正義をつらぬく二重仮面《セカンドサイド》

小椋鉄平

第1話

正義とはなんだろうか…。

別に正解など求めてはいない。


少年は幼げにこう考える。

平和であればいいのだと…。


では、平和とはなんだろうか。

戦争を起こさなければ平和なのだろうか。


まだ分からないかと目の上にいるヒゲを生やしたおじさんは頭を掻く。


おじさんはどう思うか尋ねる。すると驚いたようにしておじさんは口を開く。


「私か。私は自分自身が正しいと考える行動をすること。これが正義だと思うよ」


その時俺は確か……


………


……きて


…きて


「起きなさい!」


「へぶぅ‼︎」


俺は腹に肘打ちをくらったようだ。

「ぐ。なんだよ!いてぇな!」


当然のごとく抗議する。


「あんたがちっとも起きないからでしょう。私は“あの子”に遅刻させないように言われてるんですから」


「くそっ!あのやつ…」


起きてしまったものは仕方がない。あんなきつい起こし方されて二度寝なんて気が進まなくなる。


仕方なく部屋を出て食堂へ向かう。

俺が住んでいるのは寮だ。今は住まわせてもらっている。


「よぉ、また寮長に変な起こされ方したのか?ひでぇ顔だな。鏡、見てきた方がいいぞ」


「んなもん、日に浴びてりゃ直る」


といった感じで周りとはあまり関わろうとしないのが俺だ。

周りとは違う俺でありたかった。というよりも俺はそいつらとは同列に扱ってほしくなかった。


友達など一時の持ちつ持たれつの関係でしかない奴らばかりだ。一旦卒業などで別れてしまえばそれっきりだ。


俺は出されたご飯を素早く食べ終える。


「ごちそうさま」


と言い捨てすぐに立ち去る。


寝起きこそ悪いが、一度エンジンがかかれば人よりも行動は早い方だ。

すぐに部屋で支度をしてさっさと寮を出て行く。


ここ、“ドリューブル”は治安というか騎士団が常駐していないために魔物がヒョッコリ現れることがあるため住民は武器を携帯することが当たり前になっている。

もちろんのこと俺も腰に据えている。


この悶々とした感情をなんとか晴らしたく早く寮を出た。

基本的に学校ではひとりだ。かまってくれる奴らがいるから不自由したことはないのでこれまで引きこもりにならずに済んでいたが…。

それも去年までの話。

俺は立ち止まり、上を見上げる。


この“クオーク学園”にあいつらは居ない。

この学園は特別な者だけが入学を許されていて…、よくわからんが俺は合格した。


「はぁー」


俺はてっきり不合格だと思って志願書を出した。その経歴の欄には何も書かなかったのにだ。

逆になぜ受かったのか聞きたいぐらいだ。


そう思いながら慣れてない校門をくぐった。


今日も何も起こらないことを願って。



俺は二階に上がり、直ぐ手前にあるドアに手をかける。


(ん、誰かいるな。いつもはいないのに…まぁそういう日もあるだろう)


俺は気にせず扉に力をかける。ガラガラ…と言って扉が開くと俺の方を向く。

そして俺だとわかるとパァと笑顔になった。


(…な、何この子、え、ちょっとその視線やめてもらえませんかね!)


「ええと、どうかしたか?」

「え、あっ、こ、これは特にたいしたことはなくて…あは、あははは」


俺は思いっきり?を頭に浮かべている表情を見せるが詰問もできそうにないので「あ、そ。」でこの会話を終わらせることにして自分の席に向かう。


俺の席は教卓から見て右奥。一番そこが俺にとって落ち着く場所だ。気に入っている。

カバンをそこに置き椅子を引いて座る。


「…」


俺は真ん中辺りに座っている彼女を観察していた。


(なんなんだあいつはクラスでもぼっちな俺にわざわざ話しかけるなんて…しかも適当に終わったし…ったく訳わかんねぇぞ)


俺は無理やり彼女から窓に視線を変える。


ちょうど人の集団が見えていた。

今日も退屈で暇な1日が過ぎていく…。



窓の外を見ながら授業をBGMのように聞き流す。


やがて鐘が鳴り響くとようやく昼となった。

俺は席を立ち、ゆっくりと購買部に向かう。

購買部はこの教室の下の階の奥にあるためこのクラスからでは絶対に目玉商品を手に入れることは運が良くないとできるものではない。

それこそ、他のクラスより早く授業が終わるようなことが起きない限り。


俺はごった返している購買部に向かって特攻を仕掛ける訳ではなく…。


「おばちゃん、いつもの頼むわ」というだけで…。


「はいよぉ〜」


といつものクリームパンとおまかせの1つが入った袋が投げられる。


俺は横から金を置き、礼を言って立ち去る。別にクリームパンであれば誰も文句は言わんだろう。

だが、購買に背を向け立ち去ろうとしたその時購買から離れた階段から購買に向けて特攻するバカがひとり。


「オラオラオラオラー!」


身体能力の良さがわかる無駄のない走りなのだが…それを使う目的がとても残念なやつだと思った。

そいつはごった返した集団に突っ込む…が、もちろん誰もが想像できる結果になった。


「ぐはっ!」


そいつは結局パンにありつけなかった。

俺は傍観者のつもりでここを去ろうとする。


だが。


「ううう…」


ヤツが俺を見てる。とても羨ましそうな目で。


(う、まずいな)


すると周りからも視線が飛んでくる。

俺は脱力して、そいつの前に歩み寄る。


「……食うか?」


俺はおまかせのパンを1つそいつに渡す。

そいつは俺の行為に感極まったのか、涙目になって俺を見上げている。正直さっさとおさらばしたい。

そいつがパンを受け取ったので俺は立ち去ろうとする。


「待ってくれ」

「…なんだ?」

「俺はハルバート・カルサリスだ。ハルと呼んでくれ。この恩はいつか返す」

「そうか」


俺はさっさと去りたいの一心でヤツから背を向けて歩き出す。


「待ってくれ。君の名は……?」


ハルがそう言って顔を上げた時にはもう俺はいなかった。



俺はさっさとあいつから逃げた。あいつに関わってろくなことはないだろう。


それよりも昼飯の時間がなくなるだろ。

そう思っていつもの屋上に向かう。


屋上はカップルこそいるものの穴場があるのだ。


俺は扉を開け、目の前にいるカップルには目を向けず裏に回る。

そこに隠れた風をしのげる場所があり、俺にとってはオアシスだった。


俺はそこでいつもの風景を眺めながら食べる。


風の音だけが聞こえてくる…。すると不意に思い出す。


……よ。お前に人とは逸した力があるとすればどうする。


……………………。


そうか、それもいいのかもしれないが困っている人がいてもしそなたの力が役に立つのならその人を助けてやりなさい。


おじさんとの約束な。


………。



なんて昔のことなのだろう。もう自分の発した言葉ですら覚えていない。


「あなたは……、あなたの力で人を救えるとしたらどうしますか?」


不意に違う音が聞こえてくる。俺はそちらの方に振り向く。


「………どうなのでしょうか?」


彼女が再び聞いてくる。


「俺は……力になりたい。もしその力があるのに…使わないのはもったいねぇよ」


「そうですか…ありがとうございます」


それが彼女の話したかったことなのだろうと思った。

彼女は「では」と言って屋上を後にした。


「そうだな。約束、だもんな」


空はとても青々していた。
















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