154/百色百光

 ジョーが貸衣装屋さんの前で百色ちゃんと並んで待っていると、やがてアスミ、志麻、陸奥の浴衣姿の三人娘が出てきた。


 志麻は紺色がベースのちょう柄のものを、陸奥はピンクがベースの牡丹ぼたん柄のものを身に着けていた。志麻の方は少し大人びた印象で、余裕を持って自然と着こなしている感じ。一方陸奥は、子供が夏祭りに着ていく類のヴィヴィッドさの延長で、志麻とは違う意味で似合っている。


 そしてアスミは、紫がベースのふじ模様というしっとりとしたものを身に着けていた。ツインテールにまとめてある黒髪はいつもよりも艶やかに肩口まで下がっていて、二つの瞳は漆黒。普段、動的な印象があるアスミは可愛らしいと言ってもそれは「弾む」美しさであり、周囲の世界に絶えず働きかけている。ところが本日の浴衣姿は「和」の美しさで、ただ静かに外の世界と調和している。


「どう?」


 先ほど自分の甚平姿をアスミに褒められて悪い気がしなかったジョーとしては、今度は自分の番だった。


「なんか、『橋姫』様みたいだ」

「広瀬川の? フフ。褒めてくれてる気持ちは伝わってくるけど、ちょっと縁起は悪いわね」


 S市の一級河川に橋を架ける際に、荒ぶる川を沈めるためにその身を人身御供に捧げたお姫さまの伝説がある。


 ジョーとしては、お姫様のような美しさといっても、それは権力や繁栄の写像ではなく、アスミのそれは何か失われるが故の儚さを伴ったものだ。そんなことを言いたかった。


 やがて、和装の男一人と女三人、謎のゆるキャラ的存在を加えて、ジョー達は歩き出した。そろそろ夕刻。周囲は薄闇と街の光とがコントラストを作り始めていた。


「エッフェル搭はどこにいるんだろう?」

「短冊が見たいって言ってたわ」

「今日、短冊だらけだろ」


 それでも何となく、エッフェル塔を追いながら、道に並んでいる笹の葉から下がっている短冊の「繋がり」を辿るように歩いて行く。


 街には百色の花が咲いている。人々の多様性だけではなく、道に並んでいる商品にも同様のことが言えた。こけし。玉虫塗。扇子といった伝統工芸品から、アニメ、ゲームのグッズといった最近のものまで。百色の形、百色の価値、百色の光がそこにはあった。


 街明りが輪になって繋がる七夕飾りに反射して、プリズムの道を作っている。そんな道路の向こう側から歩いてくる小さな隊列とジョー達はすれ違う。


「いやぁおぉぅっ!」


 すれ違いざま、提灯を持って先頭を歩いていた紫色のゆるキャラみたいな存在が片手を上げて声をかけてきたので、ジョーも片手を上げて返した。大きさは赤ん坊くらいだったので、自然と視線を下す形になる。


「オッス」


 小さな隊列は、寄り眉の犬、グリーン、黄色、ピンクの、先頭のゆるキャラと同系の何か、体表がテカっているカラアゲ、小さな竜と続いていた。


「志麻? さすがに今の人? 達はどういうことなんだ? あれだけ小さいと、中に人とか入ってないよな?」


 こちらも正体不明の百色ちゃんを連れているし、陸奥にいたってはその正体は古の戦艦である。人様のことは言えないが、不思議だった。


「アレは、CGよ」


 そんなジョーの疑問に志麻が答えてくれる。


「先頭の『よちよち』した感じの子が提灯を持っていたでしょ。アレがCGの生成装置なのよ」

「へぇ、俺達、未来を生きてるな」


 考えてみると、数年前まではスマートフォンも普及していなかった。海外とタイムラグなしで動画をやり取りできるようになったりしたのも、つい最近のことだ。ジョーが知らない間に、世界の方で色んなことを可能にする何かが進んでいるのは、十分に考えられた。


 それぞれの色と模様を纏った女の子から、異国風の顔立ちの和装の少年、後ろを付いてくる全体的にやる気が感じられないゆるキャラ的な何かの一団が、謎のCG的な存在の隊列と交差したりする七夕の日の街角で、やがて短冊の連なりに導かれるように、その人とも再会できた。


 駅前のメインロードの入口の横で、久寿くす玉飾りを見上げている金髪のお姉さんは、これまた謎の存在だった。


「エッフェル搭さん」


 志麻が声をかけると、エッフェル搭は振り向いて、現れたジョー達の一団に優しい眼差しを向ける。


 街と空の境目を覆う七夕飾りと、それぞれの本懐を時に弾ませ、時に調律させている道行く人々をバックに、金色のエッフェル搭はジョー達にこんな感想を伝えてくれた。


「今宵、この地のオントロジカが豊かな理由が、ちょっと分かったよ」

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