15/境界
階段を一つ登って二階に至った所で、アスミは立ち止まった。インヘルベリア先生と進藤真由美の姿はない。校内は薄暗く、電灯がついていない。
アスミは身体をかがめて膝立ちになると、廊下の床に人指し指と中指をつけた。その体勢のまま、しばし思案するような素振りを見せる。
その動作の意味が理解できないまま、ジョーは腕組みの姿勢で待っていた。電気が消えているのは何故だろう。そんなことを考えていた。
「ジョー君は、このまま二階を探してみて。私は、三階を見てみるから」
アスミから二手に分かれる提案がなされる。特に異論を挟む余地はなかった。ただ何だろう。昼間も気にかかったが、アスミはこんなにも、瞳に宿る生気が薄い女の子だったろうか。あくまで事務的な口調で。そして少女はこれから行動を起こすのだが、その行動は、特に喜びなどを感じる類のものではない。そんな態度である。ただそれは、想い出の中のアスミを美化しているだけで、この年齢で現実を生きている同年代の人間は、みんなこんなものなのかもしれないとも思う。そういうジョー自身が、人としての生気を快活に感じさせる人間かといえば、自信もない。
「それじゃ、ね」
そう言い残してアスミは三階に向かって階段を駆け上がっていった。
止むを得ないな。そこまで教師と生徒が、例え性的な意味だとしても、どうなろうと正直
十尺。そしてもう二十尺と進まないうちである。ジョーは、電灯が消えている廊下をかろうじて歩いていられるのは、外から月明りが射しこんでいるからだと気が付いた。
その月光に照らされた校内を意識した時に、何故か、心がざわついた。この感情は不安である。違和感が、ある。場所に、時間間隔に、そして、先ほどのアスミの態度に。彼女は、何かを理解して、ジョーを遠ざけようとしていなかったか?
ジョーは振り返ると、駆け足で廊下を引き返していた。
◇◇◇
途中。二階の廊下と階段の境目に、凝縮した風の壁があった。上体を起こしたままでは押し戻されてしまう。
徐々に、感じ始めた違和感が大きくなる。何か奇妙なことが起こっているのではないか。
ただ、風はジョーに敵意を持ったものではないように思えた。手をかざすと、呼応するようにいくぶん風の力が弱まる。
ジョーはそのままいつにない積極さで歩伏前進の体勢になると、風圧が一番弱かった風壁の下部分を突破した。
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