第29話 わたおに(サドマゾ)
「リツ、落ち着け」
おにいはわたしを剥がそうとする。
「オレはマゾじゃない」
「それはわたしが決めるんだよ?」
抱きついた身体を押し返そうとする手が、わたしの薄いおっぱいに触れていて、全身にビリビリと電気が走ってるみたいだった。
「決める? なに言って」
「ほら」
逆におにいの手を掴んで、揉ませようとする。
「! ご、ごめっ……」
「謝っちゃったからマゾ」
引き下がろうとするおにいの身体を押し倒して、わたしは言う。強引に触らされてるのに、罪の意識を持っちゃう。期待してるから。
「いや、言ってる意味が」
「おにいの方が力が強いんだよ?」
言いながら、ワンピースの背中に手を回して、上半身をはだけさせる。細くて引き締まった身体だ。首はやっぱり男の首で、鎖骨も力強い、でも、非力な妹の前に力が入っていない。
「わたしを突き飛ばせば逃げられたじゃん?」
「そんなことするわけ」
「じゃー、されるがままってこと?」
わたしはおにいの胸元に顔を埋めて、乳首を舐める。しょっぱい。かなり汗かいてるみたいだ。色はそっくり。だったら、きっと感じるところも似てるはず。先っぽを引っ張って。
「リツ!? やっ……」
「わたしの舐めてくれるならやめる」
おにいの言葉を潰して要求を突きつける。
「へ?」
「あっれー? もしかして、女子の乳首舐めるより、自分の乳首舐められたい人?」
「ち、違っ」
「そーだよね。わたしの乳首舐めたいよねー?」
わたしはそのまま這いずって、おにいの顔の前におっぱいを持って行く。裸で目の前にいるのに、明らかに視線を向けないようにしてた二つの部分、意識してるのはまるわかり。
「……」
おにいの目が、止まった。
「どーぞ?」
「だめだ。リツ。オレは、ぐっ」
わたしはおにいの乳首を抓った。
「舐めなきゃ、ちぎり取っちゃってもいーんですよー? 必要な器官でもないでしょーし? これからおにいが人前で脱ぐ度に、わたしがつけた傷跡が晒されるのかと思うと、それはそれで?」
「リツ、聞いてくれ、オレは」
「勃起してますねー?」
わたしはスカートをめくって、おにいの下半身を露出させる。カメラ越しに、ヒロヒロやミコシーの視線も釘付けになってるはずだ。開発してない男には入らないから、まず間違いなく童貞の、おっきいおにい。
「なんでですかー? マゾだからですよねー?」
「これは、そうじゃなくて」
「わたしのこと好きだからでしょ?」
おにいの言い訳をわたしは許さない。
「好きなんでしょ?」
「……」
わたしの言葉におにいは答えない。
「好きな子のおっぱいが目の前にあって、舐めてもいーって、だからおっきくなってるんでしょ? それって恥ずかしいこと? 口に出して認めてよ。そんなの怖がってるだけだよ」
「妹として、はぐっ」
わたしはおちんちんを指で弾いた。
我が兄ながら頑固すぎる。ナルセンにタケシ、好きでもない男に抱かれた後に、好きな女が裸で目の前にいたら妹とかなんとか別にして襲いかかるべきだ。妹じゃなかったら怒って帰ってる。
それでも好きなんだけど。
「おにいってば、そーゆーこと?」
わたしは作戦を変更する。
「は?」
「マゾだから、妹に犯されたいってこと?」
「!? なに言って」
「しょーがないなー。童貞だもん。一足先に大人になった妹が筆おろしをしてあげよーじゃないの。よーく見ておいてねー?」
「待ってくれ」
腰をあげようとしたわたしを、おにいが抱き留めた。やっと自分から触ってくれた。回された腕の温度に、背骨がとろけて倒れてしまいそうな気持ちになる。
「気持ちを落ち着ける時間をくれ。考えがまとまらない。勢いでどうこうしたくない。大事なんだ。リツのこと、大事にしたいんだ」
「ねー、おにい?」
わたしは、抱きしめ返す。
もう逃がさない。
「どんなわたしでオナニーした?」
「え? いや? 話を聞いてたか?」
「ずっと考えてたんだけど、おにいがわたしを意識したのってたぶん、小学五年のときじゃない? 一緒にさ、市営プールに行って」
「ちょ、ちょっと待て、なんの話だ急に」
おにいが真顔になって起きあがったので、わたしのおしりの間におちんちんが当たった。これでより反応が楽しめる。
「わたし、あの年、はじめて自分で選んで水着買ったんだよ。セパレートで、ふりふりのついたやつ。それでウォータースライダーに乗って」
おにいの角度が高まった。
「上が脱げちゃったんだよねー? 下で待ってたおにいが慌てて水着を渡してくれたけど、そのときよく思い出したら前屈みで」
「き、記憶の改竄があるな」
おにいが真っ赤になっていた。
「こっちじゃないかー」
わたしは動じない。
ネタはいくらでもあるのだ。
「その年の冬にスキーに行ったときかなー? 家族風呂のある温泉旅館で、わたしはなにも考えずに一緒にお風呂に入ったけど、おにいはすぐ上がっちゃって、その夜に隣の布団でごそごそしてたかと思ったら、わたしの方に入ってきてー」
「それは違う。リツの寝相が悪くて」
「あーあー、そーだったそーだった。わたしがおにいの布団に転がり込んだら、抱き枕にされちゃったんだった。そのとき、硬くなってたよねー。覚えてる覚えてる」
「かっ」
「これもちがう? ちがうかー」
否定したそうなおにいを無視して次のネタ。
「小学六年かな。わたしが熱で学校を休んでー、おにいが給食のプリンを持ってきてくれたんだよね。それで、食べさせてくれて。ひとくちか、ふたくちか、でもわたしモーローとしてて、なんかおにいがスプーンを舐めてたよーな記憶が」
「な、舐めてない、舐めそうに……舐めてない」
おにいの否定が怪しくなってきた。
「あー、ちがう、もー意識してるもんね?」
そろそろ決定的なの出そう。
「あー、小四だ。思い出したよおにい」
「もういい。もうわかったから」
そう言うおにいの角度は高まったままだ。
「はじめてケータイ買ってもらったときだ。面白がって二人で写真撮りまくって、なんかおにいが急に脱いで、オレの裸を撮れ、とか言って。わたしが笑いながらすっごい撮ったら、次はリツだって。それでわたしが脱いで」
「……」
おにいが言葉を失った。
当たり。
「そーだそーだ。そのときだ。あれだよ。おにいよりわたしの方がインモー生えるの早くて。脱いだらビックリしてたんだよね。うっすらあって、お互いのケータイで撮ってたのに、おにいはこっそり写真をメールで送ってー」
わたしは言いながら、おにいのスカートのポケットを探る。スマホを後ろ手に取り出す。機種は一緒、ロックはされていたが、別にパスなんてテキトーに打っても当たる。
双子だからたぶん同じだし。
「えーと、きっと消してないよね?」
「! や、やめ」
奪われたと気づいても遅い。
「ほほー、リツフォルダがありますなー?」
しっかりしてるから、しっかり写真も整理してるのが仇となった。わたしはおにいの目の前で日常のスナップに埋もれた、わたしの裸を発見する。あどけない顔で、おにいに裸の写真を撮られた、いつかのわたし。
すっごい可愛い。これは惚れるわ。
「三回、機種変したのに残してましたねー?」
おにいの目の前につきつける。
「これで何回オナニーしましたか?」
「いや、あのな?」
「最近、いつしましたか?」
往生際が悪い。
「さ、最近はない。最近は……」
「その否定の仕方はあやしーよ? あれ? もしかして、マゾじゃなくて、ロリコンでした? そーいえば、さっきロリコンについて熱弁してなかった? 妹が好きっていうのはカモフラージュで? 女装して女児を油断させよーって言う高度な戦略? 犯罪をするのに妹が恋人だと邪魔だから近親相姦を避け……んむ」
「……」
おにいが、キスしてきた。
やっと、してきた。
口を塞いで黙らせるためにするには長い、と感じたのはわたしだけではないはずだ。座って抱き合いながら、開いて合わせた唇の間を、舌で埋めて、絡め合う。
鉄の味、殴られて出た同じ血の味。
「は、ぁ」
キスだけでイった。
信じられないぐらい、高ぶってる。
「ロリコンだったら良かった。そう思う。こんなバカビッチに惚れてるなんて、変態より恥ずかしいよ。どうかしてる」
おにいは憎まれ口をたたく。
「でも、恥ずかしいのがいーんでしょ?」
「あ……ああ、マゾだからな」
わたしたちはそうしてやっと結ばれた。
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