153/夫婦みたい

 志麻がジョー達と待ち合わせ場所として選んだのは、駅方面にあるS市の観光局由来の建物だった。ビルディングの中に入っていくと、七夕の日らしく、雑多な人々が雑多なままにそれぞれの時間を過ごしていた。


 土産物を販売している店員さん。地域復興関連の真面目なパネルを展開している人々。近隣の海の幸をアピールするご当地アイドル。ゆるキャラ。エトセトラ。


 それら送り手の人々のみならず、受け手として場を訪れている人々も十人十色。家族連れ。ベビーカーを押している人。車椅子のお年寄り。地元の人。異国からの観光客。力士。オタク風の人。仮装してる人。エトセトラ。


 突き詰めるとそこに送り手と受け手の区別はなく、さらには各々の活動において、押し付け合うような我の張り合いもなかった。天井からは地域のボランティアや地元の子供達が作った、色とりどりの輪になった七夕飾りがぶら下がっている。今日、場に存在する百色の光すべてが、静かな祝福に包まれている。  


 そんな中を、志麻と陸奥は、出会う風景一つ一つに少しずつ視線を分け与えながら、奥へと進んでいく。


 一階の奥のオブジェの前に、志麻にとっての大事な二人もいた。甚平姿のジョーと、普段の洋装のアスミが寄り添って立っていたのだ。


(なんか、夫婦みたい)


 それが最初に出てきた感想だが、同時に惜しいものを感じた。個人のモードとしても場との調和の観点からも、ジョーの和装が行き届いているのに対して、何故か感じてしまったこの「非対称」な印象を受ける違和は、アスミに要因があるように思う。


「宮澤君、カッコつけちゃって」

「志麻? エッフェル搭は?」

「ちょっとはぐれちゃった。街を感じたいとか言って」

「あいつ、自由だよな」

「ムっちゃん? 酔ってるの?」

「酔ってませんよっ。ビール一缶と、途中で配ってた甘酒だけですから」


 思い思いの言葉を発し、噛み合ったような噛み合っていないような現状確認が成された後、とりあえず志麻は提案してみた。


「アスミ。私たちも、浴衣着てみない? そこに、貸衣装屋さんあったから」

「ええっ。何か志麻がそういうこと言い出すの意外だわ」


 志麻なりの、感じてしまった「非対称」をあるべき形に戻す試みである。ただ、アスミの態度は少々消極的だった。


「うーん、私はちょっと。お金もかかるだろうし」


 アスミがそう提案を却下しかけた所で、ヌっと四人の中心にくすんだ黄色の手が出てきた。ようやく志麻もその存在を認識する。百色ちゃんである。リンクドゥで成り行きは連絡を受けていたが、本当に一緒にいたんだ。


 百色ちゃんの手には、万札が握られていた。


「ええっ」


 驚くアスミに対して、陸奥が百色ちゃんのやる気が感じられない目をじっと見てから言った。


「詳細は存じませんが、体を洗ってくれたお礼だそうです」

「ムっちゃん。百色ちゃんの言葉が分かるの?」

「何となくですっ」


 テヘヘと笑顔で返す酔いどれ戦艦に、そういうものなのか? とアスミは酔っ払い同士が何だか分かり合っているのを、ちょっと引いて見てる素面しらふの女子のような反応を返す。


「いいんじゃない? たぶんこのお金、イベントの賞品に含まれてるのよ」


 そういった志麻の見解に加えて場の雰囲気に押されて、結局アスミは少々困惑しながらも浴衣を着ることに同意した。


 実は志麻自身も、自分がこんな積極性を見せたのをちょっと意外に思っていた。


 でも何だろう。和服のジョーとアスミを並べて、自分はそんな二人を眺めながら少し後ろを付いて行きたい。


 そんなことを、思ってしまったのだ。

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