13/この国の
午後の講習も数刻前に終わり。学内には夕日が射し込む時間になっていた。
ここも、学校内の一人でいて心地よいスポットの一つ。グラウンドのネット裏に位置するベンチである。少し前まで部活中の野球部の掛け声が聞こえていたが、それももう静かになっている。ジョーは何だか家に帰る気分にもなれなくて、ボーっとしている。
少し、アスミとの思い出を手繰り寄せていた。例えば、街の図書館で一緒に借りた本を読んだこと。一冊の絵本を、二人で覗き込むように読んでいた。幼い時間だ。
本に描かれている空想は、ドキドキとワクワクに満ちていた。そんな夢物語に、胸をときめかせながら、ジョーとアスミは浸っていた。
ひるがえって今、現実のここにいるジョーはどうだろう。
心に帳が落ちていた。
勝利者、英雄、リーダー、お金持ち、アイドル、成功者、何でもいいが、例えばそんな強い人たちが時折見せるネガティブさは世界にとっては暗く伝播する出来事で、
今日の講習が終わってからこの時間まで、ずっとスマートフォンで聴いていた『亡き王女のためのパヴァーヌ』の旋律が、またリピートされてイヤフォンから伝わってくる。
夕日が、グラウンドを朱に染めていく。
子供の頃に夢に見た近未来とは少し違う街と、国と、そこに生きる人々。
二十年に渡る不況。疲れがちな表情。頑張るためのドリンク剤。大人たちはみんな、苦しそう。
でも子供だって苦しいことが多い。空瀬アスミもきっと、そんな厳しい世界に投げ出されて悩める子供の一人なんだ。十五歳という年齢は、時代が時代なら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます