終わらない想いと始まらない想い

水無瀬

第1話(柳 灯)

「俺、遥のことが好きだ。」

ついに俺に死刑宣告が下された。


別に俺が男の幼馴染にコクられたわけではない。俺は灯で、遥はもう一人の幼馴染だ。今日はたまたま遥がいなくて、俺と奏二人の帰り道で、この発言だ。

「そうか。」

「なんでびっくりしないの!?」

「なんでって…。10年も前から知ってること今更言われても、って話だよな。」

半分本当で半分ウソ。知ってはいたけど、改めて言われるとめちゃくちゃ動揺している。その証拠になんか意味わからないドリンク買ってしまった。

「奏。飲み物交換。」

「なんで?」

「新商品にひかれて買ったけど、こんなの飲みたくない。」

「え?ちょっと待って灯!バナナシチューってなに!?」

「さあな?」

奏がガタガタ言っている間にさっさと灯が買っていたオレンジジュースを飲む。

「あー!」

「うるさい。」

「味覚の壊れた灯が飲めよ!」

「好き嫌いないだけでひどい言われようだな。」

とりあえず意味の分からない飲み物を奏におしつけることに成功した俺は、思わず地雷を踏みに行く。

「んで?何今更遥のことが好きだって?で?なに?なんの話がしたいの?どこが好きか?」

わざわざ自分で言っておいてすぐに後悔した。しかし奏は俺の後悔には露ほども気づかない様子で

「遥の笑顔はいつだって俺たちに元気と勇気をくれた。俺はあの遥の笑顔を誰よりも近くで…。というか、ほかの誰かにあの笑顔を取られるのが嫌だと思ったんだ。たとえ灯、お前でもな。」

俺たち、と言ってる時点で大体わかってるんだろ、奏。

「今更独占欲かよ。」

俺は小さく笑い、負けを悟った。

俺が遥に抱く想いと、奏が遥に抱く想い。

そして奏は嫌味なほどに容姿端麗、スポーツ万能、性格もいい。それなのに嫌味じゃない。そういうやつだ。

(俺もわりとやれるほうだと思うけど、何をやってもこいつに勝てる気がしない)

勝てない相手で大親友、そして間違いなく、俺にとって一番愛しい人を幸せにする男。まだ高校生の身空で、それを確信させるのが高浪奏という男だ。

それならば、馬鹿で傲慢なことは分かったうえで、身を引くしかできない。

「お前の気持ちに気づいていなかったのはお前と遥くらいだ。…俺は遥を泣かせないってお前が約束する限り応援するさ。」

「遥泣かせたら暁人クンも怖いしな。約束するよ。」

こんな約束をまじめに成し遂げてしまうのが奏だ。こいつが少しでも泣かせたら奪い取りにでも行けるものを。

18にもなって子供みたいに嘘を知らずに純粋でまっすぐだ。

「ありがとな、灯。」

「…なにが。じゃあな。」

「ん、また明日。」

別れを告げ、奏と隣の家に入りながら俺は思う。

”もう誰も好きになりたくない”

こんなにも好きな相手で、こんなに焦がれた相手にも俺は手を伸ばせない。こじらせた恋は伸ばせばつかんでくれるであろう手を伸ばすことができないほど俺を臆病にした。

伸ばそうとした手が、あたりを必死で探って手に入る人はきっと俺にとって”2番目”になってしまう。

始めることも終わらせることもできなかったこの想いはずっと俺の視線の先にあるから。

こんな苦しい想いはもうごめんだ。

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