第11話 思い出(レイプ)
シャワーを浴びて夕ご飯を作る。
「リツさん、料理するんですのね」
ミコシーは慣れた様子でお米を研いでる。
「両親共働きだから、ちょーっとはね」
わたしは野菜をざくざく切る。
「家の手伝いすればお小遣いも貰えるって理由だから、働いてるミコシーに比べたらぜんぜん」
大したことはできない。でも、調味料をちゃんと使えば大概はごまかせる。おにいは大雑把すぎると文句を言うけど、繊細に作ったところで、三十分もあれば食べてしまうのだからいいと思う。
「ただいまー」
「おかーさん、お帰りー」
時計を見ると六時半。
「つかれたー」
「お久しぶりです。御子柴レンです。覚えていらっしゃいますか? 今日はリツさんに誘われてお邪魔させていただいて」
いつもどおりに帰ってきた母だが、ゆったりめのわたしの服をさらりと着たエプロン姿で出迎えたミコシーを見て目を丸くする。
「まー、お母様に似て美人になって。ええ? ええー? あのレンちゃんなの。まーまーまー」
「おかーさん、ミコシー困ってる」
ぐるぐる周りを回って全身をじっくり見るとか恥ずかしい。確かに同じシャワーと石鹸を使ったのになんか匂いが違うのを感じたけど。
「モモさんはあまりお変わりなさそうで」
「そうでしょう? 努力の成果なの」
お世辞をそんな風に受け取る親は恥ずかしい。
昔からわたしの友達に名前を呼ぶように言って聞かせる母だった。わたしたち双子同様に童顔で年齢不詳な感じはするけど、娘の立場からすれば、ちょっと元気すぎだ。
夜の生活とか。
「しかし、リツも中々やるわね! 同じクラスになったとは聞いてたけど、まさか恋人にしてくるなんて思わなかったわ! グッジョブ!」
「おかーさん!?」
どこでバレたんだろう。
「あ、あのモモさん……」
「いいのよ。うちはウェルカムだから」
慌てて言葉を探すミコシーに母は笑いかける。
「お母様のことも知ってます」
「そ、そうでしたか」
ミコシーもそう言われては頷くしかない。
正直なところ、娘に手ほどきしちゃうような母親になっちゃったのはうちの変態のせいじゃないかと不安になる事実のような気がする。深く追求したくない。
「あ、いいものがあるわ。少し待ってて」
「いいもの?」
「たぶん、悪い意味でいーものだと思う」
わたしは言った。
バタバタと寝室に駆け上がっていく母に嫌な予感しかしない。あんまり友達を家に連れてきたりしないから、はしゃいでしまうのかもしれないが、それでどん引きされても困るのに。
「あったあった」
しばらくして、母はクッキー缶と紙袋を抱えて戻ってきた。これから料理を出そうと拭いたばかりのダイニングテーブルに古そうな缶を乗せて、開けてみせる。
「ほら、レンちゃん」
見せたのはプリントアウトした写真だった。
「あーっ! す、すごいですわっ!」
「……」
喜ぶミコシーの横でわたしは硬直。
「ほら、リツさん。先ほど言ってたのは」
「うん。これだね」
記憶にないファーストキス。
だらしなくおなかを出して仰向けに寝ているわたしの上にお人形さんのようなミコシーが乗っかって顔を掴んでブチューっとしているシーンが何枚も連続で撮影されている。
何度も何度も、キツツキみたいにキス。
抱きしめたり、服を脱がそうとしていたり、子供同士でやっていると思えば微笑ましいショットかもしれないけど、現実に同性愛者に育って身体を重ねた後だと、ほぼほぼレイプだ。
想像してたよりガチ。
「レンちゃんにあげるわ」
「ありがとうございますっ! 宝物ですわっ!」
娘の同意を取ってからやって。
「リツのことよろしくね」
「……」
もう別にいいけど、娘をよろしくする相手を間違ってはいる。四歳とか五歳で完全に性に目覚めてる子ってかなり怖いよ。ホラーだよ。
「あとリツにはこれ」
そして母はわたしに紙袋を手渡した。
「なにこれ?」
袋の中にはリボンがかけられた細長い箱が入っていた。パッと見、バレンタインデーギフト的な雰囲気がある。時期にはまだかなり早いが。
「未使用だから、安心して」
「う、ん」
耳元でこっそり囁かれて、察する。
それからおとーさんが帰ってきて、ご飯が炊きあがるのに合わせて夕ご飯になった。両親がなんとなくもうわかってる空気を出すのがムカつくけど、それなりに和やかなムード。ただ、おにいだけは言葉数が少なかった。
相当、堪えてる。
「やっぱりー」
部屋に戻って、母からのプレゼントを開けると、予想通りアダルトグッズだった。いわゆるペニスバンドだ。すっごい黒光りしている。だれがだれに使うつもりで買っていたものかはあまり考えたくない。想像はつくけど。
しかし、太くないだろうか、これ。
「……」
ミコシーがものすごい熱い視線を送ってる。
わたしに使うことを妄想してるのか、使われることを妄想してるのか、両方なのか。女同士におちんちんは要らない派ではないらしい。この辺りの機微はよくわからない。わからなくてもいい。
「は、はじめて向きじゃーないよ、これ?」
わたしは言う。
「そ、そうですわね」
頷いたけど、ミコシーは残念そうだった。
「やっぱり、最初は二人で選ぼーよ。そーゆーの大事だと思うから。かわいーのとか、なんかあるでしょ。思い出の品になるんだし?」
自分で言いながら疑問だ。
たとえば、二人がこれからも末永くつきあっていくとして、それを後生大事に取っておくことになるんだろうか。時々取り出して眺めて、はじめてくん(仮)の思い出を語り合ったり?
ちょっとキモいかも。
「申し訳ありません。実は、わたくし、リツさんに使おうと思っていたものがあります。ですが、それはなんというかイボイボが……」
「うわーっ!?」
聞きたくなかったのでわたしはミコシーをベッドに押し倒した。えーい、ぶっちゃけわたしがミコシーを痛がらせるのはいいけど、痛がらされるのはヤなんだ。太いのもイボイボのも慎みある処女としてカテゴリーエラーだ。
モノよりナマミ。
本音はそこだったけど。
「リツさん。もう少しお静かにっ」
「あおーっ!」
おにいに遠慮はしなかった。
覗いた分、想像力も働くことだと思う。
「リツさん、起きて。朝ですわ」
「ん、んー? まだヨユーあるよ」
揺り起こされたのは朝の七時半、ミコシーはふわっふわの髪の毛を整えてもうすぐにも出られそうな支度を済ませている。
でも、わたしはまだ寝る。まだまだ寝る。
「相変わらずお寝坊さんですわ」
おっぱいをつつかれても起きない。
「もう。わたくしの眠り姫ったら」
キスされたって起きない。
「……」
股間をつつかれたって。
ヴヴヴヴヴヴ。
「ッ!」
「いい朝ですわ」
ミコシーは小型の電動マッサージ機を止めると、上品な微笑みを浮かべる。昨夜はそんなの使わなかったけど、常時携帯してるの?
「破ろうとした?」
それよりも押しつけるとこ、違ってた。
「まさか、起きてからにしますわ」
「……」
二人で寄り添って登校する。
メールをチェックしてもナルセンからのものはなし。諦めちゃったのだろうか。それともこの状態で日曜のデートの約束が生きてると思うほど悠長な人なのか。煩悶して動けないのか。
わたしが焦っちゃあべこべだけど。
「だれかからの連絡をお待ちですの?」
「そー見える?」
わたしはビクっとした。
ミコシーの声が、少し冷たかったからだ。
「頻繁にチェックしているように感じられますわ。教室でもあまりケータイに触られないのに」
「よく見てるね」
さすがはガチ重症患者。
「あと、デートの約束はもちろん?」
「ん、わかってる」
日曜までに動きがなければキャンセルにはなる。いざとなってもミコシーはバイトだからダブルブッキングはない。二股ってめんどくさい。こればっかりは仕方ないんだけど。
「リッちゃん、と御子柴さん。おはよう」
「ヒロヒロ。おは」
「おはようございます。広瀬さん」
腕を組んで現れたわたしたちに教室内がどよめいたけど、ヒロヒロが明らかに不機嫌そうなことの方が気になった。いつもはなにかしら話しかけてくるのに、すぐ背を向けて座ってしまう。
「……」
うーん。
友達を取られた的なことかな。これはフォローが難しい。クラスが一緒だからミコシーを外すこともできないし、SNSのやりとりもお互いあんまり好きじゃないから不自然だし。
一限がはじまる直前にナルセンからメール。
昼休みの呼び出しだった。
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