剣と魔法のファンタジー戦争

蓮実 百合

始まりにして終わり

 いままで共に戦ってきた仲間が次々倒されていく。その光景をただ見ていることしかできない自分が嫌で嫌で仕方なかった。だからその日誓った。この手で仲間たちを、仲間たちとの平和な日々を守っていくのだと。

 青い海に蒼い空、そして碧い草原。平和が似合うこの街が戦火に包まれたのは一月ほど前のことだった。戦争を嫌う平和主義者の国王が治める王国の辺境にあるこの豊かな海岸沿いの街に周囲の国へ帝国の軍が来た。

 帝国軍はろくな力も持たないこの国を侵略し、その豊かな資源を奪い取るつもりなのだろう。

 戦う力が無いこの街はあっさりと帝国軍の手に落ち、帝国は一握りの駐屯部隊のみを残し王都に向かった。

 この街を治める町長の一番目の息子は帝国駐屯軍に抗うための自警団を組織した。

 二番目の息子は王都で騎士団に所属しており、故郷が侵略されたとの知らせを受け、急いで街に戻ってきた。

 三番目の息子はまだ十四と幼いため姉と妹の手伝いをしていた。

 ある日。この街に傭兵を名乗る男が現れた。男は街の酒場で自警団の話を聞き、自分の仲間に連絡を取ると一番目の息子に力を貸そうと提案した。

 一番目の息子も二番目の息子もそれを喜び、男とその仲間の傭兵たちを自警団に迎え入れた。

 その日。街の近くの森に友人たちと薬草を採りに来た三番目の息子は魔物に襲われた。

 友人たちは街に逃げたが、弟のように可愛がっている少年が逃げ遅れた。正義感の強い三番目の息子は持っていた弓に矢をつがえると魔物の目に向けて放った。

 だが、恐怖に震える手では上手く狙うことができずなかなか当たらない。やがて矢を鬱陶しがった魔物は対象を少年から三番目の息子に変えた。

 魔物の爪が三番目の息子に振り下ろされる。その瞬間だった。一本の矢が魔物の手に刺さったのだ。その矢に魔物が怯んだ隙に死角から飛び出した何者かが魔物を切り捨てた。

 恐怖に閉ざされていた瞼を開くと一つの影が目に入った。

 少年と三番目の息子を助けたのは傭兵の男とその仲間の弓使いの青年だった。

 男と青年は三番目の息子の友人から魔物に襲われ、二人が逃げ遅れたことを聞き、助けにきたのだ。

 このときの青年の弓の腕に惚れた三番目の息子は青年に弓の扱い方を教わることになった。

 それから数年の月日が経ち、三番目の息子は立派な青年に成長した。彼と少年はあのとき自分たちを助けてくれた男の傭兵団に加わり、帝国に支配された王国を解放するために戦ってきた。

 街から帝国駐屯軍を追い払い、時には収容所の人々を解放していくうち、いつしか傭兵団は一つの軍となっていた。

 王都から逃げ延びてきた現王の娘を助け、王国に暮らす多くの人々を助ける解放軍の名は帝都にいる皇帝の耳にも入っていた。

 高く澄み切った青空の下。王城では解放軍と帝国軍との戦いが繰り広げられていた。

 圧倒的な兵数の帝国軍本隊を相手に解放軍は圧されていたが、この国を救うのだという思いが兵たちの力になっていた。

 やがて戦況は解放軍に傾き始めた。帝国軍の司令官はこのまま戦っても意味がないと判断し、軍に王国からの撤退を命じた。

 こうして王国は帝国から解放された。

 戦後処理が終わり、落ち着きを取り戻した王都で捕らえられていた王女の兄の戴冠式がおこなわれた。

 帝国により荒れた国を纏める新しい王の誕生に王都中の人々が喜びにわいた。戴冠式の後、三番目の息子と弟分の少年は王妹となった王女に騎士団に入らないかと誘われた。元々騎士団員である兄に憧れていた三番目の息子と少年は喜び、誘いを承けることにした。

 後に三番目の息子は王家のため国民のために尽力し、多くの人々が幸せに暮らせることを願い続けた。

 弟分の少年は後に騎士団長となり、後世に名を残すこととなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

剣と魔法のファンタジー戦争 蓮実 百合 @kazusatamaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る