しろあげないっ!

帝ちゃん王子

第一章 白旗の女子高生編

オープニングステージ チェスを知ってるかな?

 私は、今口をつけようとしたティーカップの手を止めた。


 分厚く、重くその扉はゆっくりと開かれていくことに気づいたからだ……。

 薄暗く広がった空間に、あの人の困った表情が伺える。

「いらっしゃい。よく来てくれたわね。……何をしているの? こっちよ。ここに来て一緒に話しましょう」

 テーブルに、私はもう一つのティーカップを置いて。

「貴方のこと――ずっとここで待っていたのだから」

 



 そうね――『あの世界の始まり』から話しましょうか。




『バブル』……この単語をあなたは耳覚えがあるかしら?

 最近の若者。主に中高生の学生さんたちは社会科・経済の授業で聞き覚えのある単語でしょう。

 あなたの両親は少なかれ、この経験を積んで生き抜いてきたはずです。

 簡単な説明をすれば、

『一台百万するテレビを「欲しいから買っちゃお☆」と言って何の迷いもなく買う人』。

 信じられます?

 こんな思考で生きる人が日本全国何千人も居たのだからさぁー大変。

 皆が皆。欲を剥き出し、欲しい物も我物の世界。

 

 でも。バブルに、一生なんて存在しなかった。

 

 それから2053年。

 ――世界は今、バブル好況気を迎えていた。

 驚くことに、一つや二つの国だけがバブルと可愛いものじゃない。

 ……今。世界のすべてがバブルを迎えていたのだ。

 昔。裸で暮し、トラやトリ……もちろん野生の動物。

 心を鬼にし命を懸けた狩りを続ける……飢えを凌いで生きていた民族。


 なんということでしょう。


 全身。虎の毛、ウール100%。

 十万はバカにならないバスローブをこれ見ようがしに着こなす。

 その表情には……ニヤァっと笑い。金歯を見せつける元裸族!

 お昼時になれば、豪華に綺麗に並ぶ七面鳥、トリュフ、エスカルゴと名の高い絶品料理の数々。

 惜しみなく、右に掴んだフォークが次々とホイっホイっっと。三ツ星シェフが作り上げた作品達を、贅沢な味を覚えた舌の上へと投げ込む元裸族!!

 人類。約八割の人間が富豪へと変わり果てていた。

 

 ……そんな溺れ切った世界に、一つの『話題』が人々の目を釘付けにしていた。

 

 盤上の世界で、決められた駒達を動かし、己の戦略を生かして戦うボードゲーム。

 ……いや、国民的スポーツ。

 『チェス』だ。

 ドラマ、アニメなどで見たことはあるだろう?

 

 このバブルに乗っかろうと。アメリカ大統領はイギリス王族とこの企画を建てた。

 

 『ただ』それだけなら、世界の話題にはならなかっただろう。

 『ただ』それだけなら、チェスの好きな人々にしか興味は湧かなかった。

 『ただ』それだけなら、こんな今の世界に、誰も目を向けなかったはず。


  そう。

 

『ただ』それだけなら。


 人々は、その優勝賞金額。

 人間誰もがその額を疑い、どこかの国では「ワォ」っと驚きを隠せず。

 四月一日かと確認する人間も少なくはなかった。

 宝くじの一等額などたかが知れる。










 ―――










 誰もが疑った。 自分の目と、∞という額に。


 死ぬまで一生使い切れないお金を、自分の手に出来るチャンス。

 それは夢の様な、まさにメルヘンな額だった。

 でも、現実はそう和やかな空気など一切感じとれない。

 その大会に出場しようと、富豪から貧民までもがチェスを覚え、それは死ぬもの狂いで闘い……戦争の様な戦いが繰り広げられる。

 時には不正。つまりはイカさまをする連中も少なくはなかった。

 しかし、もし見つかれば逮捕され……最悪の場合、その場で命を落としてしまう人もいたことも事実。

 その戦いは……『チェス』は、世界をも動かす国民的スポーツとして話題になっていた。

 今宵も―――多くの国の『王様プレイヤー』は戦っていることでしょう……。



 「あら? もうこんな時間……。

 そろそろお稽古の時間のようです。

 また機会が訪れた時に、今度はゆっくりお話しましょう。

 チェスの話から、私が王族となった秘話まで。

 ……『興味ない』? あらぁ、それはまた残念なこと。

 ではまた、『あの世界』の続きをお話しましょう。









 約束よ」

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