Dark & Light Blues

夢幻一夜

 その昔、人は奇跡を奏でるすべを持っていた。

 それは美しい旋律と共に紡がれる神からの祝福恩恵だった。人々はその恩恵奇蹟に畏敬を抱いて祝聖と呼んだ。

 だが、時を経て人は祝聖それを互いに傷つけあうために使い始めた。

 そうして人を癒し物を直し世界を満たした優しい奇蹟は、軽々と人を殺し物を壊し世界をえぐる恐ろしい武器恐怖へと人は貶めてしまった。

 幾度となく繰り返された戦争はそのたびに深く広くなり、祝聖使いと呼ばれた戦士たちはついに死神と怖れらるようになった。

 ―――しかし、死神彼等の栄華の時は長くなかった。

 祝聖を司る神々の怒りに触れたのだ。

 当然の事と言えば当然の事だろう。人は怒りそれを買うのに必要充分な蛮行を繰り返したのだから、その反動は当たり前の事だった。

 それは突然全ての人の頭に直接声が流れ込んできたのだと云う。


「人よ、奏声祝聖失え忘れよ


 その時、人は祝聖を失った。

 それでも人はこれまで手にしていた『楽』を手放すことに耐えられなかった。だから、幾つもの夜と朝を越えた先で人は見つけてしまった。

 高らかにうたう祝聖にも似た、しかし優しく人々を守ってくれた暖かな光を欠いた力を。

 いつの頃からか、その力は魔法と呼ばれるようになった。

 神々の祝福を失い、それでも力を求める欲深浅ましさの象徴だと言わんばかりに、その名前は驚くほどの早さで伝わった。


 世界を無理矢理改編する異形のわざだと、そう言われた。

 今なお、魔法と云う名称を改めようと言う人はいない。



―――――――『史記』神聖の章より抜粋

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