The Story of Ark -王無き世界の王の物語-

わにたろう

あの日の記憶

 あの日の風の匂いを俺は覚えているだろうか?


 あの日も今日と同じように、この大陸の荒波へと足を踏み入れる、旅立ちの日だった。


 何もない穏やかな日常が当たり前だと思っていたあの日、俺はこの世界の恐さと現実を知った。


 ただ過ぎていく日々の中で、この平穏がいつまでも続いていくのだと、何の根拠もなく信じていた。


 けれどたった一つの歯車が動き出した途端、次々と幾多の歯車と噛み合いながら動き始め、自分の力ではもう一つとして止められなくなってしまった。


 日常など、本当はどこにもないのだ。


 自らが常だと思っていることは、決して常などではなく、たんぽぽの綿毛のように吹けば飛んでしまい、バラバラに散りばめられて元には戻らない。


 散り散りになってしまった時点でそれはもう『日常』ではなくなってしまっているのだ。


 今の俺はには『日常』などというものはない。


 日々変わりゆく世界の中で、俺は変わらない『信念』を抱えて生きている。


 多くの者を失った。多くの者を傷つけた。それでも、多くの者とつながった。


 俺の信念の先に何があるのか。それはまだわからない。


 それでも、この先に一つの答えを掴めたのなら……。


 これは、そんな物語。


 一人の男の『後悔』と『その先にあるもの』の物語。

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