだけどなぁ。
銃は使うと当たりどころによっては死んでしまうだろうし、『土魔法』『雷魔法』は被害が出る。ここ城の中の一室だし。血は必殺だし、王女がいるから使いづらい。糸はまあ使っても大丈夫かな?後は短剣と雷纒か。雷纒は被害を土井にだけにしておけば大丈夫だろう。もし何かの事故で部屋が壊れても王女を助けたって事できっと免除にしてくれるはず。はずだ。うん。
「今度はこっちから行くぞ!くず鉄!」
ん?全然速くない。さっき僕の拳を躱した時の速さを出すのに何か条件があるのか?それとも制限でもあるのか?あ、鑑定してみるか。名前とかいらないからレベルとスキルだけで。
レベル14
スキル:『土魔法』『片手剣』『魔力把握』『クイック』『スロウ』
ふむ。クイックにスロウね。速くさせ、遅くさせるのか。さっきの僕の拳を躱せたのも咄嗟にどっちか、または両方を使った結果だろうね。今使ってないってことは温存か、魔力消費が激しくて使えないかの2択か。
次に来た剣を短剣で受け流し、雷纒を発動。最初と同じ展開を作る。土井がこれをまた避ける。
やっぱり温存してたか。しかも1回目はわからなかったけど、僕の動きが僅か、ほんの僅かだけ遅くなったのを感じた。スロウも発動させたね。それじゃあもっかいいこうか。
避けた土井に接近、拳を振るう。またも避けられそうになるが、今度は違う。土井がぐっ、と呻き声をあげたのだ。相手が避けるってわかってるなら退路を塞げばいい。糸でね。もちろん雷纒済み。か
拳を避けそこなった土井が吹っ飛ぶ。あちゃあ。飛んでった方にあった物壊れてなければいいけど。とりあえず、土井を糸で縛った。ロープは普通の鞄の方に入れてたから今回持ってなかったんだよね。
「いったい何事だ!」
あ、やっと騎士団が来た。遅いよ、もう。
「これはどういう事だ!説明してもらおうか!」
到着した騎士が僕に対して剣を向ける。あー、そっか。土井は騎士団入ってるから状態的に僕の方が悪的な感じに見えるのか。
「その剣を下げてください。その方は私を助けてくれたのです」
「王女様!はっ!了解しました!それでいったいどのような事があったのですか?」
「どうやらそこの土井でしたっけ?その人が魔王軍に寝返ったらしいのです。そして、私に剣を向け斬られそうになった所を助けてもらいました」
「そうでございましたか!無礼をした。許してくれ」
騎士が僕に対して頭を下げてくる。
「いえ、いいんです。さっきの状況的に何も知らなかった騎士さんがとった行動は正しいものだったはずですから」
「すまない。感謝する。それでなんですが、王女様、そいつはどうします?」
「牢に入れておいてください。そして、情報を引き出してください。私達の敵である魔王軍の情報が少しでも手に入るかもしれませんから」
「はっ!了解しました!それでは失礼します!」
騎士が土井を連れて去っていく。よかったよかった。無事事が済んで。
「で、何で王女様が護衛も無しにこんな所にいたんですか」
「少し所用ですよ。それに護衛なんていたら今日の計画に支障が出ます。だから外したんです。そちらこそ何故ここにいたのですか?まだ時間には早いと思いますが」
「土井が何かするって情報を昨日掴んだので警戒してたんですよ。それで、王女様に剣を向けたので、すんでのところで防いだという事ですね」
「魔王軍と繋がっていると言ってましたね。どうやってその情報を?」
「ただの偶然ですよ。魔王軍の奴と土井が話している所を偶然目撃したんです。魔王軍の奴には見つかって本当に危なかったですけど」
(すまなかったな。勝手な行動をして)
あ、いや別にいいよ。それのおかげで今ここで王女を救えたわけだし。
(そうか)
「それで、王女様。準備は出来てます?」
「完璧です。頼まれた物もきちんと」
お、ありがたい。
「それじゃあ荷物だけでも今持って行きますね」
「私も今連れて行ってください。今ならさっきの事に意識が割かれてるので、簡単なはずです」
「無理ですよ。そんな事したら僕が犯人ってバレますって。僕指名手配とかされたくないですから。ちゃんと来ますから待っててください」
「はぁ……わかりました。ちゃんと来てくださいよ」
王女に荷物を持ってきてもらい、隠蔽をかけて宿まで運ぶ。荷物はミアに頼んだ。女性の物だし男に任せるのはちょっとね。
夜中、みんながちゃんと王都から出たのを確認した後、王女を迎えに行った。そしたら何か書いてたから見せてもらったらクイズみたいな問題が書かれていた。どういうことかと聞いてみると。
「全て解き終えると私がポートにいるという事が分かるようにしてあります。流石に何も無しで出て行くと事件として処理される可能性がありますから。普通に置き手紙だと簡単に場所がわかって連れ戻される可能性もありますからね」
ということらしい。ちゃんと考えてるんだなぁ。書き終わったようなので、念のため隠蔽で姿を消して王女を抱えて城を出る。隼人達と合流する。無事何事も無く任務遂行出来て良かったよ。
「みんなお待たせ。行こうか」
「大丈夫です!ちっとも待ってませんから!」
「ああ、それじゃ行くか!」
「「「「おー!」」」」
隼人の掛け声でミアと僕以外が声を出す。なんで僕の時はミアが返事しただけなの?酷くない?
「待ってもらおうか、吸血鬼よ。そこの小娘を置いていってもらおう」
これから旅に出ようとする僕達に対して、頭上から僕達以外の誰かの声が突如投げかけられた。
ッ!!この声、それに話し方といいこいつは昨日の……!
「みんな逃げるんだ!僕が時間を稼ぐから!早く!」
そう。魔族だ。土井と話していたあの。
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