202/能力の死角

 大白山の中腹に位置する神社までの、軽い登山が要求された。


 体が動かないアスミを移送しながらの道程となった。前方に理華の側近の男、後方にジョーが付く形で、登山用の担架にアスミを寝かせて、夜中の山道をゆっくりと歩いた。


 道中、ポツポツとアスミは語り始めた。


「いつ、『私』が途切れてしまうか分からないから、優先順位が高い話から」


 アスミがスゥと息を吐く。


「敵。真実大王ヴァルケニオンの能力について。文字通り、地球上のあらゆる存在・概念に勝利する反則的な能力。おまけに結界系で、範囲は地球全部。使用可能なオントロジカの量もほぼ無尽蔵。だけど」


 アスミは続けた。


「既存の歴史上の戦艦を破壊した時と、志麻の小竜を破壊した時とでは、能力の発動から、実際に破壊が生じるまでに、タイムラグがあったわ。後者の方が、時間がかかってる」

「どういうこと?」


 担架の横についていた志麻が尋ねた。アスミがこくりと頷く。


「能力を発動してから、実際に破壊のプロセスに入る前に、あいつは、その相手を『知悉ちしつ』してるんだわ。つまり、相手がどんな存在かを大王自身が把握してからじゃないと、破壊のプロセスに移れない」

「例えるなら、あの一瞬。大王は結界領域内。つまり地球上全部を『検索』して相手の存在を特定しているということ?」


 志麻がギークらしい例えに言い換える。


「そう。歴史上の有名な戦艦はすぐに検索にヒットするのだけど、志麻の小竜は志麻の頭の中にしかなかった概念だから、把握して、言い換えるのに、少しだけ時間がかかったんだわ。私の『氷』が一時的に効いたのも、同じ理屈」

「未だこの地球上に存在しない類の概念を使った技だった、ということ?」


 志麻もアスミが使用した「氷」という技に関しては詳しく知らないようだった。


「そう。『温度的な凍結概念と時間的な凍結概念が関連している』ということについて、現行世界を検索しても出てこなかったんだわ。私の心象にしか、なかった概念だから」

「そうなの?」

「私、科学者じゃないから、客観的な『真実』は分からないわ。でも、なんだか大王に『氷』は効いたわね」


 ジョーは無言でアスミと志麻の会話を聴きながら、もう一つのこれまでアスミに聞きそびれていた事柄について想いを馳せた。


(「時間」だって?)


 つまり、「アスミの本質能力エッセンテティアとは『自然を操ること』ではのではないか?」という疑念である。


 大王の能力に弱点らしきものがあるのは喜ばしい事であるはずなのに、ジョーの心は曇ったままだった。


 やがて、一向はアスミの秘密が集積する場所。大白山神社に辿り着いた。

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