231/聖女からの伝達事項(1)
「私達が生きている世界、『今、ここ』のすぐ近くに重なるように、『ここではないどこか』、そんな別の世界が存在している、そんなことを思ったことはないか?」
聖女・中谷理華の問いかけにジョーは応えた。
「ある」
それは例えば、何気ない「街角」の薄皮一枚をペリペリと剥がしてみると、そこには「紫の館」が存在している。かもしれない。そんな話だ。
「そんな世界が本当に存在しているのか。それは、人間側の『認識』に寄るんだ。認識できる者にとっては存在するし、認識できない者にとっては一生そんな世界は存在しない。
さて、ここ、片隅の島国の偏角の『S市』は、何故、こんなにもオントロジカが豊かなのか。それは、『認識』にまつわる『奇跡』が集積しているからだ」
「『奇跡』?」
「『
「『
「イメージとしてはだいたい合ってる。そして、観測済みの『奇跡』のいずれもが、ある個別の『
アスミから、S市のオントロジカは世界の他の場所と比べても豊かだという話は聞いていた。しかし、アスミはその理由までは心当たりがないようだった。理華は、何かこの地の
「S市に古くからある三つの武家。それぞれが一子相伝で各々の『認識』にまつわる
認識を操つる
「続いて、弓村の『映認』の方から。これは、『認識する力を高める』能力だ。常人よりも遠くのものを見ることができるようになったり、構造物の構成を正確に理解できるようになったり。彼方の星を認識できれば、極小の世界の成り立ちも理解できる能力。さて、これから君が『紫の館』に入ったら、最上階の望遠鏡を目指せ」
望遠鏡。確かにあった。気がする。ジョーはスヴャトとその望遠鏡を覗いて、「宇宙の果て」に関して語り合った。あの時、スヴャトはどんな話をしていたんだっけ?
「望遠鏡を君が再び覗いた時、『映認』を超えた『
「『全ての世界』?」
「現在、過去、未来。そして全ての可能世界だ。それらを一瞬にして『認識』できると伝えられている。
その『全ての世界』の中に、君が求めるお祖父さんにまつわる真実もある。だがね」
今宵の、聖女からの伝達事項の一つ目。そのリスクに関しては、話を途中まで聞いて、ジョーにも予想された事柄ではあったけれど。
「君という個人は、『永認』に耐えられない。『全ての世界』を見るなんて、一人の人間の容量を超えた事態だからね。だから、『永認』が発動したら、座標を意識するんだ」
――あらゆる世界全てを見渡せるとしても、本当の自分はどこにいたいのかをしっかりと持つんだ。
「じゃないと『永認』に飲み込まれる」
そのリスクを聴いてなお、ジョーはX――祖父にあった出来事を。歴史を。知らなくてはならないと思った。
巨大な機構を見栄えよく駆動させるために、消えた方が都合が良い部品があったとして。いざその
この気持ちはジョーの中心から来るものだ。姉のカレンに「全ての棄却される存在の味方」なんて呼ばれてから、ますます輪郭がはっきりとしてきていて、もう偽れない。
巡る世界とS市の関係について。覆われていたヴェールを少しずつ剥がしていく理華は、続く「破認」の話の前に、ジョーとも縁があるある真実を伝えた。
それはたとえば、「途切れない
「『映認』を覚醒させて『永認』という奇跡をこの世界に出現させた者の名は」
――『
それは、アスミの母親、人形師・空瀬アリカが一九九九年の七月に一度だけ本物を目撃したという神秘の少女。彼女が創り上げた最高傑作『理想的な人間像』の
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