158/暗闇の中で繋ぐお互いのアカリ(第七話・了)

  ◇◇◇


「お待たせ。って、百色ちゃんは?」


 しばらくするとアスミが戻って来た。ジョーとしてもまだ気持ちがフワフワしていたので、こう応えておくに留めた。


「還っていった」

「そう。もう夜だものね。百色ちゃんもお疲れ様だったわね。こっちは、思ってたより楽しかった福引の特賞で面白かったけど」

「アスミ」


 宙へと煌めきながら登っていった百色ちゃんを見て湧き出してきたことがあったので、伝える。


「今朝言ってた本の題名、思い出した。『宇宙のみなしご』だ」

「おおっ。ソレっぽいわね。深夜に、家の屋根の上から夜空を見るシーンが、印象に残ってるのよね」

「作者名は、と」


 スマートフォンで検索しようとしたジョーの手に触れて、アスミはジョーの動作を制した。


「今すぐ、全てを明らかにしなくてもイイわ」

「そうか? 読みたかったんじゃないのか?」

「今度、図書館に行って探してみる。昔、実際に私達が読んでた本の現物が、まだあるかもしれないし」

「なるほど、あるかもな。色褪せてそうだけど、図書館だしな」


 やがてどちらからと言うでもなく、ジョーとアスミは堤防の舗装道を、家路へと歩き始めた。


「アスミ」

「何?」

「浴衣姿、可愛かった」

「バカ」


 川の流れに沿って、並んで歩くジョーとアスミを、星空だけが見ていた。


 ベガとアルタイルが印象的な夜空の下。二人で共有した記憶という光を標に歩いて行く先に、何が待っているのか、まだ分からないけれど。


 広大なる宇宙そらの下で。みなしごめいた自分って小さな光の頼りなさに不安になるけれど、隣に、丁寧に自分を見てくれている光がもう一つあると、ちょっとだけ勇気が湧いてくる。


 だから、七夕の今日という日の終わりに願い事一つ。


 できることなら、暗闇の中で繋ぐお互いのアカリ、ずっと続いていきますように。



  /第七話「百色の七夕」・了


  

  物語後半のプロローグへ続く

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