第26話 魔族の企み

 その後も色々話しあってだいぶ方針がまとまった。旅に出るのは2日後の明け方だ。明日じゃないのは、隼人達に旅の準備をしてもらうためだ。後は依頼をしないで、体を休めてほしいことだね。明け方なのは王女がいる関係である。夜中に出た方がバレないのでは?と思ったのだが、どうやら夜中の方が警備が増すらしいので、明け方になったのだ。


「準備はバレないよう慎重にこなします。ちゃんと迎えに来てくださいよ」


「わかったよ……」


 王女を城から連れ出すのは僕の役目になった。1番速くかつ隠密性に優れているのが僕だからだ。普通に置いていきたい気分なんだけど。


 僕と王女が2日後にどうやって王都を出るかを話している時にミアは隼人達と話していた。君達はいいよね。ただ街から出てればいいんだから……。


「そんな事があったんですか!?びっくりです!」


「まあ鉄もここに来るまでは普通に学生してたからなぁ。驚くのも当然だろうな」


 どうやらこっちに来る前の事を話しているらしい。別にいいんだけどさ、あんまり信頼下がるような事は言わないでよ?ミアの事だからたぶんそんなの関係ないだろうけど。


「あ、王女様にお願いしたい事があるんですがいいですか?」


「なんですか?事によっては無理ですよ」


「わかってますよ。城の図書に武器作成関係の本とかあったらそれも荷物に入れておいてほしいなと思いまして」


「それくらいならいいですよ」


 お、ありがたい。作り方をテレビなんかで見ただけだから知識としても欲しかったんだよね。銃なんてこの世界にないだろうから銃の作り方は載ってないだろうけど。そっちはまあ少しだけだけどアテがあったりするから一応大丈夫だと思う。たぶん、きっと。


 その後も色々話し合い、解散となった。解散といっても王女は城だが、他は全員同じ宿だ。飯も宿で出してくれるものを食べ、その日は遅くまで隼人達と色々話した。王女がいたから吸血鬼関係に触れられなかったし。


「そういや鉄って今レベルどのくらいいってるんだ?」


「えーっと、35だね。隼人は?」


「今22だな。オークばっかり相手にしてたんだが、徐々にレベルが上がりづらくなってたみたいでさ。レベルが上がった事を抜きにしても。どうしてだと思う?」


 ふむ。上がりづらくなった、か。うーん。


「僕の考えだからこれが正しいって訳じゃないけど、経験値っていうものがあるんだとして、もうオークから得られるものがないから上がりづらくなった、って事じゃないかな?」


「ん?つまりどういう事だ?」


「えーっと、最初の方はオークと戦って、その立ち回りとか戦略とか色々学ぶでしょ。それが経験値に変換されて、レベルが上がりやすかったんだと思うんだよね。で、数を重ねていくうちに、オークの出方なんかが全てわかっちゃって、もう学ぶような事がなくなったから得られる経験値がオークを倒したっていうものだけになってレベルが上がりづらくなったって事なんじゃないかな。ってこと」


「なるほど。確かに俺たちオークについてもう結構知ってるな。それも戦って覚えたことばっかだ。そういうのがレベル上がるのにつながったってことか」


「うん。まあ僕の考えだから違うかもしれないけどね」


 あと考えられるのはただ単にレベルが上がったからその分次上がるのに必要な経験値が増えたってことくらいかな。


「にしてもクイーンを倒したってのはさすがに驚いたわ。力の差を感じさせられた」


「力の差っていっても全部吸血鬼の力に頼ってるだけだからね。もし半分吸血鬼じゃなかったらきっと隼人の方が普通に強いと思うよ」


「それはどうだろうな。もし吸血鬼じゃなくても鉄に勝てる気はしないわ」


 はて?なぜだろうか。そんなこと無いと思うのだけれど。


「どうして?」


「鉄には知識があるからな。色んな事してもすぐ対策取られて何も出来なくなりそうだ」


 あぁ。まあ確かにそうかも。隼人って動きがある程度単調だからねぇ。


「ま、そんな事よりもだ。あの子について話してくれよ。いったいどんな理由があって同行してるんだ?」


 うーん、ミアの事を僕が勝手に言ってしまってもよいのだろうか。そういうのは駄目な気がするんだよなぁ。


「あんまり僕が言っていい事でもないんだよね。そこはミアに直接聞いたらいいよ。答えてくれるかわからないけど。僕の事は大抵話してあるし、信頼は出来るから安心していいよ」


「そっか。それじゃあ今度聞いてみるかな」


 僕に関してなら話しやすいだろうし、その時にでも聞くだろう。


「そうだ。魔法道具の事だけど、多分試作品は移動中に作れると思うよ」


 隼人に頼まれた魔法道具があるのだ。作れるかどうかはやってみないとわからない。まあ完成させるけどね。絶対に。


「お、そうか!楽しみにしてるぜ!」


「うん。それじゃあ今日はもう寝ようか。明日の準備しっかりね」


「わかってるよ。そんじゃな!」


 隼人の部屋を出て、僕の部屋に戻る。明日は色々回らなきゃな。




 アンヨドの時以来だから結構久しぶりか。俺が出てくるのも。今回出てきたのは魔法道具探しのためだ。王都のどっかにあるかもしれないからな。


 普通の魔法道具屋に行ってみるが結果は無し。まあ期待してなかったけどな。後は裏か。


 王都に裏魔法道具屋というものがある。普通の魔法道具屋では扱えないような危険な物が売ってるらしい。その分値段も張るが。


 ないな。だが、少し欲しい物があったので買った。


 やっぱり何か探知出来るような手段がないと厳しいか。魔法道具探知なんてスキルはないし、魔法道具で作るしかないか。そこはあっちに頼むとして、城行ってみるか。国王なら持ってそうな気もするしな。


 警備ザルだな。ただ隠蔽を見破る事が出来てないだけか。城のどこを探せばいいんだろうか。記憶探っても図書室と部屋、修練場くらいしか場所が把握出来ない。適当に部屋見つけたら入ってみるか。


 場所がわかる所以外で気配感知を使い、人がいない所から調べていく。それにしても広い。全く調べ終わらないな。


 その後も何十分と気配感知を使いながら探索したが、結局マークの付いた魔法道具は見つからなかった。後は気配感知にかかり、中に人がいるだろう部屋を探すだけなのだが。


 どうやって探すかね。隠蔽かけてるから姿を見られる事は無いだろうが、もし中にいる奴が俺がドアを開けるところを見ていた場合、かなり厄介な事が起きるだろう。……今回はここまでにしておくか。探知出来る物が出来てからまた来る事にしよう。



 城から出る途中、月明かりが廊下を照らし、誰かが話しているのが見えた。


 誰だ?こんな時間に。一応隠れて内容を聞いてみるか。


「ーー本当だな?」


「ああ、本当だとも。貴様がきちんと役割を果たしてくれれば、の話だがね」


「やってやるよ。それでいつだ?」


「明日だな。気付かれる事の無いよう慎重に事を運べ。気付かれた時点で貴様の望みは潰えるだろう」


「わかった。それじゃあな」



 今話していた片方は土井だ。冒険者になれなかったから騎士団に入ったようだが、いったい今話していた相手は誰だ?この世界のやつみたいだが、魔眼で見ても反応が無かったし、土井が立ち去った後、丸い暗闇の中に入っていった。あれは『空間魔法』で作り出せるようなものじゃない。なんなんだあれは?


 俺が土井が話していた相手の正体を思考している時、不意に後ろから声をかけられた。隠蔽をかけている俺に対して。


「貴様は何者か、答えてもらおうか」


 青髪、緑色の肌をした奴が背後に立っていた。


 ッ!?さっきの奴か!?何故後ろにいる!?気配感知は常時発動していた。奴の正体を探るために魔力把握も外に向けて発動させていた。その2つを掻い潜りさらに隠蔽を見破る程の実力?まずい!


 雷步を即座に発動し、距離をとる。またも奴が暗闇の中に入るのが見えた。すると、俺の背後から声が響く。


「私に見つかったのが運の尽きというものだ。逃げるのは諦めて質問に答えてもらおうか。貴様は何者だ?」


 くそっ。どうやって背後を取っている!?あの暗闇はなんだ!?何者かなんてこっちが聞きたいことだ!


「………吸血鬼だ。あんたは何者だ」


 考える時間を稼ぐべく、とりあえず質問に答えた。名を名乗るのは馬鹿のやる事だし、嘘をつくにも、ある程度本当の事を織り交ぜなければすぐ見破られる可能性もある。それで吸血鬼だ。


「私は、メルエスだ。ほう、吸血鬼か。なら貴様はなぜこんな所にいる?いったい何をしていたのか、答えてもらおうか」


 ここでマーク付きの魔法道具を探していたと答えるわけにはいかない。どう考えてもこいつは敵だ。あの占い師の敵でもある可能性もある。とりあえず吸血鬼らしい事を言っておくか。


「……血を吸いに来た」


「ほう、血か。血なら雑魚な人間共のものでなく、魔物の方でも吸っておけ。その方が貴様のためになる」


 思考は読めないようで安心した。だが、なんだ?俺のためになるだと?なぜいきなり?


「貴様、私達の仲間にならないか?」


 勧誘か。これは俺が吸血鬼だからってことか。人間を雑魚呼ばわりしてたし。ま、答えは当然NOだな。だが……。


「……仲間ってなんだ?何かの組織か?」


「おっと、そこを言ってなかったな。私は魔王軍に所属しているのさ」


 ちっ。やっぱり魔王軍か。随分とデカイ態度だしこいつは幹部とか高い位にいる奴って考えてもいいのかね。


「断ったらどうなる?殺されるのか?」


 とりあえずこれを聞いておかなければならないだろうな。もし殺されるというのなら全力で逃げるまたは倒すしかないんだが。入ったふりをするという手もあるにはあるが、もし首輪的なものを付けられて、命令を必ず聞くとかされたら、かなりめんどくさくなるからな。


「吸血鬼を殺す事などしないさ。というよりも私にそのような力が無いだけだがね」


 背後を簡単に取れるような奴が吸血鬼を殺せないだって?吸血鬼の俺や僕の方が知らない何かが吸血鬼って種族にはあるのか?


「まあ、断られたら見逃すとしよう。今貴様が仲間にならなくともいずれ貴様の方から頼み込んでくるだろうからな」


 それはあれか?魔王軍が支配するからとかそんな感じか?そんな事になったとしてもこっちから仲間にしてくれなんて頼まないけどな。まずそんな事させるはずないが。


「それじゃあ今は断らせてもらう。俺にも色々とやる事があるからな」


「そうか」


 奴は俺の返答を聞くと暗闇に入ってそのまま消えていった。結局魔王軍ということしかわからなかった。土井が何かをするようだが、やるのは明日らしいし、あっちの僕にでも任せるか。

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